第14話 おらさ、高校進学とか、わがんね
ホワイトデーのお返しを買って、家に帰るなり母が驚愕していた。
「じゅ、十三万もするのそれ?」
「そうだぁ、竜馬が大枚叩いておらのために買ってくれただ、おら嬉しくて」
「ちょっと竜馬!! いくら好きな人のためだからって、高校生の限度超えてるわよ!」
あーうるさいうるさい、人の厚意にケチ付けないで欲しいよ。
母さんから逃げるように部屋に戻ると、高薙さんが部屋の前で待っていた。
「どうやら随分と豪遊して来たみたいですね、クラホさんと一緒に」
「いや別に、昼食も合わせて二千円で済んだし。あ、これ高薙さんへのお返し」
受け取ってと言い、渡すと高薙さんは抑揚のない感じでお礼を言っていた。
「で、そこ退いて欲しいんだけど」
「……結局、貴方はなんのために恋愛禁止なんていう約束を彼女との間に交わしているので?」
「それは、俺達が真っ当な高校生活を送るためだよ」
「だとしたら今回のことはやりすぎですよ、はぁ」
高薙さんはレンに失恋したことを思い出すようにため息を吐いて。
真に迫った感じで、俺にあることを言った。
「くれぐれも、クラホさんのこと大切にしてやってくださいね」
「……そうだな」
恋って、意外と一筋縄じゃいかないな。
ただ相手に好意を伝えれば結果がついて来るものじゃない。
時には好意を伝えても、酷く傷つけられることもあるぐらいだ。
だから普通は恋愛に臆病になるし、俺もその内の一人だった。
なんだか、一人になりたい気分になって来た。
レンに喜んでもらえたのは嬉しいけど、不安が助長される。
この言い表しようのない気持ちは、なんだったのだろう。
俺に足りないのは何だろう。
俺と彼女に足りなかったのは、何だろう。
恋愛って何だろう。
§ § §
目が覚めると暗くなった自分の部屋の天井が見えた。
そう言えば少し陰鬱になったから、仮眠取ったんだっけ。
と、何やら隣に人の気配を感じると思いきや。
「……ん」
エルフ耳の美少女が隣で寝ている。
高薙さんや母さん達に止められなかったのだろうか。
レンを起こさないようベッドから出ようとすると、レンは俺の服を手で掴んでいる。その手から服をそっと引き離し、慎重にレンの上を跨いでベッドから出たあと、一階に向かって渇いた喉を潤す。
一階にはレンのお母さんが晩御飯の準備をしているみたいだった。
小母さんの手料理はもう、我が家の味と言ってもいいほど定着しているしな。
「お早う、竜馬くん」
「お早う御座います」
「今日はありがとう、あの子、君から貰ったイヤリングに凄く興奮してたわ」
「見栄張りたかっただけですよ」
そう言うと、小母さんは失笑するよう微笑む。
凄く優しい微笑みでさ、まるで聖母像のようで癒された。
「そうなの?」
「……小母さんは、この先はもう恋愛とかしないのですか?」
「……さすがに今はまだ、あの人を忘れることはできないわね」
「ごめんなさい、小母さん達がこの家に来てまだ一ヶ月そこらでしたね」
寝起きだったからか、俺は余計なことを聞いてしまった。
小母さんの顔を見ろ、先ほどの微笑みが消えて凄く物思いに耽ってるじゃないか。
「今日の晩御飯はなんですか?」
「今日はね、山で獲って来た山菜を天ぷらにして、それからこの家で収穫したサツマイモやピーマンも天ぷらにして、一応かき揚げも作ってみたの。少し食べてみる?」
とその時、俺の背中に誰かが飛びついた。
十中八九レンだろう。
「竜馬! 何してるだ?」
レンは俺の背中に飛びついて、そのまま肩に手を回しておんぶする格好になっている。
「小母さんの料理を聞いてただけだよ」
「母さんは料理上手だべ?」
「お前もたまには料理しろよ」
「そげなこと、竜馬の嫁になってからでも遅くねぇべさ」
小母さんの前でそんなこと言うなよ! だって……。
――俺達、このまま素直に結婚できるのか?
レンとは違って、俺はついこの間までお前のこと男だと思っていた。
そんな俺の中に芽吹いた恋心は、まだまだ幼くて。
お前のどこが好きなのかって聞かれても、断言できないんだよ。
レンへの恋愛感情を徐々に自覚していく、そんな日々を過ごしていると。
ついに、高校へ進学する時がやって来た。
そして俺はその高校で――もう一人のエルフ耳の美少女と出会ってしまうのだが。
続く。
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