1章13話 みそっかすのレオン

シロの食事も終わり、真野は紗希、シロ、菊を集めて今後の予定を話した。



「3人とも聞いてくれ。

 まず、俺はこれから魔王としてこの世界に君臨する。」



紗希が息を呑むが、真野は構わず続ける。



「だが、侵略も統治もしねえ。

 国同士が争わねーように睨みを効かせる存在として、世の中に在り続けようと思う。」



「フム、なるほどねえ。顔つきが変わったと思ったのは気のせいじゃなかったか。悪くない手じゃないか。」



菊の言葉に、シロも小さく頷く。



「ケッ、分かったような事抜かしやがって。

 でだ。まずは守りを固めたい。そのための魔物を召喚しようと思うんだが…おい、ババア」



「なんだね、クソガキ」



「魔法を連続で使用する事にリスクはあんのか?

 そんなにポンポン召喚できるとは思えねーんだが。」



「リスクもあるにはあるが、どちらかというと損をするっていうのが近いかねえ。」



「どういう事だ?」



「召喚の魔法ってのは、恐らく体内の魔力量と召喚する魔物の希少さがある程度比例するだろう。

 例えばさっきアタシを召喚したばっかのアンタが今召喚出来るのは、みそっかすみたいな魔物だろうさ。」



「なるほどな。まあそうだろうな。

 …わかった。じゃあひとまず、今日は1日にどんくらい魔物を召喚出来んのか試すか。

 そんで次はどれくらいで回復するのか試す。

 こんなもんでどうだ?」



「良いんじゃないかい?まずは自分を知る事から始めるってのがなかなか堅実で、意外だがねえ。」



「うっせえ。」



「オータ…」



紗希は俯き、少し青褪めているように見える。



「紗希、俺はもう決めた。

 色々言いてえ事もあるだろうが、まあ今日のところは勘弁してくれ。」



「…分かった。でも、危ない事はしないでね?」



「分かってるっつーの。オカンかお前は。」



「もう!オータのバカ!!こっちは心配してるのに!!」



「わかったわかった。危ねえ事はしねーよ。心配すんな。」



「ホントに?」



「あー、ホントだホント。神に誓う。

 いや待て、神はやめとこう。シロに誓う。」



真野は慣用句をわざわざ言い換える程度には、神という存在を否定したい気分だった。



「誓われましたぞ!」



「よくわかんないけど…了解。気をつけてね。」



「ああ。紗希はそろそろ帰るか?送ってくぞ?」



「オータは外に出ない方が良いでしょ。

 そろそろ外も暗くなって来たでしょうし、ここから出る時だけ気をつければ大丈夫よ。」



「じゃあ念の為アタシがついていこうかねえ。」



「いや、ちょっと待て。」



紗希と菊がエレベーターに向かおうとしたところを、真野が止めた。



「なんだい。あんまり遅くなると、危ないだろうに。

 嬢ちゃんはべっぴんさんだから、一人での夜歩きはさせないよ。」



「ちょっと待てっての。いくぞ。!」



バシュンッ!!



例の風切り音の後に現れたのは、小さな爬虫類だ。



「ウッ…」



紗希が思わずといった感じで後ずさった。確かに女性には忌避感を与えるルックスかも知れない。

シロはなぜか息を荒くしていたが。



「お!成功か!?お前、喋れるか?」



返ってきたのは沈黙だった。



「喋れないのか…じゃあ魔法は使えるか?コイツに掛けてやって欲しいんだが。」



真野にそう声を掛けられた爬虫類の魔物は、紗希の方を向いてよく分からない鳴き声をあげた。



その瞬間、紗希は消え去った。



「嬢ちゃん!?」「紗希さん!!」



菊とシロは慌てた声をあげるが、真野は微動だにしない。何より、



「菊さん、シロちゃん、どうしたの?」



消え去ったその場から、紗希の声が聞こえた。



「悪い、先に説明すりゃあ良かったな。

 多分こいつはカメレオン型の魔物だ。

 周りに見えない魔法を使えるようにってイメージで召喚したからな。

 名前は…レオンにすっか。」



「そういう事かい。アタシはてっきり、そいつの魔法で嬢ちゃんが危害を加えられたのかと思ったよ。

 まったく、クソガキは口が達者な癖に言葉が足りないねえ。」



「だから悪かったっつったろ!

 まあこれで塔から出てもバレなくて済むよな?

 婆さん、紗希を送ってってやってくれよ。」



「はいよ。レオンも一緒においで。」



新しい仲間のレオンを懐に入れた菊は、ようやく紗希と共にエレベーターへ向かっていった。



「しかし、良かったのですか?ご主人?」



「あ?何がだ?」



シロが心配そうに真野に尋ねる。



「紗希さんも神とご主人との会話に参加していました。名前こそ出していないものの、ご主人との関係性を知っている者がいれば気付かれてしまうのでは…」



「それは大丈夫だ。先手は打った。」




――――――――――――――――――――――


『こんなとこで良いっスか?

 そろそろ俺っちも他にやる事あるんで切りますよ?』



「最後にもう一ついいか?」



『なんスか?』



「紗希は関係ねーだろ。俺とお前の会話に巻き込まれただけだ。誤魔化せ。」



『誤魔化せってどうやるんスか!?無茶振りっス!!」



「良いから誤魔化せ。」



『分かりました!分かったっスから!怖いっス!

 ああああ、近づいてこないでっス!!

 やります!!やるっスってば!!!!』

――――――――――――――――――――――



神がやると言ったのだ。なんとかするだろう。

こうして波乱に満ちた夜が、ようやく終わりを告げた。

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【休載】魔王だけど、まあ世界は俺に任しとけ 紺灰 @Ockh

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