1章9話 魔王と魔王の間

『66階、魔王の間です。』



世の中に普通に存在しているエレベーターのような機械音声に促されると、まず目の前に飛び込んできたのはズタズタにされた大きく頑丈な扉と、白く大きな塊であった。



「シロか…?」



「ご主人!!ご無事でしたか!」



竜巻が起きそうなぐらいにブンブン尻尾を振りながら真野達に近づいてきたのは、家に残してきたはずのシロだった。



「なにやら突然パッと室内が光ったかと思えば、数瞬後にはここにおりましてな。

 ご主人に何かあったやもしれぬ、と焦ってはみたものの、ここからどこかに行く手段が見つけられず…」



「チャラ神のやつ、家のものってシロも含んでやがったのか。

 まあお互い無事で良かったな。」



「はい!」



「そのへんに転がってる瓦礫の山は、お前がやったのか?」



その質問に、シロは大きな身体を縮こまらせていた。

自分でも自分が異常であるのはわかっている。

シロにとって一番恐ろしいのは、真野と離れる事なのだ。

主人は異常な自分とは行動を共にしてくれないのではないか、と最悪の想像が頭を過ぎる。

とはいえ誤魔化しようもないので、恐る恐るではあるが正直に答えた。



「左様です。

 扉があったので慌てて外に出ようと衝突したところ、こんな有様でして…

 いやはや、なんと申しますか…」



「…すげーなシロ!」



「なんですと?」



怖がられるか怒られるかの展開を想像していたシロにとって、真野の発言は想像していたものから大きくかけ離れていた。



「こんな頑丈そうな扉をぶち壊すなんて、普通じゃできねーよ!

 お前、身体デカくなっただけじゃなくて強くなったんだな!」



普段はあまりしない、目を輝かせるような真野の表情を見て、シロも、真野の後ろでオロオロしていた紗希も、安堵の表情を浮かべた。



「そうかも知れませぬ。とはいえ偶発的な事ですから、一時的に力を発揮できただけの事なのでしょう。

 あの時はご主人のもとに馳せ参じる為、かなり慌てておりましたからなあ。」



「ありがとな、シロ。」



「いえいえ。例には及びませぬ。」



「ねえ、そろそろ良いかしら?」



「なんだよ、紗希」



「シロの後ろに転がってるのって、オータの家具?」



「ああ、そう見えるな。」



「という事は、オータとシロちゃんはここで暮らすの?」



「まあそれっきゃねーだろうな。

 チャラ神のせいで、この塔が俺のもんで俺が魔王だってのが世界中に知れ渡っちまった。

 今後どう生きていくかも含めて、まずはここで今後の方針を考える必要がある。」



「そうね。すっかり巻き込まれちゃったけど、私もできる範囲で協力するから!」



「わりーな。とりあえずメシでも食ってくか?」



「そうね。でも、何か食べる物あるの?」



「…そのへんよくわかんねーな。

 見た感じ冷蔵庫もそのまま転送されてるみてーだから、食材はあるはずだが…」



真野はそう言いながら使い慣れた冷蔵庫を開けた。

中に入っていた食材もそのまま一緒に転送されてきてはいたが、そのまま食べられるようなものは無い。



「ねえ見て!この部屋にコンロがあるわよ!」



「勝手に扉開けんなよ。何があるかわかんねーぞ?」



「良いじゃない。オータの家なんでしょ?」



「いや、お前好奇心ホント…

 まあいいか。火つきそうか?」



「ツマミがないわね。これどうやってつけるのかしら?」



紗希の問い掛けに答えるかのようなタイミングで、機械音声が流れる。



『火の魔法を使用してください』



「ご丁寧にありがとさん!!

 次からは魔法の使い方も教えてくれやチクショウ!!」



「これじゃあ料理もロクにできないわね…

 とはいえオータは外に出られるような状況じゃないし…」



「クソッタレ…

 で火の魔法使えるヤツでも召喚できりゃ…」



バシュンッ!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る