第13話 おらさ、逆プロポーズとか、わがんね

「りょ、竜馬、ここってまさか」

「以前、お前と一緒に指輪を眺めに来た店だな」

「いいのか? 本当にいいのか?」


 レンは念には念を押すように、ホワイトデーのお返しがこの店で扱われているような高級品でいいのかと問い質して来た。まぁ俺もそのために多少財布膨らませて来たんだから、駄目な時は駄目だけど。


「とにかく入ろう」

「お、おら、もうどうなってもえぇ。竜馬のためなら何だってするだ」

「君、今なんだってするって言ったよね?」


 とかいうお約束はもういいから、俺達はジュエリーショップの豪華で綺麗な入り口を通り、近くに店員さんがいないか探す。するとある店員さんと目があったので、その人の方へと近づくと。


「何か御用でしょうか?」

「実はこのエルフ耳に似合うイヤリングを探してまして」

「エルフ耳、ですか?」


 店員さんに単刀直入に用件を伝えると、レンは耳を手で隠していた。


「申し訳ねぇけど、おら、他人様にあまり自分の耳見て欲しくねぇんだ」


「なるほど、畏まりました。イヤリングでしたらあちらに飾ってありますので、何かありましたらまたお呼びください」


 く、くそ。

 レンは自分のエルフ耳をなんで嫌うんだ。


「竜馬さ! こっち来いよ、凄い素敵なものばかりだぞ」

「あいよ、でもさぁレン、もったいないよ。お前のエルフ耳は至高なんだぞ至高」

「仕方ねーだろ、自分以外の人間に耳触れられると、感じちまうんだし」

「何それ? 感度3000倍だったりする?」

「御託はいいから、おらの好きなものを選んでいいのか?」


 言われ、目の前のショーケースの中に侍られたイヤリングを見る。

 値段はピンキリで、最安値でも5、6万するな。

 でもここは、先ずはレンの感性を聞きたい。


 この中から一番欲しいと思うものを、忖度なしに選んで欲しかった。


「ああ、レンの好きなものを選んでくれよ」

「やばぁー、へへ、これはかなりやべぇな」


 サファイアにトパーズ、ルビーにダイアモンド。

 貴金属がつけられた数々のイヤリングを前に、レンの目は輝いていた。


 中でもレンが立ち止まって熱心に見ていたイヤリングがあった。

 ブランド物の奴で、嵌められているのはダイアモンドのシンプルな作りのピアス。

 お値段が税込み……十三万円なり、決して買えなくはないな。


「ん……うーん、なぁ竜馬、本当に好きなものでいいのか?」

「ああ、恐らくお前が選んだのはこれだろ? 問題ない」

「本当に買ってくれるんけ? そしたらおら、竜馬にはもう一生逆らえないだな」

「あの、ちなみに試着とかって出来ますか?」


 と店員さんに聞くと、もちろんで御座いますと言ってくれた。

 本来なら店員さんが商品を取り出し、そのまま装着までしてくれるのだが。


 レンは他人に耳を触れると感じてしまう敏感少女だから、自分で身に付けていた。


「よくお似合いですよ、最初はこれを身に付けるには貴方は幼いイメージがありましたが、実際身に付ければ何ら違和感ありませんね。耳元がより一層お美しく印象的になられたかと思います」


「そ、そうけ? ならこれ頂いちゃって……いいのか竜馬?」

「キャッシュの一括払いでお願いします」

「畏まりました、領収書等は必要でしょうか?」

「要りません」


 と、淡々と俺はレンへのプレゼントを購入していた。

 レンは今起きている状況が余り呑み込めてないのか、呆然としている。


「竜馬、なしておらにこんな高価なものくれるんだ?」

「なんでだろうな、俺にもわからないけど、何となく見栄張ってみたかった」

「竜馬はやっぱりおらのこと友達以上に思ってるだな?」

「そこは否定しない」


 そう言うと、レンは禁止にしていたはずなのに、俺の手を取った。


「俺達は恋愛禁止だったはずだろ」

「んなこまけぇこと、今は気にすんなって。なぁ竜馬」

「なんだよ」


 レンは空いていた片方の手も取り、両手を握りしめて俺を上目遣いで見詰める。

 レンの表情を見る限り、これ以上ないってぐらい喜んでいるようだった。


 レンはその喜びを隠したくなかったようで。


「おら、この先ずっとずーっと、一生竜馬の傍に居てぇ」

「おいレン、それって恋愛禁止所か、逆プロポーズみたいなことになってるぞ」

「男がこまけぇこと、気にするでねぇ」


 するとレンは掴んでいた俺の手を強引に引っ張り、顔を近づけさせるとまたキスをした。

 彼女からキスされた瞬間、俺の胸は喜ぶように気持ちいい高鳴りをし始める。


 恋愛禁止だと言ってるのに、俺達はすぐに失念して、約束を反故にしている。

 これは将来ろくな大人にならないぞという余念を想起したものだけど。


 レンの一途な気持ちが俺に向かっているのは、誰にも渡したくないと思えた。


「おらたちは恋愛禁止だけど、けどおらは一生おめえさの隣にいるだ」


 こいつ、自分の正体を明かしてから加速的に俺を好きになっていってるぞ。

 本音を言えば、俺もそうだったかもしれない。

 

 俺は本当のレンと出会ってから、また一つ、また一つと、エルフ耳の美少女を好きになっていた。

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