第15話 おらさ、新キャラとか、わがんね
「竜馬に高薙、準備はいいかぁ?」
2103年4月2日、春の陽気が地元の街を包む日のこと。
俺とレンと高薙さんの三人は明竜高校の入学式に臨もうとしていた。
みんなでリビングに集って、今から入学式の会場にログインする所だ。
「じゃあ行って来るね父さん」
と、俺から我が家の大黒柱の将門次元に言うと。
「小父さん、おら、盛大に高校デビューしてみせるからな」
レンが父さんに高校デビューを宣言していた。
そう言うのならTシャツ一枚姿は止めろ、下に何か履け。
「じゃあ行って来るよ」
「いってらっしゃい」
父さんと別れるように仮想空間の入学式会場の入り口にINすると。
誰かが俺の右手をぎゅっと握りしめていた。
「竜馬」
俺の右手を握っていたのはレンだった。
けど、レンは中学の時みたく、どこにでもいそうな男子のアバターじゃない。
今のレンはエルフ耳が映える異国風の銀髪姿の美少女だった。
「緊張してるのか?」
と聞くと、当たり前だべさとレンは返して来る。
「でも、竜馬が居るから、特に不安はねぇ。おらはこの三年間で」
……三年間で? レンは口をつぐみ、その先の台詞を言わない。
俺は明竜高校での三年間、何しようかな。
学校側が用意した入学式の会場はアリーナ形式だった。
本会場の外に設置された廊下には格式高そうなワインレッドの絨毯が敷かれている。
「ここでぼけっと突っ立っていたら後の方の迷惑になりますよ、行きましょう」
高薙さんが一早く赤い絨毯を踏みしめ、本会場の門を潜る。
俺とレンも彼女の後を続くように本会場に入ると、映画館のように静かだった。
天井には巨大なライトが設置され、会場の中央にある壇を照らしている。
「おお、本格的だべぇ」
「そうだな、三人並んで座れる席ありそうか?」
と、周囲に設置された会場席をみると、新入生と思わしき人がすでに着席していて、ほとんどの生徒が俺達みたくグループで集っている。会場からは新入生の新鮮なざわめきが聞こえていた。
「あそこなどどうでしょうか?」
高薙さんが丁度いい塩梅の席を見つけたようで、俺達はそそくさとその席に移動した。
「お隣、よろしいですか?」
高薙さんは一応隣席に座っていた女子生徒に声を掛ける。
綺麗な白い長髪を持ったアバターだった。
「大丈夫です」
「それでは失礼しますね」
高薙さんに次いで俺も一応その人に会釈すると。
「なぁ、おめえさは何て言う名前なんだ?」
レンがいつもの調子でその人に名前を聞いてしまった。
「止めろレン、せめて敬語使えよ」
「同じ新入生なんだから、別にこのくらいいいべさ」
いや、駄目だね。
いくらレンの言いぶりをあの人が許したとしても、礼儀に欠ける。
「あ、僕の名前は、柊木クレハって言います」
「ほら、別に気にした素振りねぇべ。おらはクラホ・レンって言うだ」
「クラホさんですね、よろしくお願い致します」
と、彼女が座りながらお辞儀をした時。
「っ!?」
俺はその光景に驚いて、つい席を立ってしまった。
雪のように白く美しい髪の毛が、額の前で整えるよう分けられていて、その髪の毛だけでも衆目を惹き付ける上に、端整な顔立ちはちょっと怖気がするほど綺麗だ。その柊木クレハさんの耳が、エルフ耳だった件について。
「クレハの耳の形はおらと一緒だな」
レンが無作法にも一人称僕の彼女のことを呼び捨てにしている。
「あ、本当ですね」
「初めまして、私は高薙志穂と言います。これから三年間よろしくお願いします」
「こちらこそ、それで奥手にいる彼は」
……ふ、彼女がエルフ耳だったことについ絶句してしまった。
落ち着け将門竜馬、まだ慌てるような時間じゃない。
「こいつの名前は将門竜馬、おらと将来を約束した許嫁みてーなもんだべ」
レン、おまっ!?
余計なこと言うなよ、その台詞を聞いた彼女がきょとんとしちゃっただろ。
「……そうなんだ」
「おらと竜馬は二人で高校デビューを目指してるべさ」
「高校デビュー? それって具体的にどんな内容なの?」
「とりあえず、おら達は全校生徒に認められるようなあっづあづのカップルになるだ」
と、そこで我慢の限界を迎えた俺はレンの口を手で塞いだ。
これ以上は止せと。
「こいつの言ったことは冗談みたいなもんだから、これからよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。そろそろ入学式が始まるみたいだよ」
柊木さんが眼下の壇を指差すと、スーツ姿の人がいた。
俺は気を引き締め直し、会場の中央を見守っていると。
「……皆様、本日は明竜高校へのご入学おめでとう御座います。私、明竜高校で柊木校長の影武者をやっております、吹雪と言います。名目上では、明竜高校の教頭ではありますが、以後お見知りおきを」
……影武者?
その後、吹雪教頭の祝辞はつつがなく終わり。
明竜高校の入試で最も成績のよかった新入生代表の挨拶が入り。
一応、入学式は終わったものと思われた。
その時、会場の至る所から炸裂音が鳴り、今年度の入学を祝う金銀の紙吹雪が舞い上がった。
「今一度、今年の新入生にお祝い申し上げます――コングラチュレーション、入学おめでとう」
……嗚呼、なんか、いいな。
俺は入る学校を間違ってなかった、とにわかに思えた。
俺が重視してるのは、学生の努力や苦労に寄り添える学校環境なんだから。
この学校は一見は普通の進学校だけど、これから三年間が楽しみでしょうがなかった。
話としては入学式が終わり、学校から一年生用の修学キットが添付メールで送られた時まで進む。高薙さんを始めとし、俺が一年間のカリキュラムを自室で確認していれば――ユーガットメール。
懐かしい手合いからメッセージが届いた。
『親愛なる竜馬へ、この度は高校へのご入学おめでとうございます!』
「……――」
一瞬返信しようか迷ったけど、とりあえず。
『ありがとうストーカー、どうやって俺のメルアドを調べ上げた?』
『君の嫁である僕には造作もないことだよ、ワトソン君』
『俺の嫁? 誰が? それはそうとお前とは縁切ったはずだろ』
俺の高校入学を祝うメッセージを送って来た相手は、かつてのオンゲ仲間だ。
結構最近まで熱中していたけど、爺ちゃんが死んだタイミングで卒業した。
そのオンゲでは結婚システムがあって、俺は今やり取りしている相手と仮想結婚をした。のはいいんだけど、こいつとの仮初の夫婦生活を半年以上続けていると、ある日、急に話があるって言われて、結果的にこいつもレンと同じく性別誤認していたことが発覚した。レンとは逆のパターンで、男性が女と騙っていた。
そこまではネトゲでよくある話だった。
俺も割り切って、そういう人もいるよねって感じだったけど。
――君との夫婦関係を、リアルでも続けたいと思ってるんだ。
と、切り出され、戦慄した俺はそのゲームからフェードアウトしていった。
その後不運にも爺ちゃんが急逝して、完全に引退したつもりだった。
『酷いよー(´;ω;`)』
『貴方とは何があっても結婚できない、さようなら。このアドレスは十秒後に消滅する』
『ちょ、ちょっと待ってよ! 本当にいいの!? 僕と絶縁なんて竜馬後悔するよ』
『その理由は?』
この時、こいつに理由を問わずに話を打ち切っていれば俺は高校での三年間を平静でいられたんだと思う。
『実は僕、竜馬に嘘を吐いてたんだ。僕達、たぶん、今日会ってるよね?』
……まさか!?
『失礼ですが、貴方様は柊木さんだったりするのでしょうか?』
『そうでーす( ´艸`)』
神様、もしも貴方がこの世に実在するのだとすれば。
俺、貴方の顔にツバでも吐きかけたのでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます