第23話 おらさ、夫婦漫才とか、わがんね
炊事を開始すると、いきなりハプニングが起きた。
「あ、もしもし、ピザの出前頼みたいんですけどー」
おおい柊木! ピザ頼む前にピザ作れ!
柊木はキャンプ場でピザの出前を取ると言う独断専行をかましやがった。
もしも母さんがこの場に居たら柊木と軋轢を生じさせていたに違いない。
「柊木さん、本当にピザを頼んだのですか?」
高薙さんが柊木に確認を取っている。
「ああうん、マジだよー」
「風情のない方ですね」
「あっははは、ごめんごめん」
……ほう、もしかしなくても、柊木は高薙さんが苦手だったりするのか?
これは貴重な情報を得た、メモっておこう。
柊木は俺の方へ近づいて来て、耳打ちをして来た。
「ねぇ竜馬、高薙さんってどういう人なの?」
「聖人君子みたいな人だな」
「ほうほう」
「元々はレンが好きだったんだけど、色々あってな」
「にゃんと! 百合の方だったのか」
「百合とも違うんだけどな」
でも、高薙さんが百合漫画のヒロインだったとしたら、俺も読んでみたい。
「おーい、高薙氏ー!」
柊木は俺から情報を得ると、高薙さんの方へすっ飛んでいった。
「何でしょう?」
「僕とちょめちょめしないかい、ふふ、どっちがお姉さまとして相応しいのか勝負しようじゃないか」
おおい柊木! 百合百合する前にご飯作れ!
柊木から迫られた高薙さんは嘆息を吐いていた。
「私に同性愛の趣味はありません」
「えー、話とちがーう」
「一体誰に何を吹き込まれたのです?」
「竜馬が君のこと、ハードな百合って一言で言ってたよ?」
言ってねえよ!
「俺はそんなこと言ってないからね高薙さん」
「ちょっと男子ー、見え透いた嘘吐かないでー」
黙れ柊木ぃ! 黙らっしゃい!
「なら、ここは両成敗ということで、お二人には罰を与えましょう」
ば、罰?
「罰って? 脱げばいいのかな?」
中身おっさんの柊木は同年代で、気を許した相手へのセクハラが止まらない。
こいつのある一つの可能性として、わいせつ罪で逮捕されるイメージが見えた。
「罰は、そうですね……とりあえず罰金刑にしておきましょうか」
「調子に乗ってすみませんでした高薙氏、今月はピンチなんですどうかお許しを」
罰金刑を言い渡されると柊木は土下座をしていた。
柊木は一見お嬢様のように思えて、金に困っていることもメモしておこう。
「こらおめえ達! おら一人に料理任せて遊んでるんじゃねぇ!」
「お、おお、悪いレン」
「頼むぞ竜馬、おめえも知ってる通り、おらまともに自炊したことねーんだから」
レンの手元を見ると、持ってきた食材が乱切りにされていた。
高薙さんはその様子を見てレンから包丁を取り上げる。
「食材のカットは私がやりますので、貴方と将門くんは火を焚いてください」
「わかった」
レンと一緒に火を起こし、高薙さんの手によってカットされた食材を茹でる。
玉ねぎとキャベツ、人参、ジャガイモに鶏がらを入れて野菜スープを作り。
その脇では俺的に今日のメインディッシュを想定していたラム肉を取り出すと。
「おおおおお! マンガ肉!」
柊木が古風なジョークを口にする。
「違う、ラム肉だ、お前はピザでも食ってろよデブ」
「おいおい、馬鹿だなぁ竜馬、今宵のピザはお前だろう」
軍手を嵌め、骨付きのラム肉を豪快に炎で炙る。
肉汁が炭に滴りおちて、じゅーじゅーと音を立てている。
「おおおおお、竜馬、竜馬、早く食わせろタコ」
「うるせぇぞ柊木、お前はピザでも食ってろデブ」
さて、もうそろそろいいかな?
「お待たせ、ラム肉は一人二本までしかないからな」
ラム肉を焼き終えた頃には柊木が注文したピザも無事届き。
コテージの炊事場付近にある
初めてに近い俺達の手料理は、割とよく出来ていたと思う。
「ムァッハ! 左手にピザ、右手にマンガ肉、あ、やばいこれ……イクぅ!」
「ふざけるな柊木、一人で絶頂するな」
「ふふふ、そうだよね。僕は竜馬の嫁だし、竜馬の手じゃないとイクにイケな――」
おそらく、幸せの絶頂にあっただろう柊木クレハ。
柊木はキャンプに参加したメンバーに気を許し、クライマックスみたいな声をあげると、今度は俺にセクハラし出した。俺の劣情に訴えるようにいやらしい目つき、顔つき、口つきを取っていれば――ぱくっ、と手にしていたラム肉をレンに貪られていた。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「竜馬に色仕掛けした罰だべ」
柊木、どうでもいいけどお前うるせぇ。
「いいぞぉ、妹が同級生のいじめに遭っている。今まで散々見て来たけど、興奮するな」
部長、それ酷くないっすか?
「柊木はいじめられてたのか?」
と、レンが柊木に聞くと、柊木はしゅんとなった。
「うん、竜馬と出会う前に、ちょっと女子から嫌がらせに遭ってね」
……空気が重い。
柊木がいじめに遭っていたのはガチなようだし。
「そうだったのか、そら大変だったな」
「でも今の僕にはレンちゃんがいるし、高薙氏もいるし、兄さんもいるからね」
柊木は俺の名前をあえて口に出さなかった、ここで例えば俺が「俺だっているだろ」って言えば「あ、居たんだ」って感じに切り返して重い空気を笑いに変えようとしていた。
「俺だっているだろ」
柊木のわかりやすいパスを受け、そのまんま口にすると。
「きゅん……その時、私の愛のキューピッド竜馬はこう言った、俺だっているだろ、と。そう、いつまで経っても私の恋人を見つけられないことに憤った彼は、自分を差し出したのだった」
「部長、出来れば弓貸してくれませんか、こいつのネジぶっ飛んだ頭を射抜くので」
と言うと、部長はカメラを構えつつ。
「お前達の今の夫婦漫才だが」
夫婦漫才師とちげーから。
「二十点だな、一から出直してこい」
「厳しいね兄さん、と言う訳で、僕と竜馬は一から夫婦をやり直すことにしよう」
だからちげぇって!
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