1章5話 疑わしいとは思うが、アイツは無罪だ

ピンポーン!



真野の部屋のインターホンが鳴る。

が、起きない。

それが真野。



ピンポーン!ピンポーン!



まだ起きない。

それでこそ真野。



ピンピンピンピンピンポーン!

ガチャッ



滑り込むように入ってきたのは、髪の長い女。

気が強そうだが、それでいて女性らしい雰囲気を併せ持つ、目を惹かれるタイプの美女だ。



「オータ!なんですぐ開けないの、、、え?」



「おはようございます。

 おー、お久しぶりです。

 お元気そうで何より。

 紗希さんはいつ見てもお綺麗ですね。」



「あ、ありがとうございます、、

 …え?ええ!?」



「何か戸惑っていらっしゃるご様子。

 とにかく中へどうぞ。

 ご主人はまだ起床しておりませんが。」



「き…」



「き?」



「キャアアアアアア!!!!!」



バタン!!



「紗希さん!大丈夫ですか、紗希さん!!」



「っだよ、うるせーなあ。

 休みの日ぐらいガッツリ寝させろや」



「ご主人、紗希さんが!!」



「ぁあ?あー、紗希か。

 あれ?なんでドア開いてんだ?」



「私が開けたからです、ご主人!」



「ふんふん。で?なんで紗希は寝てんだ?」



「分かりません。

 いつものように紗希さんをお出迎えし、

 いつものようにお話をしていたところ、

 急に大きな声を出して眠ってしまわれまして。」



「お前なあ。お前にとってのいつもは俺らにとっては全然別物だっつーの。

 てかその声、その口調で天然キャラは勘弁してくれよ…」



真野はそう言いながら、紗希の前に座り込む。



「ふーん。今日はピンクか。

 ちっと年齢的に厳しいような気もす…」



「なにが?」



「ん?ああ、紗希のブラの色がピンクでよ!

 もう26だってのにこんな可愛い感じのつけてんのはちょっときついんじゃねーかってな!」



「そう。もう言い残す事は無いかしら…?」



「あ」



顔を上げた真野の前には、顔は笑っているが目が笑っていない美女、水川紗希が立っていた。



「そこに直れオータぁ!!!!!!!!!」



「やっべ!起きてんなら言えよ!」



「うるさい!アンタが近づいてくるから、起きるに起きれなくなったんでしょうが!」



「あれれー?もしかしてキスとかされちゃうかなって期待しちゃいましたー?ざーんねーんでーしたー!」



「何言ってんのよ、このバカァ!!」



バシィ!!



「ブゴぉッ!!」



ドン!!ドサッ



紗希の平手打ちが綺麗に真野の左頬に入り、壁に激突し崩れ落ちた。



「オータが悪いんだからね!

 せっかく久しぶりに会いに来たらこれだもん!」



「イテテ…ったくお前は変わんねえなあ。

 何しに来たんだよ。」



「だから言ったでしょ?

 久しぶりにオータの顔見に行こうと思って来てみたら、、」



「あー、シロな。デカいままってことは…

 クソッ!昨日のあれはやっぱ夢じゃなかったか…」



「え!あれシロちゃんなの!?」



「ああ…そら驚くわな。

 俺も疑わしいとは思うが、まあアイツはシロだよ。」



「改めまして、お久しぶりです紗希さん。

 少し体が成長したもので、分かりにくかったですかな?

 はっはっは!」



「いやなんで老執事風ヤネン」



「分かる、分かるぞ紗希。」



驚きすぎて表情が死にかけている紗希の横で、真野は深く頷いていたのだった。






少し時間を掛けて落ち着いた2人は、シロが埋め尽くす室内でなんとかスペースを作り、ようやくくつろぎ始めた。




「そういえばさ、オータ。」



「あ?なんだよ」



「裏になんか凄いおっきな建物?塔?みたいの出来てたけど、あんなのいつ出来たの?

 あれだけの高さがあったら、ニュースとかでやりそうなものだけど。」



「あ?そんなんあったか?俺も知らねーけど」



「そんなわけないでしょ、こんな近くに住んでて。

 どう暮らしてても目に入るじゃない。」



「いやマジで知らねーって!なんだよそれ?」



その時、真野の頭には前日のやり取りがよぎった。

よぎってしまった。



――――――――――――――――――――――



「寝てる間に魔王にされてるとか、俺が何したってんだよ!?」



「まあ今さらっスねー。あ、そうそう!

 お詫びと言ってはなんなんスけど、初回の魔物召喚はレアな魔物が出る設定にしといたっス!」



「SR確定ガチャかよ!そういう事じゃなくてよ!」



「あ、あと目覚めたら裏の公園に行ってみて下さいっス!

 真野さんの新しい家建てといたんで!!じゃ!」



――――――――――――――――――――――



「まさかな…ハハ…俺も疲れてんなー」



「なに?どうしたの?」



「いや、ちょっとな…

 紗希、わりーけどその塔まで案内してくれや」



「良いけど、、?」



不思議そうにしながらも、紗希は真野を部屋の外へと連れ出し、アパートの少し横に回り込むと、アパートの向こう側を指し示した。



「ほら、アレよ。」



「な…」



「な?」



「なんじゃありゃああああ!!!!????」

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