第22話 おらさ、キャンプとか、わがんね

 部長が予定していたキャンプ地はやっぱりというか予約でパンパンだった。


 ならば――と俺が計画し直したキャンプ場はちょっと高級な場所を指定した。

 価格が高級ならば、一つ二つぐらいの空きがあるだろうと見込んで。


 俺とレンと高薙さんの三人はキャンプ場がある山の最寄り駅を降りる。

 俺達の地元駅とは違い、駅舎は骨組みとシンプルな天井だけの造りだ。


 改札口も今時は珍しい無人駅、その光景だけで隣にいたレンははしゃぎ声をあげる。


「おおー、人気がまるでねぇな。はは、おらさこういう所好きだ」

「気を付けろよ、野生動物が出るって書いてあるぞ」

「なおさらいいべ」


 駅を降りてすぐの自動タクシー乗り場に『野生動物出没地域』との看板があった。


「紅葉が綺麗そうな場所ですね」


 高薙さんは駅から見える山々をそう感想していた。


「映研の部長さん達とはここで待ち合わせですか?」

「そういうことになってる、今柊木に確認取るよ」


 どうやら俺達は二人よりも先行して到着していたみたいだ。


『柊木、俺達待ち合わせ場所に着いたけど、そっちはいつ頃着きそう?』

『んー、あと五分、むにゃむにゃむにゃ』

『40秒で支度しな』

『あいよ』


「もうそろそろ着くってさ」


 二人に伝えると、レンが暴走し始める。


「おいレン」


 レンは目の前にあった山裾に向かい、景色と一体化し始める。


「竜馬ー、ここは都会と違って空気が気持ちえぇなー」

「危険だから、一人で行動するなよ」

「大丈夫だぁってぇ」


 高薙さんが異様にはしゃぐレンに対し。


「クラホさんは野生児だったのですね」


 と皮肉っていた。

 そのまましばらく待っていると、電車が到着する。

 電車には目立つ白髪のエルフ耳の兄妹だけが乗車していた。


「来たよ来たよ来たよー! 大地よ、私は帰って来た!」


 そしてハイテンションなエルフ耳の妹は駅舎の地面をドンドンドンと手で叩く。

 部長は妹の分の荷物を手に持ち、今回のキャンプ場を傍観しているようだった。


「……ふ、俺も年貢の納め時か」


 この兄妹、二人して意味不。


「お疲れ様です部長、柊木も」

「竜馬? 君がリアルの竜馬であってる? ねぇ、どうなのそこんところ、ねぇ!」


 と、自称三十路ニートを騙っていた柊木の姿はVR教室の時と何も変わってない。


 強いて言えば洋服だけ違っていた、水色のジーンズジャケットと下も合わせたような七分丈の紺色のジーンズをはいて、靴だってアウトドア用のものだし、気合い入っている。


「ねぇ竜馬~、やっぱりさ、結婚しようよ結婚、不倫でもいいよ」


 ってな具合に初っ端から飛ばしている柊木に、山と一体化していたレンが切れる。


「こらぁ! おらの竜馬にちょっかい出すでねぇこんメス猫が!」

「何奴!? 声だけして、姿を見せないとは」


 まぁとりあえず、早めにチェックインしたいし、とっとと行こう。


「レン、そろそろ行くぞ」


 と言うと、レンは山から出て来るのだが……何か持ってるな。


「クラホさん、そのキノコは?」


 高薙さんが手にしているキノコを尋ねる。


「山で獲れただ、今日の昼食の材料に使えねっかな?」


「馬鹿、知識も資格もない輩が獲ったキノコなんて食えないよ。毒でも入ってたらただごとじゃないし、その場合は一瞬でキャンプは終わる。最悪の場合、人生すらも終わるぞ」


「そうか? おらは食えると思う、一応持っておくか」


 俺としては何かある前に捨てて欲しいが、よくよく注意しておこう。


 それから俺達一行は自動タクシーに乗り、本格的に入山した。

 車窓から見える綺麗な碧い山林に、みんな写真を撮っている。


「凄い凄いすごーい! 日本にまだこんな所残ってたんだ!」


 柊木が興奮している。


「ここら辺では21世紀の中期から、本格的に自然再生プロジェクトが推進されていたそうだ。一帯の地域では人と自然が共存できるよう模索されていった。まぁ家の会社の取引先の一つなんだけど」


「へぇ、竜馬の家の会社がやってるんだぁ~。あちし、興奮して来たざます」


「何故最後だけ花魁風に言った」


 俺達の宿泊先はこの山の中腹にある一つのコテージだ。

 父さんが推薦してくれたんだけど、ここだと自然に帰れること請け合いなんだとか。


 自動タクシーが件のコテージ前に着くと、レンと柊木が共感するように飛び出した。


「すんげぇー! こげな理想的なコテージ、おら初めて来ただ」

「おー、絶景かな絶景かな、今回のGWキャンプでは何かあるよー!」


 まぁ、二人がはしゃぎたがる気持ち、わかります。

 俺と部長は男手として、メンバーの荷物を木造りのコテージの中へと運んだ。


 二階建てのコテージはかなり大きく、リビングは現実離れした景色だった。


「ねぇ、もう私達一生ここにいようよ、ねぇ、ねぇってば!」

「うるさいぞ柊木、服引っ張るな」

「ん~、竜馬殿、今日は寝かせないざます」


 ……とりあえず。


「柊木と部長の二人は昼って摂りました?」

「いいや、竜馬曰く、昼食はここでって話だったのでは?」

「そです、早速今から作りましょうか」


 と言う訳でクッキングターイム。

 俺達のキャンプは三泊四日の予定で、今日は大事な初日だ。


 初日ぐらい、キャンプの醍醐味であるみんなで焚き込みごはんをしたいじゃないか。


 コテージの外にはバーベキュー用の場所だってあるし。

 キャンプ場によくある石造りの水道と剥き出しの炊事場がある。


 家から持ち寄った旬の食材をみんなと一緒に持って行く。


「先ずはちゃんと手を洗えよー」

「そうだねイカ坊主」

「いい加減その不名誉なあだ名やめろよ」


 柊木、今回のキャンプでどうにかしてお前の弱味を握ってやるからな……。

 腹の虫は収まってないが、とりあえず記念撮影するか。


「部長、記念撮影しませんか?」

「撮影ならもうし始めている」


 部長を見ると高額そうな機材を使って俺達の料理風景を撮影しているようだった。


「撮影動画って後で頂けるので?」

「無論だ竜馬、今回のキャンプで一つの映画が作れたらと思ってな」

「映画? ですか」


 一体どんな映画にするつもりなのだろう、部長の編集が今から楽しみだ。


「題して、竜馬湯煙殺人事件前日譚と言った内容にしようと思う」

「お、殺るかおい?」


 とにもかくにも、映研による楽しい楽しいキャンプは幕を開いた。



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