女神様から自分が造った作品で間違えて「魔王」として、転生させられました。

飯塚ヒロアキ

第1話 女神様のご慈悲?

――――彼の名前は織田宣長。愛知県、尾張市の生まれ。あのかの有名な第六天魔王の異名を持つ織田〇長とは―――全く関係がありません。はい、ここ重要です。


 その名前のせいで、学校でどれだけいじられたことか。であるか、とか、上履きを温めておきましたー、とか、是非も及ばず、とかのネタをしてって言われる悲しい人生。


 どうしてそうなったかというと母親が将軍として、部下を率いる力を持ってほしいという思いで、こんなでたらめな名前を付けたようだった。


 名前が凄すぎるが、どこにでもいる平凡な人間で、特別、頭が優れているわけでもスポーツが万能というわけでもなかった。頭の良さはクラスで、下から数えた方が早いくらい……。


 名前の人物って……残酷な人だし、頭蓋骨に金粉かけて金色の盃にした怖い人だが、自分はその正反対。中世的な顔で、女の子と間違えられてしまうときもあった。


 高校を卒業して大学に入ったのも実はというと就職したくなかったからだった。とにかく、働きたくない! 一種の敵前逃亡だった。


 とはいえ、大学を留年するわけにもいかないので、しっかりと勉強はした。一応、自分なりに。大学時代、とても暇を持て余していたので、小さいころから好きだった王道ファンタジー系のアニメや漫画、小説でたくさんの作品を見たり、読んだりする時間を作った。それに触発され、気がつけば、自分も壮大な物語を作りたいと思い、やがて、小説を書くことを趣味といていた。


 最初は趣味程度でしていたが、やがてそれが将来の夢となっていた。たくさんの小説を読み、たくさんのアイディアを考えてはパソコンのキーボードを叩く。


 小説サイト「ガレリア」で毎日のように投稿する日々を送った。感想が来た時には喜んだ。


 書いた作品は数えきれないほどで、その中でも一番のお気に入りが「白狼騎士団戦記」だった。


 物語の内容は、白狼騎士となった主人公エレノア・シュタインベルグが英雄王ギムルドと共に魔王軍と壮絶な死闘を繰り広げ、最後は自分の命をかけて、魔王バルグガンドを打ち倒す、という王道ファンタジーだ。


 大学生活を始めてから4年の月日が経ち、ついに大学を卒業しなければならない時が来た。それと同時に「白狼騎士団戦記」の更新も止めてしまうことになる。


 物書きになることを夢として追い続けることもできた。でも、その選択を選ばなかった。正社員として大手の会社に就職し朝から晩まで馬車馬のように働いた。


 そんな毎日に嫌気がさす時もあった。自分が書いた世界の中で生きたい、とも思った。そんな非現実的なことはありえないのであきらめて、明日の為に寝る。




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 電車に揺れながら通勤中に読書をして、目的地の駅につくと大きなあくびをする。駅のホームに出て、階段を下りていき、駅を出ると眠気を帯びながら会社に出社する。同僚や上司に気持ちのいい挨拶……をして、自分のデスクに座ろうとした。


 目の前に広がる惨劇に思わず、ため息が出た。デスクの隅に置かれた大量の企画書と作成途中の書類と資料。栄養ドリンクの空き瓶。思いっきり、すべてを投げたい気持ちがあったが、上司と視線があったため、それを我慢する。横の席で自分より早めに出社していた後輩の女の子である吉田がキーボードを叩いていた。眼鏡を手で押し上げて、顔を上げると織田に挨拶する。ペコリと頭を下げてきた。かわいいらしい笑みを見せてくれた。それだけで一日頑張れる。


「お誕生日、おめでとうございます、先輩」


「え?」


 それに思わず、スマホをポケットから取り出し画面をタッチしてカレンダーを見ると7月7日、自分の誕生日の日だった。


「うげっ。今日、俺、誕生日だったのかよ」


「先輩~自分の誕生日くらい覚えてません普通?」


「お前みたいに暇じゃないの、俺は」


 はいはい、どうせ、私は不出来な子です、といって、再びパソコンの画面とにらめっこした。織田も上着を脱ぎ、椅子にかけるとネクタイを締め直して、気合を入れ、椅子に座り込む。


パソコンの電源のボタンを押して、ファンが回る音を聞いていたとき、ふと思った。

 

「あれ、何歳になったんだっけ、俺?」


「30歳ですよ。もうおじさんですね~」


「うぜぇー」


 衝立から覗き込んできた吉田がちょっと小ばかにされたような気がしたが可愛いから許すことにしたがとりあえず、鼻先を指先で弾いて仕返しをする。


「いた、ひどいですよー先輩ー」


「うるせぇ。仕事しろ」


 そういって、吉田に文句をいうと織田もキーボードを叩き始める。


 自分が誕生日だったことを知った織田は定時になった瞬間、一気にやる気がなくなったため、いつもは5時間ほど残業しているのに今日は特別だから、といって、上がることにした。会社の全員が必死になって、目を充血させながらキーボードを叩いている姿を見ると後ろ髪を引っ張られるような気がしたが、それでも俺は帰るんだ、と決意し、ダミーとして、上着を椅子にかけたまま退社することにした。


 姿勢を低くして、誰にもばれずに部屋を出て、廊下へ向かう。自分のステルス行動に惚れてしまいそうになった。


「メタル〇アがここにきて活かされるとは」


 織田は誰も気づいていない、と思っていたが、部屋にいた全員にバレていたことを知らなかった。織田の上司も今日くらいはいいか、と見逃したのである。


 バレていたことも知らずに織田は廊下で小さくガッツポーズを取る。


 扉の隙間から見える自分の席にある上着を確認し上司と同僚の様子を伺う。気づかれていないと思った。


「これで、俺がまだ会社にいると思わせる作戦、実に巧妙! フハハハ」


 会社の廊下で一人悪役のセリフを言い、小走りで会社を後にした。


 そのまま、駅まで行き、帰宅ラッシュの電車にすし詰めになりながらも乗り込み、自分の家がある地域へ向かう。


 電車が目的地につき、ホームを出て、降りると駅の中にあるコン〇ニによって、自分のご褒美にとケーキを買った。


「ご褒美~ご褒美~俺にご褒美~あ、コーヒー買うの忘れちゃった」


 ルンルンで、スキップしながら帰っていた。空を見上げるとまだ明るかった。いつもは真夜中に帰っていたので、日の光が見えるなんて、感動してしまう。早く帰ったことへの罪悪感もあったが、誕生日なのだからいいだろう、と自分に言い聞かせて、自宅へ向かう。いつも同じ道を歩いているのに、今日はどこかまったく違う道を歩いているかのように見えている景色が違っていた。


 交差点、横断歩道が青色に点滅したことで渡ろうとしたとき、一台の大型トラックが道路の信号は赤信号なのにもかかわらず、スピードを落とさずに突っ込んできた。


 織田もそれに気が付き、止まるだろうと勝手に思ったが、次の瞬間、激痛とともに宙を舞っていた。あぁーこれ死んだわ、そう思った。


 地面に叩きつけられ数回、バウンドした瞬間、全身に激痛が走り、目の前が真っ暗になると意識が吹っ飛び、すべてが闇に消えてしまった。

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