1章1話 チャラ男は大抵指パッチンが好き

「クッソ、なんでどこも空いてねーんだよ!!」



男は出勤前の最寄駅を降りたところで発生した急な腹痛で、トイレを探し回っていた。



「いや、これもうあれだな、空いてる個室より人目につかなくてコンクリじゃない地面探す方が、、」



一応この男、26歳のサラリーマンである。



「はー、なんかもうどうでも良くなってきたな。

 もうやっちゃうかこのまま」



良くない。男のそんな発言に近くにいたオッサンがギョッとしている正にその時。



唐突に異変は始まった。






『あー、あー、地球の皆さん聞こえますかね?

 そこのいい歳こいてウ◯コ漏らしてもいっかな、と

 開き直ってるお兄さん、聞こえてます?』



「は?」



『そうそう、アンタっす。聞こえてますね。

 他の皆さんも聞こえてますかー?』



周囲を見渡すと、同じように周囲を見渡す人々。

みな困惑した表情で、なにかおかしな事が起きているような、それでいて理解できていないような、そんな不思議な空気に包まれていた。



『皆さんキョロキョロしちゃってウケるー!

 私はね!神です!ゴッド!神様!!

 今日は皆さんにお伝えしたい事があって、

 皆さんの頭の中に呼びかけさせてもらってまーす!』



ここで周囲のざわめきが大きくなってきた。


「聞こえるか?」

「聞こえる!何これ怖!」

「オギャアァァ!!」

「あー、よしよし大丈夫よ」



『なんかねー、地球の皆さんって不便そうだなって俺っちは思うわけなんすよー。だからね、今日は素敵なプレゼントをご用意しました。それがこちら!』



パチン!!

頭の中に指パッチンのような音が聞こえた。

その瞬間。



「お?なんだ?え、なんだこれ?」



身体の中に異物が入り込んだような感覚。

痛みはないが、若干の不快感があった。



『はい、今から皆さんは魔法が使えまーす!!』



「は?」



『あー、神の仕事疑ってるっすねー?

 安心してください!人間だけじゃなくて、他の生き物も魔法使えるようにしといたんで!!』



なにも安心できない。



『これで皆さんの生活も便利になりますねー!

 いやー、良いことしたっす。

 これはまた信仰ぶち上げっすかねー!

 じゃあそんなわけで、神でした!

 まったねー!!』



唐突に始まった異変は、唐突に終わった。



そして、神から名指しで恥ずかしい心理状態である事を指摘された男は色々な思考を棚上げにし、ひとまず空いているトイレを探すのであった。

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