第18話 おらさ、ジゴロとか、わがんね

 担任の餅鬼先生に連れられ、俺達は学校が所有するアリーナに向かった。


 アリーナは校舎に併設された仮想空間施設の一つで。

 校舎の周りには他にも色んな施設があるらしい。


 アリーナに向かう途中、柊木がしつように俺の手を握ろうとしていた。


「やめろよおっさん」

「いいじゃないの、生娘じゃああるまいし」

「うるせぇ童貞だよ」

「じゃあ僕とヤラナイカ?」

「おっさんのケツに興味ないって、離せ」


 やめろ柊木、俺の高校三年間を薔薇色にしようとするな。

 して、アリーナにつき、クラス毎に分けられた席に着く。


「ねぇ竜馬」


 これから部活紹介が始まる。ってな時に柊木は語り掛けて来た。


「静かにしろよ」

「部活紹介が終わったらさ、僕に付き合ってくれないかな」

「って言うと?」

「君や、昨日連れてた竜馬の彼女に是非紹介したい部活があるんだよ」

「……それってどんな部活?」

「映像研究部、部員数が足りなくて、今年新入生が入らないと潰れちゃうんだって」


 映像研究部ねぇ、意外と悪くない。

 世間的な認知はあっても、この学校だとマイナーなのか……。


「ね、どうかな?」

「一応伝えておく、本当に行くかどうかはわからないけど」

「ありがとう竜馬、伝説の木の下で待ってるね」

「その振りは行きづれーわ」


 などというやり取りを交わした後、部活紹介は始まった。


 在校生によるアリーナでの部活紹介は限られた部活しかエントリー出来なかったらしくて、柊木の言っていた映像研究部など影の形すらなくて……怪しさ百億点満点だった。


 部活紹介が終わると、餅鬼先生は席を立つ。


「はい、ではC組の皆さんお疲れさまでした。今日はこの後各人自由行動です。家に直帰するもよし、外で待ち構えている部活勧誘しようとしている先輩達と話し込んでもいいです。本格的な授業は来週からになると思いますが、この一年、よろしくお願い致します。それでは解散してください」


 お疲れ様でした、さてと、レン達の所に向かうか。

 レンと高薙さんの二人は確かG組だったな。


 G組はどこだ、どこなんだー。


「竜馬! おら、やっちまったかもしれねぇ」


 レン達を探していると、以前も聞いたことある台詞を口にしながら当人に後ろから飛びつかれた。


「やっちまったって、何したんだ」

「おらの自己紹介の時にクラスの連中がどよめいてな」

「それってどんな具合に?」


 と問うと、高薙さんが嘆息を吐きながら俺達に合流する。


「クラスの男子生徒が、クラホさんのことを可愛いと煽てたのですよ」

「おら、何ともねぇと思ってたけど、そげなこと言われて急に恥ずかしくなって」


 まぁ予想通りではある。


「それで、なんか頭がカッとなって、竜馬の名前を出しちまっただ」


 なぬ?


「それってなんて風に?」


 って聞くと、レンは自慢のエルフ耳を真っ赤に染め上げる。


「クラホさんは、将門くんのことを許嫁として紹介していましたよ。それでクラスの生徒がクラホさんに根ほり葉ほり聞き出して、クラホさんはつまびらかに答えてました」


 レンの代わりに高薙さんがその様子を教えてくれて、その内容に片膝ついてしまった。


「ごめんな竜馬、おら、こうなった以上お前と落ちる所まで落ちるだ」

「別にあえて落ちる意味はないだろ」


 それはそうと。


「二人は部活どうするの? 高薙さんは生徒会に入るんだっけ?」

「えぇ、この後で生徒会室に直談判しに行きますが、お二人はどうなさるので?」

「俺は……レンを連れて映像研究部に行ってみるよ」

「映像研究部? ですか」


 よく分からないけど、この時の俺は一つだけ分かってしまったことがある。

 柊木に逆らうと、どんな仕返しをされるか分かったものではない。ということだ。


 高薙さんとは別れ、俺達は部活勧誘していた先輩に件の映像研究部の居場所を聞いた。


「映像研究部? そんな部活あったかな」


 え? ないの? ラッキーィ!

 それは茶道部の看板を掲げていた一人で、茶道部は男女問わず結構人気な様子だった。


「それよりも君達茶道部に入らない?」

「えっと、あー、どうしようかな」


 隣で寄り添うようにいたレンの顔をちらりと見る。


「おらさ、茶道とか、わがんね」


 レンは嫌みたいだな、なら断り入れておくか。


「ちょっと待ったッッ! ヤリ〇ンばかり集めた茶道部、略してヤリサーの諸君! 映研の可愛い新入りに、手を出さないでもらおうか」


 と、茶道部をヤリサー呼ばわりする謎の男子が現れた。

 茶道部の先輩は一瞬怒ろうとしていたけど、相手が悪いとかって小声で話して去って行った。


「大丈夫だったか新入り達よ、気を付けろ、映研以外の部活は総じてヤリサーだ」


 嘘吐け、そんな高校があってたまるか。


 よくよくその先輩を見ると、柊木の面影があった。

 白い髪は短くまとめられ、目元は柊木とそっくりで大きく、そしてエルフ耳。


 俺達を猛烈に引き留めたのはエルフ耳の男子だった。

 今年はなんて年だ、右を向けばエルフ耳、左を向けばエルフ耳、エルフ耳の宝石箱やー。


「もしかして柊木のお兄さんだったりします?」

「と言うと、君が妹の夫である竜馬か」


 え? ううん、違います。

 と冷静に否定する間も与えず、隣にいたレンはその場にへたり込んでしまった。


「酷いだ……竜馬がおらの誘いを断ってたのは、他に女がいるからだったべな!」

「違うって! 柊木とはオンゲ上で結婚してただけだって!」

「おらとの関係も仮想空間でつくった女の一人ぐらいにしか思ってなかったのか!」

「だから違うってば!」


 柊木の血筋はとりあえずトラブルメーカーなのはわかった。

 問題は誤解したレンをどうなだめるか、だが……。


「レン、お前との関係は本当に奇妙な切っ掛けから始まったけど……決して遊びじゃないんだ。ホワイトデーのお返しがいい証拠だっただろ?」


「……信じていいのか?」

「もちろんだ」

「なら」


 と言い、レンは立ち上がると、ゆっくりと瞼を閉じた。


「今ここでキスしてみせろ竜馬」


 え? 茶道部の先輩は去ったとはいえ、周りにはまだ部活勧誘しているのに。

 ああもう! レンに言われた通り唇を触れ合わせると。


「こ、これでいいだろ」

「……へへ」


 レンははにかんで、再び俺の腕に手を回す。

 その光景を間近で見ていた柊木のお兄さんは、声を荒げた。


「羨ましいなぁ! 俺も久しくキスしてない、やらせろ小僧!」

「え?」


 と、柊木のお兄さんはレンに組み付かれて動きが鈍っていた隙を狙うかのように。


「ずきゅううううううううううん!」

「!?」


 俺の唇を奪い、あまつさえは舌をちょっと入れられた。


「……素晴らしいぞ新入り、俺の心をキス一つで篭絡するその手並み、たしか竜馬とか言ったな貴様! 貴様という存在は男子だろうと女子だろうと、例えば神であろうと虜にしてしまう正真正銘のジゴロだったわ!」


「うるせぇぞなんちゃってエルフが!」

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