第21話 おらさ、弱味とか、わがんね

 オナニーをレンに見られ、柊木に知られてしまった。


 オナニーをレンに見られ、柊木に知られてしまった。


 オナニーをレンに見られ、柊木に知られてしま(略。


 そんな俺は今、以上の二人に挟まれるよう部室に向かっている。

 柊木は落ち込む俺の背中をバシバシ叩く。


「気にするなよイカ小僧、オナニーの一つや二つ誰だって経験あるって」

「ことさら口にするなよな!」


 レンを見ると、もじもじとしていた。

 そんなレンに柊木が近寄り、――ぺろ、と首筋を舐めてしまった。


「はぁん」

「おお? レンちゃんって敏感なんだね、今の喘ぎ声は僕の宝物だよ」


 さすがに許せなかったので、俺は柊木の耳の周りに特殊な防音壁を展開し。

 柊木の鼓膜に思い切りガラスが引っかかれる音を叩き込んだ。


「んぎゃぁああああああ!」


 柊木はその場でもんどりうって、じたばたとしている、ざまぁみろ。


「酷いよー、竜馬がうかつだったのが原因なのにー」

「だからってレンにセクハラするなよ」

「じゃあ竜馬にだったらセクハラしても許されるんだね?」


 柊木がそう言うと、レンが柊木の背後から金棒を持ってど突いていた。


「おらの竜馬に手出すなっていつも言ってるべぇ」

「なんなんちみ達!? そんなに絆が深いのなら、早くやっちゃえばいいのに」

「お、おら達はおら達のペースで付き合っていってってるだけだ、なぁ竜馬?」


 昼間、レンが言っていたことを思い出す。

 ――今日は危険日なんだって。


 思い出した矢先から俺の脳裏に住み着いているエルフを食い物にする蛮族が興奮しているようだった。


 部室に辿り着くと、柊木の兄である部長が満を持したどや顔で待っていた。


「兄者、聞いてくださいよぉ~」


 柊木は部長の胸に飛びつき、兄妹愛とやらを見せつけていた。


「どうしたキモウトよ」

「この二人が私をいじめたんですよぉ~」

「何? それは大変だなキモウトよ、早速詳しい話を聞くために俺の部屋へ行くか」

「兄貴キッモ」


 柊木がそう言って離れると、部長は仕切り直したかのように再びどや顔を見せる。

 そして部長は俺とレンに両手で俺を褒めろ、ほら早くみたいな手つきをしていた。


「部長、部長がつくったキャンプ計画凄いっすね」

「んだな、さすがはおら達のリーダーだけあるべぇ」


 ほら、褒めてやったぞと言わんばかりに円卓の席に座ると、部長は卓上に飛んだ。


「ふはははははは! そうだろー、俺は凄い、そしてお前達のリーダーだ」


 この兄にしてあの妹、血って奴を感じる。


「でも部長」

「ん? どうした竜馬」

「キャンプ場の予約とか取ってあるんですか?」

「あ」

「お疲れっしたー、また来年もよろしくー」


 GWのキャンプ場の人気は凄いぞ。

 なんでも人気な所は再来年まで予約が埋まっているのだとか。


「いやいや竜馬、竜馬くん、竜馬ちゃん」

「俺に限っては下の名前呼び捨てで結構ですよ」

「じゃあ竜馬?」

「偽名じゃないんですから、疑問形もやめてください」

「竜馬、お、俺はどうすればいい」


 部長はなんで案内だけ作って予約し忘れたのだろう、どんな気の抜け方だ。


「案内だと、現実のキャンプ場を利用しようとしていますが、今回は仮想空間でいいんじゃないでしょうか」


 それだったら滅多なことがない限り、今からでも都合がつく。

 現実的な提案をすると、柊木も部長に続き円卓の上に飛び乗った。


「駄目だよ! 今回のキャンプでリアルのみんなと会えるって楽しみだったのに!」

「……パンツ見えてるぞ」


 円卓の上に飛び乗るのはいいが、俺の視線に柊木のトライアングルゾーンが映っていた。


「見たければ見ればいいのさ! 何だったら兄さんのもご一緒に!」

「でででででーでん、一番箱根温泉行の快速列車が参ります」


 柊木の振りに部長は歌い始めて、ベルトを外してズボンを下ろす。

 部長の紺色のボクサーパンツを見せられ、脳裏の蛮族が〇せと訴えていた。


「それにさ、竜馬」

「な、なんだよ」


 柊木はその場でしゃがみこんで、俺に肉薄する。

 すぐ下に目をやれば、柊木のトライアングルゾーンが!


「――オナニーの件、クラスのみんなにばらされたいのかにゃ?」


 ……はは。

 どうやら俺は、彼女に弱味を握られてしまった。


 だがしかし、それは暗にこう言っているも同然だった。


 俺は、逆に柊木の弱味を握ってやるんだってな!


 § § §


 と言う訳でGW、俺はレンと高薙さんの三人で地元の駅までやって来た。


「キャンプかー、そんなの小学校時以来でねーか?」


 レンはこの日のために俺の母さんと一緒になって揃えた春コーデで着飾っている。


 裾野が広い小麦色のボトムスとセットのジャケット、インナーは肩だし上等といった感じの白いキャミソールの下に黒いスポブラを付けている。一方の高薙さんは七分丈のダーク色のセーターに、下はビロードのロングスカート姿だった。


「……ふぅ」

「どうした高薙?」


 高薙さんがアンニュイな感じのため息を吐くと、レンが事情を聞いていた。


「いえ、こうして二人と旅行に行けるのはいいのですが、刻一刻と卒業が迫っているんだなと思いまして」


「おお、気付けばあっちゅう間に一ヶ月過ぎただな」


 二人の言う通り、高校に入ってから月日が加速的に過ぎ去った。

 どうしよう、再来年の今頃は受験勉強に追われているだろうし……。


 そう言えば、部長も今三年生だったよな? いいのか、キャンプなんかしてて。


 まぁまぁ、まあまあまあ。


 そんなことより俺の計画ではこのキャンプで柊木の弱味を握る算段なのだから。

 今は全集中して、部長と柊木が待っているであろうキャンプ場へ向かおう。


 覚悟してろよ、もう一人のエルフ耳!!

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