1章7話 指パッチン再び

2人を包み込んだ光が消えると、そこはだだっ広いが何も無い空間だった。

薄暗く、ぼんやりとしか周囲が見渡せない。



「紗希!」



「え?ああ、大丈夫よ。

 なんなのかしらね、ここ…」



『やっと来たっスね!』



パチンッ!



「キャッ!」



薄暗かった空間に、突如明かりが灯った。



『真野さぁ〜ん、遅いっスよー。

 目が覚めたら裏の公園行ってくださいって言ったじゃないっスかー!』



「出たなチャラ神!!

 お前急に色々やりすぎて情報過多だっつーの!

 シロがデカくなっただけでお腹いっぱいだわ!」



「え、この声って…」



憤る真野、戸惑う紗希をよそに、自称神は一方的に言い募る。



『いやいや、真野さんもう魔王なんスから!

 魔王はドーンとしててもらわないと!』



「それまだ認めてねーから!

 既成事実みてーに言うなや!!」



『往生際が悪いっスねー。

 せっかく居城まで用意したのに。

 あ、ここどうっスか?

 気に入ってもらえました?』



「デカいわ!あとあのManoTowerってなんだよ!

 新築マンションみてーな名前つけやがって!」



『あれは力作っス!

 色々考えたんスよ?

 魔王城だと捻りないっスねー、

 でも魔王塔だと語呂悪いっス…

 魔の塔…

 あ!真野さんの塔なんすから、真野塔っス!

 まだちょっと語呂悪いんで、真野と魔のをもじってManoTowerっス!

 てな感じで、思いつくまで幾星霜もかかったっス!』



「いや一晩しか経ってねーから!

 お前ホントいい加減だな!」



『てなわけで、バンバン魔物召喚しちゃってくださいよ!

 なんせ真野さんは人類の敵なんスから!』



「お前そーいうこと気軽に言うなよ…

 いきなり人類の敵とかそうそう受け入れられんわ」



『まあいいじゃないっスか!

 今はその塔、真野さん以外誰も入れないんで、今のうちにレベル上げとかしちゃいましょうよ!

 最強になってハーレム作ってヒャッハーしちゃいましょうよ!』



「ハーレムか…フム…」



「ちょっと、オータ?」



「さて、レベル上げとか言ってたが、俺にはよくラノベとかであるチートみてーなもんはあるのか?

 まあ、無きゃいきなり魔王認定なんてしないだろうが…」



『無いっスよ?』



「は?」



『だから無いですって。

 まあ強いて言うなら、何もせずに魔物召喚のオリジナル魔法を使えるようになった事ぐらいっスかね?

 見たところ魔力量も普通っスから、レベル上げしないとしんどいんじゃないっスか?』



真野は膝から崩れ落ち、床に手をついた。

なんだかんだ言っても、今まで普通のサラリーマンだった男だ。

胡散臭いとはいえ神から力を授かり、「俺って特別なんじゃね?」と思い始めていたところだったのだ。

なのでチャラ神からハーレムの話が出た時は無意識であったが鼻の下も伸びていたし、満更でもないと思い始めていたのだった。



「…レベル上げってなんだよ」



『お!やる気になってくれたっスか!?

 待ってましたよ、真野さ…』



「ちょっと待って!」



紗希が慌てたような声をあげた。

真野は失念していたが、この空間にはもう1人、紗希も存在していたのだ。



「オータ、何がなんなの!?

 魔王とか魔物とか、急になんなの!?

 この頭に響いてる声の主と、アンタは知り合いなの!?」



「紗希、ちょっと落ち着けよ…」



『あ、やべえ』



「あ?」



『真野さん、スンマセン。

 チャンネル間違えたっス。』



「チャンネル?なんだよそれ。」



『いやー、まあ大したことないんスけどねー。

 真野さん一人に話しかけたつもりだったんすけど、その星の人類全てに話しかけちゃってたみたいっス!

 まあよくあるケアレスミスってヤツっス!』





「…おい、それヤバくねえか…?」



『真野さんが魔王で人類の敵って宣伝できましたね!

 お得っス!』



「ふざけんなよおおおお!!!!!!!」

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