第7話

 卒業式を迎える数週間前、私は体育館裏である人物を待っていた。ここは人気がなくて告白スポットとして密かに知られている。たまにいちゃついているカップルが先生に見つかって気まずい雰囲気になってしまうことでも有名な場所だけれども。

 しばらくぼーっと待っているとこちらへ向かってきている足音が聞こえてきた。この足音、二年以上過ごしてきた私には懐かしい音だった。

 「ごめんね月。急に呼び出しちゃって」

 私が振り向くとそこには月がいた。昔はボサボサの髪で顔の半分近く隠れていて、漫画でしか掛けないような黒縁の眼鏡をかけていて、陰キャって感じの見た目だったけど、今いる月は誰もが振り向きそうなスラっとした長身のイケメンになっていた。

 今思うと陰キャの月も好きだったかもしれない。ボサボサの髪から見えた顔はイケメンで行為をするときの恥ずかしさと必死さが混じった顔に私は見惚れていた。

 「どうしたのメイ?話があるって」

 「んー……ちょっとだけ歩かない?少し話すことを整理させて欲しいんだ」

 月はうんと頷いて隣を一緒に歩き始めた。

 「まずは……ありがと月」

 「急にどうしたの?」

 「月のおかげで高校生活楽しかった。ずっと不良扱いされながらボッチする毎日だと思ってたし、私達の関係って褒められる関係じゃないけど、それでも楽しかった」

 「俺だって感謝してる。メイのおかげでイメチェンできたし、恋まで実らせることができた」

 月の顔はすごく穏やかな顔をしていた。私が月を変えたと言う事実が私にとってはとても嬉しくて誇らしかった。

 だから、これからヤることに胸を痛めた。

 「それともう一つ伝えたいことがあってさ」

 「何?」

 歩きながら話していると駐輪場へとたどり着いた。私はそこで立ち止まった。『やっぱり言うのやめようかな?』なんて心の中で思っているけど、もう立ち止まってなんかいられない。だから私は覚悟を決めた。

 「やっぱり私は月が好きだよ!」

 案の定、月はびっくりした顔をしていた。ただ、その顔は一瞬で悲哀に満ちた表情に変わった。

 「メイ……それは」

 「あー!分かってる!別にヨリ戻してくれとか言わないから。だけど、私の気持ちも変わらないってことも知って欲しい」

 「………………」

 

 「だから、私今から最低なことするから」

 私が駐輪場で月を引き留めた理由。放課後、月を呼び出した理由。それはもう一人に私の最低なことを見て貰いたかったから。

 「あ、月いつまで待たせ……え?」

 月の彼女、つまり幼馴染の前で私は宣戦布告、復讐、悪あがき、すべての意味をこめたディープキスを月とした。時間にして十秒ほど、幼馴染は口をあんぐりあけて茹でたこみたいになっていた。

 流石の月も意表をつかれたのか顔が真っ赤になって硬直していた。

 「ねえ、幼馴染ちゃん。私と月はこれ以上のことたくさんしてきたんだから、こんなんで顔真っ赤にしてたら月とはやってけないよ~?」

 月に絡みつきながら幼馴染に挑発的な笑みを浮かべた。

 「今回は譲ってやるけど、少しでも隙みせたらどんなことしてでも月奪っちゃうから。よろしくね~♪」

 言うだけ言った私は月から離れて、そのまま踵を返して学校を後にした。私が消えるまでの間、月たちはずっと石像みたいに硬直していた。

 『よし!やってやった!』心の中で叫びたくなるくらい喜んだ。

 これで私の最低なことはやってやった。今日はやたら夕陽が綺麗だな。


 「さよなら、月」

 夕陽が眩しいせいか何だか涙がでてきた。いや、花粉かな?


 

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