1章11話 仲が良くない友達の家は気まずい

「おいしい!これおいしいですよお婆さん!!」



「そうかいそうかい。

 嬢ちゃんは食いっぷりも良いねえ。

 こっちも作った甲斐があったってもんさ。」



真野、紗希、老婆の3人はひとまず腹ごしらえをする事にし、食卓を囲んで老婆の作った生姜焼きをつついていた。



特筆すべきは老婆の料理スキルと紗希のコミュニケーションスキルだろう。



見たことも無い食材を匂いを嗅いだだけで使いこなし、日本の定番料理である生姜焼きを作りあげた老婆。



その老婆に心を開かせ、孫のように気に入られている紗希。



あまり仲の良くない友達の家に来た子供のような気分になっている真野は、居心地の悪さを感じながら無言で生姜焼きを口に運んでいた。



「お婆さん、そういえばさっき魔法を簡単に使っていたように見えましたけど、あれって私達にもできるんですか?」



「どうだろうねえ。少なくとも、そこのクソガキがアタシを召喚したんだから、魔法を使えないってわけじゃないんだろうけどね。」



確かにそうなのだ。

出てきた老婆のインパクトでそっちのけになっていたが、真野は確かに魔法を使った。

初めての経験だったが、特別何かを意識したわけではない。

何かがトリガーになったのだろうか。



「それは俺も気になってた。

 どういう原理なんだよ、ばーさん。」



やっと入っていける話題になり、しかもかなり気になっていた事でもあったため、真野はすかさず2人の会話に割り込んだ。



「ババアだのばーさんだの、アンタはほんとに失礼だねえ。

 主人なんだから、召喚した魔物に名前ぐらいつけたらどうなんだい。」



「そんなもんか?じゃあ、お前の名前は菊だな。

 なんかそれっぽいし。」



真野は投げやりに言った。

が、老婆はそれが気に障ったらしい。



「人の名前をついでみたいにつけるんじゃないよ!」



「今は魔法が気になってんだ、しょうがねえだろ!」



「でも、素敵な名前だと思いますよ!お菊さん!」



「そうかい?まあ確かに、悪くはないねえ。」



紗希の言葉に、老婆が相好を崩す。



「ババア!俺と紗希で態度違いすぎんだろ!!」



「当たり前さね!人としての完成度が違いすぎるわ!

 あとアタシはババアじゃなくて菊だ!」



「名前気に入ってんじゃねーか!」



「2人は仲がいいですね!」



「「どこが!?」」



「ほら、息ピッタリ。フフッ」



紗希の言葉に、真野と老婆改め菊は顔を見合わせ、揃って溜息をついた。



――――――――――――――――――――――



生姜焼きを食べ終え、ひとまず片付けまで終えたところで改めて真野が口を開いた。



「んでババア、結局魔法ってのはどんな原理なんだよ?」



「アンタがつけた名前はどこに行ったんだい、まったく…

 魔法ってのはね、身体の中にある魔力を言葉を使って表に出すんだ。

 例えば、アンタがアタシを召喚する時になにか鍵になるような言葉を口に出さなかったかい?」



菊のインパクトで曖昧になった記憶を、なんとか手繰り寄せる。



「あー、確かあん時はメシ作りたかったのにコンロが使えなくて…

 火が使える魔物でも召喚できたら、みてーなことは言った気がするが…」



「それだろうねえ。

 実際アタシは火が使える魔物だ。

 ある程度主人の意に沿う結果をもたらすのが魔法ってもんだよ。」



「なるほどな。って事は何かキーワードを口に出して発する事、その際にはある程度具体的なイメージがある事、あとは体内にある魔力がそのイメージを具現化できるかが条件になるって事か。」



真野は菊から聞いた事をもとに、魔法についての認識を定めた。



「なんだい、口は悪いが頭は悪くないみたいだねえ。」



「こう見えてこっちも必死だからな。

 なんせ世界中が俺の敵になっちまった。」



「さっきもそんなような事言ってたねえ。

 どういう事なんだい?」



「それ、私も気になってた。

 改めてオータの口から聞かせてよ。」



「そうだな。俺も一回整理したいしな。」



そして真野は、ここ数日で起きた理不尽な出来事を、2人に語るのであった。



――――――――――――――――――――――



「そうかい、そんな事が。

 アタシもだいぶ面白い事に巻き込まれたみたいだねえ。」



菊が深い笑みを浮かべながら口を開いた。



「少しも面白くねーわ!こっちは世界の敵だぞ!?

 やってられるか!!」



真野が叫ぶ。



「でも世界の為なんだろう?

 実際その神とやらのお陰で、今となってはアンタが世界の敵だ。

 現状がどうなっているのかは知らんが、敵の敵は味方。紛争だの小競り合いも一旦止まっているんじゃないかい?」



「そうみたい。」



「あ?」



「ツイーターが大変な事になってる…

 オータの話題で持ち切りよ!」



紗希がスマホを見ながら慌てた声をあげた。



「クッソ!なんでこんな事に…」



「背負う覚悟をする時なんじゃないのかい?」



「あん?」



菊がより凛とした雰囲気で真野に語り掛ける。



「神から魔法を授かって、人々の間で紛争が始まった。

 そこに現れた魔王。人々の関心を引くのにはうってつけだ。

 アンタが逃げ回ったら何が起きる。

 人々の間にまた争いが始まり、多くの人が傷つく。

 場合によっては命を落とす事もあるだろう。

 アンタの大事な人にも害が及ぶ可能性もある。

 それを止められるのは、アンタをおいて他にはいないんじゃないのかい?」



「それは…」



菊の真に迫った語りかけに、真野は目を逸らした。

視線の先では、紗希が心配そうにこちらを見つめている。



「少し…時間をくれ…」



「オータ…」



紗希と菊の視線から逃れるように、真野はキッチンから出て行った。

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