第2話 女神様のご慈悲? その2
織田は自分が真っ白な空間にいることに気が付いた。今いる場所がどこなのか、まったく見当もつかなかった。周囲を見渡すと視線先に建造物が見えた。人工的な建物を見て、少し安心した。建造物に近づくとそこには五メートルはある白い石の柱が左右均等に並び、石造の三角の屋根、地面にも白い大理石が隙間なく敷き詰められていた。白い石柱には細かい彫刻が施され、まるで、ローマの神殿のような芸術に織田は目を見張った。
石階段を進んでいくと左右に置かれている篝火に火が灯る。まるで、導かれている様に気が付けば階段をのぼっていた。
階段をのぼりきると殺風景な拓けた場所に出る。そこに一つの円卓の机が置かれていて、金色の長髪の絹の衣を着た女性がすらりとした足を組んで椅子に座り、本を読んでいるようだった。ページをめくる音が聞こえる。それほど、静寂な場所だった。
金髪長髪の女性は織田に気がつくと口を開く。
「これがあなたの書いた物語ね。とても興味深いわ」
顔を上げて微笑むその優しい眼差しは誰なのかなんとなくわかった。知的な面立ち、清楚な雰囲気は女神様なのだろう、とそう思った。悪魔のはずが無い。
「……あ、えっと、俺は……」
「どうぞ、おかけなさい」
そういって、椅子に座るように促される。何が何だかわからなかったが、とりあえず、椅子に座ることにした。女神らしき女性は再び、視線を本へと戻し文字を目で追っていく。クスリと笑った。
「あなたは創造者なのね」
「そ、創造者……?」
唐突に「創造者」と言われて、素っ頓狂な声が出た。あまりにも恥ずかしくて、顔を真っ赤にしてしまう。
「そう。世界を創りし者。運命を決めし者、時に慈悲深く、時に残酷な試練を与える者」
「え、世界を創りし者……?」
まったく、話の内容が理解できないでいた織田だったが、それに女神らしき女性が読んでいた本を持ち上げて表紙を見せてきた。表紙にはイラストが描かれていて、タイトル名も見えた。
「あっ!」
見たことがある、いや、自分でイラストレーターに依頼して表紙を描いてもらったのだから間違えようがない。
「それ、もしかして、俺の白狼騎士団戦記?」
「そうです。あなたが書いた本です」
織田は目をひそめた。自分の記憶では「白狼騎士団戦記」を書籍化した記憶がなかった。
「エレノア・シュタインベルグって女性、とても面白い性格ね」
自分の設定したキャラクターに興味を持ってもらった事が嬉しくなり、織田は自慢げな顔で説明する。
「そうそう、無鉄砲で、短気で、すぐに手が出ちゃうやつでさ、しかも強いんだよ、これがって、おい、そうじゃなくて、一体なんなんだ、ここは?? 何が起きているんだ?? 教えてくれ」
織田の訴えに女神らしき女性はおもむろに本を閉じ立ち上がると右手を虚空へと出した。すると何もない空間から突然、光の結晶が集まり始め、杖を形成しはじめる。これまた白い杖だ。杖の先端には大きな淡い光を放つ水色の球体があった。
これが、魔法の杖、というやつだろうか、そう織田は理解した。
杖の石突きで、大理石を軽く叩いた、彼女は告げる。
「哀れな少年よ」
「少年?」
それに織田は小首を傾げてしまう。少年といわれるような年齢じゃないことを織田は知っていた。女神らしき人物も眉を寄せて、先ほどまでの優しそうな表情が消えて、疑わうかのような視線を向けてくる。
「……ん? え、ちょっと待って。あれ、少年じゃない??」
「俺、いつ少年って言った?」
「……うわっ、おじさんじゃん」
ドン引きしたような態度だった。
「誰がおじさんだ!」
思わず、ツッコミを入れてしまう。女神らしき人物は指を差した。
「あ、あなた、見た目が少年なのに年齢30歳って、なによそれ詐欺じゃないの! 嘘つき、詐欺師め!!」
「う、うるせー。詐欺師じゃねぇーし。童顔なんだよ!! てか、なんで、俺の年齢がわかるんだよ!」
織田の問いかけにどや顔する。えへん、というように腕を腰に当てて、胸を張って見せた。
「そんなの簡単よ。女神の目を使えば、なんでも見えるからよ。だからなめないで!」
「なめてないわ」
女神らしき女性はなにか、自分がやったことを悔やむように卓上に手をついて、両肩を落とし、ため息を吐いた。
「最悪だわ……。助けなければよかったわ……。もっと若い少年を助けたらよかった……」
「いま、とんでもないこといいませんでしたか???」
「ま、まぁいいわ。あなたの物語面白かったのは事実だし。このまま死なせるのも、女神として見過ごすわけにもいかないわね……」
1人何かをぶつぶつとつぶやく。
「慈悲として、生き返らせてあげる」
「え、じゃあ、やっぱり、俺、死んだんだ」
「そう、あなたはトラックにはねられて、死にました。残念でした」
いちいちイラついてしまう。
ふとトラックにはねられた時を思い出す。めちゃくちゃ身体が痛かった。しかし、今は不思議なことにどこも痛くはなかった。自分でいろんな場所を触ってみて、確かめたが、やっぱり、怪我ひとつなかった。
人生最悪な死に方じゃないだろうか。誕生日を迎えて、ルンルンで家に帰っていたらトラックにはねられて死ぬなんてあんまりじゃないか。さらに独身で、彼女もいない人生を終えてしまった。
それに織田は頭を抱えてしまう。
「哀れな少年よ……ブフォッ」
「はい、今笑ったー。今、笑いましたよーみさなん、人の顔を見てこの人、バカにしましたー」
「ち、違うわよ! 笑ってなんかないわよ!!」
「笑ってたじゃん! てか、お前、誰よ?」
「無礼な。この私を見てわからないとは。ちゃんと勉強しているの??」
「知らん! お前なんて知らん!」
知らないものは知らないとはっきり言った。
「あーなんということでしょう……。女神スティファーを知らないとは……」
悲しむ様な顔をした。仕方ないじゃないか、日本史はやったけど世界史の勉強してないんだから、とこころの中で言い訳する。
女神スティファーは何かを思案し始め、名案が思いついたかのような素振りをした。織田にとっては、なにか嫌な予感がした。
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