番外6 獣人公国軍新聞社
俺の名前は『ヤマオカ』。獣人公国軍新聞社の記者だ。
俺は今、相棒の姿絵師『クリタ』と共に、広場入り口の建物の影へ身を隠し、ヨミ教・パトラッシュ教会前を見張っている。
本日この場所で、『隣国憲兵が襲撃を受ける』との、匿名情報が新聞社に寄せられたからだ。
「――ヤマオカさん……その情報は、確かなんですか?」
「――うん? こんなに人が多い広場だからな……信憑性は、少し薄いかな……」
教会前広場は、いつもの賑わいを見せている。行きかう人々の笑顔に、これから襲撃事件が起きるとは、とても思えない。
「もう! ヤマオカさんが、いつも『グ~タラ』ばかりしているから、こんな『チ〇カス』みたいな仕事が充てられるんですよォ……」
「チ……」
――相棒のクリタ……このおんな、ハッキリ言って『〇そ』だ。腐女子だ。『く〇』みたいな『姿絵・同人誌』ばかり描いてて食えなかった所を、俺が拾ってやったのだが、その恩も忘れ、『グータラ』だと? 『チン〇ス』だとっ!
「ふぅ……だがな、クリタ。あながち全くのガセだとも言えないぞ。今回もこの取材のために副部長が、昼から軍広報の輪転機を押さえているらしい」
「ええっ! 『トミイ』副部長がですか? それこそ『マユツバ』じゃないですか……? あの『セクハラ・おやじ』空振りだったら、今度こそ辞任に追い込んでやる! ふっふっふ……」
「悪だくみはヤメロ、とんでもない『病み顔』になってるぞ!」
まったく、この女は。
「――ふん! そんなこと言ってもイイのかな? その襲われる『隣国の憲兵』ってのは、お前が最近一押しにしている『ゴリテア曹長』だって話しだぞ」
「ええっ! あのゴリちゃんですかッ! ホントに!?」
「ああ、分かったら真面目に見張ってろ!」
「やったぁ! へへっ、ゴリちゃんに会える! 『エロ・ハプニング』とか、有りますかね? ぼく、彼女の『あぶな・姿絵』、秘かに書き溜めてるんですよぉ……イツか『薄い本』出したくって……」
「お前は、まだそんな事やってるのか! それこそ、社に知れてみろ! 副部長より先に、お前が一発でクビだぞ!?」
おそろしく呆れる。
「ああ……その時はヤマオカさん、ぼくの事、養って下さいね? へへへっ……」
「ば、バカか! お前みたいな腐女子、俺の『至極のメニュー』に加える訳なかろう! こ、この馬鹿が!」
「……あんまり『バカ馬鹿』言わないで下さいよぉ……ぼくだって女の子なんですよォ……見えないところが、傷付いたりするんですからァ」
「見えないとこって、何処だ?」
「えっとぉ……足の裏に、魚の目が出来る?」
「馬鹿が!」
ホントにこの女『〇そ』だ。
「――お! 来たみたいだゾ!」
言い合う俺たちの視線の先に、広場へ入る王国憲兵の姿が見えてきた。
「わぁ! ほんとにゴリちゃんだぁ! 小っちゃくてカワイイ~!」
「憲兵の制服は、二人か……向こうの『ウサギ』も、おそらく『ミニマル』の一人だな……資料だと『ルナ一等兵』、かな?」
「あの子も『かわゆす』ね~! ああっ! 二人の『絡み絵』描きて~! ええと、構図はこうで……ここをこうっと……イヒッ」
「こら! 社の『写盤機』に、変な姿絵を描き込むんじゃないっ!」
「ああっ、可愛い猫耳ちゃんも居るじゃないですか! 頭に黒猫のっけて! いや~目の保養ですね~まったく……でも……何ですか? あの、後ろからくっ付いてくる二人のおっさん……『木馬館の怪人』みたいなのと……キモっ! 何あれ? ゴキですか!?」
「……あの『怪人』は、たぶん『生体ゴーレム』だな……初めて見た……もう一人は……? 大きな『カメムシ』かな?」
「へ~エ、王国のカメムシて大きいんですねェ」
――ぼん! ぼぼんっ!
「おっ! 何だ!」
いきなり響く破裂音と同時に、ゴリテア曹長たちが向かう先、広場の中央に白煙が立ち上った。
「きゃ~っ!」
「うわっ! な、なんだ!」
広場にいた人々が、次々避難する。
「わわっ、始まりました? ゴリちゃん襲われちゃいます? 脱がされちゃいます?」
「お前は黙って取材しろ!」
「――はっはっはっは~っ! 我らは、謎の『忍者部隊・ひゅ~どろ』!」
白煙の中に姿を現した覆面の三人組が、名乗りを上げる。
「ひゅ~どろ~? 忍者部隊~?……『触手を巧みに使うアレ』じゃないんですか~?」
「だまれ!」
「――おとなしく羽キャットを、こちらへ渡せ~いっ!」
「羽キャット? 猫耳ちゃんの頭に貼り付いてる、黒ネコちゃんの事ですかね?」
「おそらく、そうだろうな……それが狙い?」
「あれ? カメムシが、ウサギちゃんに叱られてる……」
「……臭かったんじゃないか?」
俺たちの場所からだと、一列に並んだ三人の忍者の向こうにミニマルの二人と、なぜか、前に出て来ているカメムシの表情がよく見えた。あの位置だと匂うのだろう。
「シッ!」
ガキンッ! ――シュフォン!
「ウサギちゃん! はやっ!」
ルナ一等兵が一気に跳び込み、刃が合わさる金属音で受けたと思ったら、もう左手に風を纏った二刀目が、三人の真ん中へ大きく仁王立つ姿勢で放たれた。飛び下がる忍者の向こうから、風圧が耳をかすめ通ってゆく。
「――これは!」
「やっ!」
ギャイン!
左の忍者が振りかざし跳び込むが、アッサリ逸らされ、
「しっ!」
「む!」
逆に脇差しの追撃を受ると、後方回転で危なく切り抜けた。
右手の忍者の跳び込もうと構えた足元を、地面を駆け抜けたゴリテア曹長が狙い、
「ていっ!」「ヒャッ!」
滑るような突き。
たまらず味方の並ぶ後方へ、跳ね逃げる忍者。
同じく下がり、羽キャットを庇う位置を取るゴリテアと、中央で構え直したルナが、前後一直線にキレイに並んだ。
キンッ!
忍者が放つ手裏剣を難なく弾いて、「すッ!」と進んできたルナ一等兵が、三人の忍者を軽々飛び越え、空中でクルリと捻ると、コチラへ尻を見せ、二刀を交差するよう撃ち下ろす。
キン! ギャイン!
空中からの攻撃に振り仰ぐ三人の背後から、ゴリテア曹長が、再び迅速の跳び込みで、突きを放った。
「えい! えいっ!」
「キャっ! 低っ! ヤリづらっ!」
「――ウサギちゃん、すごっ! お尻カワイイっ! ああっ! ゴリちゃん、てば、中学生みたいな『かぼちゃパンツ』なの!? ここは『赤のスケスケ』に変えちゃダメですか?」
「ダメだ! 見た真実を、そのまま描き写せ!」
「は~い」
不覚にも俺はワクワクしていた。こんな剣劇が間近で見られるとは!
低い姿勢で剣を振るう腹へ、突き出し気味の薙ぎ払いを見せた忍者の背に、クルリと飛び乗る形で背を合わせ、頭上から振られて来る、もう一方の忍者刀を、二刀で挟み取りながら、こめかみを蹴り上げるルナ! そのまま地面へしゃがみ込み、すかさず上空へジャンプ! グルンと飛び越え再び着地姿勢の、地面すれすれに身体を倒して薙ぎ払い!
向こう側では、地に足を付ける事も儘ならない程、激しい連続の突きを撃ち続けるゴリテアと、ピョンピョンと飛んで避けるしかない哀れな忍者。
「た! たぁ! ていっ! とぁっ!」
「ひゃ! やだっ! もうっ! ちょ!」
「こ……これは……本物だ!」
――数日前に、海の怪物『ばたあしマグロ』を討伐し、褒章を受けて人気者になった、ゴリテア=ラグドール曹長。
正直、王国スタルヒン領へおもねる大公殿下のスタンドプレーだろうと、馬鹿にしていたが……。
「ゴリテア曹長とミニマル・ポリス……か」
二、三年前からパタリと噂を聞かなくなった、英雄『しまたろう』に代わり、獣人女性で構成された王国憲兵『ミニマル・ポリス』が……新しい、獣人族の英雄だ……俺は確信した!
「――こらっ、そこの忍者! 何やっとるか!」
ぴりりりっ! 警笛を吹き鳴らし、二名の公国憲兵が広場へ駆け寄ってきた。
「――むむむっ! ここは引くぞ!」
――ぼん! ぼぼんっ!
煙の中へ姿を消す、忍者隊・ひゅ~どろ。
「――よし! 俺たちも社へ戻るぞ! 副部長が押さえた輪転機に間に合わせる! 号外だっ!」
俺は、まだ必死の形相で写盤機に描き付ける、クリタの肩をポンと叩いた。
「はいっ、ヤマオカさん! エロおやじの手柄になるのが、チョッと癪にさわりますがね!」
立ち上がったクリタが、写盤機を胸に、笑顔で俺を見上げる。く〇のクセに、少しだけ可愛い。
「そう云うな! 他社に先駆けての大スクープだ! この記事は伝説になるかもしれん! 社主賞だって狙えるゾ!」
俺たちは軍港に有る、軍新聞社へ全力で走った。
「ええ! じゃぁ、じゃあっ、今日は『オカンボシ』で、奢ってくれます!?」
「おう! 刷版が終わったらな!」
「やったぁっ! 約束ですよ! へへへっ! ぼく、最高の姿絵に仕上げますよ!」
「頼むぞ! 俺も最高の記事を書いてみせる!」
新しい獣人族の星、ミニマル・ポリスの伝説が、今日始まる……。
俺たちの記事が……その幕を開ける!
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