食後
喰ったなぁ~~~…。私は腹も心も満たされ、今は最高に気分がいい。きっとにやついた顔をしているだろうが、見られたって構わない。それだけこの店の料理は素晴らしいからだ!帰ったらレビューを書き込もう。勿論☆5評価でベタ褒めにしてやる。
私が食後の余韻に浸っていると、店員から食後のお飲み物は如何かと聞かれ、さっとメニュー表に目を通す。私が飲めそうなものは一つしかなかったので、オレンジジュースを頼み、飲み物が来るまで今までのことを手帳に書き込む。
少ししてオレンジジュースが運ばれてきたが、なんとガラス瓶に入っていた!レトロチックなガラス瓶に入ってくるとは思いもしなかったので、つい小さく声が漏れた。一体どこまで私を楽しませる気なんだこの店は!
自分でコップへ注ぐ使用のようだ。トトト…とジュースが注がれ、カラカラン…と軽やかに氷が踊る音が響く。まるで昭和にタイムスリップしたような気持ちだ。
少し薄汚れたセピア色に染まった裏通りの、昭和レトロに触れる瞬間。近代化が進んだ清潔な表通りばかりにいては触れられないものが、ここ横浜にはある。
あぁ…、このまま踊りだしてしまいたい。目を閉じて情景を思い浮かべる。鹿鳴館のダンスパーティーで流れるような、ノスタルジックなクラシックに身を任せくるくると回り、蝶の羽の様な衣装をなびかせる。ヴァイオリンの音に導かれ、野原を駆け回る野兎の様に身軽で自由に、時に激しくステップを踏んで!低いギターの音になれば月夜の妖精を追いかけ、色の変わる森の中を彷徨う足取りのタンゴを!
カラン!と氷が崩れる音で現実に引き戻される。ジュースを一杯飲み切り、もう半分注ぎ込む。先ほどよりは小さな音で、カランカランと氷が舞う。
時刻を確認すると、四時少し前だった。そろそろ頃合いだと思い、ジュースをゆっくり飲み干し会計に移る。ふと、一階に飾られている黒い大きな時計を見ると、金の短い針は五時を指していた。
私が会計中の店主に時計の時刻が狂っていると伝えると、不敵な笑みを浮かべて言った。
「…あぁ、大丈夫ですよ。もうすぐ帰りの時間ですからね」
店主の言っている意味を理解できなかったが、私はお礼を言って店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます