1章10話 敏感系主人公の慟哭
バシュンッ!
この音だけで、真野は今までの流れから、なんとなくこの後何が起きるのかを察していた。
(ああ、これ魔物召喚しちまったんだろうな…
これで俺も世に仇なす魔王か。
…いや、待てよ?
確かチャラ神が初回の魔物召喚はSR確定ガチャだっつってたよな。
てー事はもしかしてめちゃくちゃデカい魔物とか、とんでもない力を秘めた魔物とか出てきちゃうのか?
大体ラノベとかだと絶世の美少女が出てくるのがテンプレだよな!
そんで俺のこと『マスター、永遠の忠誠をあなたに捧げます』とか言っちゃうやつだ!
どの展開でも最高にテンション上がるな!
やべえ、オラわくわくすっぞ!)
真野は音がした場所と紗希の間に立ち位置を変更しながら、内心では沸き立っていた。
そんな真野をよそに若干の風切り音が聞こえ、先程まで何もいなかったはずの空間に、佇んでいたのは…
一人の老婆だった。
「「え…?」」
真野と紗希は顔を見合わせ、今起こった事を必死に理解しようとしていた。
「これはこれは…」
シロも表情は分かりにくいものの、少し後退りして警戒するような素振りを見せた。
「アンタが主人かい」
老婆がハスキーな声で真野に話しかけてきた。
皺が多く和服を着ている事から老婆にしか見えないが、背筋はピンとしており、凛とした雰囲気を持っている。
「バ…」
「バ?」
「ババアじゃねえかああああ!!!!!!」
真野は涙を流していた。
先程までの沸き立っていた心は粉々に打ち砕かれてしまい、その場に膝から崩れ落ちたのだった。
――――――――――――――――――――――
「どうよ、オータ。落ち着いた?」
「ああ、なんとかな…
チクショウ、チャラ神め!
とんだ外れくじ掴ませやがって!!」
真野はとにかく立ち上がる事はできたものの、どうしても納得がいかないようだ。
「まったく失礼なクソガキだよ。
アタシを喚び出しておいて、言うに事欠いてクソババアとは。
年長者への敬意が足りんようさね。」
「…うるせぇ。こっちは夢破れてんだ。
少しぐらい口も悪くならあな!」
「オータ、失礼だよ。こっちが喚び出しておいて…」
「まったくさね。アタシの主人はアンタなんだろ?」
「…まあ、そういうことになるのか?
こっちも良く分かっていないんだが…
なあ、お前は魔物なのか?」
未だ想像とのギャップについていけていないが、真野は老婆との対話をする事に決め、問い掛けた。
「年長者に対してお前とは随分だねえ。
良く分かってないってのはどういう事だい?」
「こっちもいきなり自称神とやらに無理矢理力を押しつけられたもんだから、色々整理できてねーんだよ。
魔物を召喚するつもりも無かったんだが…」
「それは難儀さねえ。ああ、アタシは魔物だよ。
ゴーストって事になるのかねえ。
この世界の事はアタシも良く分からんが、霊体が既存の生き物なんて世界は無いだろうからねえ。」
「そうか。しかし魔物っていうからにはもっとこう…
なんというか極端なのを想像してたんだが…
会話もできるしイメージと違うな。うん…」
「アンタがどんな魔物を召喚できるのかは知らんが、そういう意味ではアタシはまともな方なのかも知れないねえ。
普通魔物っていったら凶悪なモンだろうさ。」
「だよな。…はあ〜ゴーストか。
これで俺も魔王への道を一歩踏み出しちまったなあ…」
意気消沈した真野をよそに、紗希はここでも好奇心を隠さず、話題を転換した。
「お婆さん、これは使えますか?」
「アンタべっぴんさんだねえ。
これはなんだい?」
「コンロって言って、火を使う調理器具です。
火の魔法を使わないといけないみたいなんですけど、私たちは魔法の使い方が分からないから困っていて…」
「そうかいそうかい。
火の魔法なんて言っても色々あるが、火をつけるだけなら簡単なモンだよ。
見ておいで。
ボッ!
老婆がコンロに手を向け単語を口にすると、そこにあるのが当たり前のようにコンロに火が灯る。
「すごい!火の魔法が使えるんですね!!」
「こりゃあ助かるな。
婆さんやるじゃねーか!」
「こんなモン、初歩の初歩さね。
さて、食材はどこだい?」
「この中ですけど、そのまま食べられるものはありませんよ?」
紗希が冷蔵庫を指し示すが、その疑問ももっともだ。
なにせ、老婆の外見とはいえ相手は魔物である。
「そんなこたぁわかっとるわい!!
アタシを誰だと思っとる!?」
「そーいや名前聞いてなかったな。
なんて名前なんだ?」
「人に何かを聞く時は、まず自分から言うもんさね!
礼儀もなってないガキンチョはお呼びじゃ無いよ!」
「ハイハイ。俺は真野欧太だ。」
「私は水川紗希と申します。」
「そうかいそうかい。」
「おい、そんで婆さん、アンタの名前は?」
「アタシに名前なんて無いよ。」
「は?」
「さっきアンタに呼び出されたばかりじゃないか。
名前なんてあるわけないだろうに。」
「じゃあさっきの礼儀云々はなんだったんだよ!?」
「あれは流れさね。」
「んな流れねーわ!このクソババア!!」
「ホントに口が悪いねこのクソ主人は!
いっぺん懲らしめてやろうか!!」
「おー、やってみろや!」
「はい、2人ともストップーー!!!!」
「紗希…」「嬢ちゃん…」
「ひとまず3人でご飯食べましょ?
話はそれからでも遅くないじゃない?」
「まあ…」
「そうさね。」
「じゃあ私、お手伝いしますよ!
なに作りましょっか!」
「そうだねえ、この材料だと…」
(敵わねえな、ったく…)
紗希と老婆が料理の支度を始める傍らで、真野は微笑を浮かべながら独りごちるのだった。
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