第2話
「何だよ?浮かない顔してよ?」
「い、いや……何でもないよ」
階段でぶつかった彼はすごく複雑な顔をしていた。この顔を見て私はどこか既視感を感じていて、彼の顔に少しの間釘付けになっていた。
彼はそのまま軽くお辞儀をして通り過ぎようとしたけど、私は反射的に彼の腕を取っていた。このままほおっておくとダメな気がしてならなかったから。突然、腕を掴まれた彼は怯えている子犬のような表情で私を見つめて、何だか申し訳なく感じてしまう。
「いや……取って食うわけじゃないから、そんな顔すんなよ」
とりあえず彼が浮かない顔をしている理由を知りたかった私はなだめるように彼に話しかけた。
金髪でいかにもギャルって感じの人に絡まれてビビる気持ちは分からなくもないけど、ここまで怯えられると少しへこむ。こういう時の対処方法が分からないから少し強引に彼の腕を引っ張ってぶっきらぼうな表情で「とりあえずこい」と一言だけ言って、彼と学校を後にした。
「とりあえずさっきのお詫び」
「あ、うん。ありがと……」
強引に彼を連れ去った私はとりあえず近くのファーストフード店へと入っていった。警戒心を解くのとお詫びを込めて炭酸飲料とポテトを奢った。彼は恐る恐る飲み物に口をつけた。ここまで警戒されるとへこむけど、めげずに彼に話しかけてみる事にした。
「あんた。何を悩んでたの?」
「君には関係ないよ」
私が話題を切り出すと彼は嫌そうな顔をしてストローを噛んだ。その表情を見てこれは私が数か月前にした表情そのものだと今すぐに気づいた。おそらく彼はつい最近、失恋をした。
「もしかしてフラれた?」
「君……空気読めないの?」
「図星かよ」
「いや……それ以前の問題だったよ」
私の物言いに呆れたのか彼は諦めて事の経緯を語り始めた。彼は春上月と名乗った。彼が複雑な表情をしていたのは私の見立て通り失恋によるものだった。彼には小学校からずっと一緒だった幼馴染がいて、ずっと片思いをしていたらしい。だが、つい先日、幼馴染に彼氏ができてしまったそうでそれを誰よりも早く彼に嬉しそうに報告したそうだ。
幼馴染の前では祝福した彼だったが、内心は叫びたくなるくらい乱心していたらしい。
「いつもそばにいて当たり前だと思っていた。二人でいることが日常で楽しくて……だからさっき屋上行って飛び降りてやろうかなって、大怪我して入院すれば彼女もまた戻ってくれるかなって思ってた」
彼の悲しそうな顔が私に痛いほど突き刺さった。失恋というものは本当につらいものだ。特に彼のように思いを告げられず、失恋するパターンは後悔がとてつもなくでかい。こんなにもつらいなら愛などいらぬといったアニメのキャラがいたが、あながち間違いとも言い難い考え方だと思う。
「てかあんた屋上から飛び降りたら怪我だけじゃすまないと思うんだけど?」
「……確かにそうだな」
「ふふっ……勢いに任せすぎでしょ! 恋が実る前に死んだら元も子もないじゃん! ははは!」
私の指摘に意表を突いた顔をして、じっと見つめていた。その様子に思わず笑みがこぼれ声を上げて笑ってしまった。そういえば高校に入ってここまで笑ったのは初めてかもしれない。
「わ、笑いすぎだってば! もうそろそろ帰るから俺」
「んじゃ、途中まで一緒に帰りますか」
「いや、ついてくんなよ!」
店をでた私たちは途中まで帰路を共にした。彼の横顔を覗いた時、表情が柔らかくなったことを確認して少し安堵した。彼の様子を見る限り、もう話すことはないと思い彼と別れた。
そして翌日の昼休み、私は空き教室にいた。親友のライカは基本、彼氏と昼食を共にしているため、私はボッチなのである。ただ、今回は私よりも先に先客がいたみたいだ。
「おじゃましまーす」
「げっ!」
わかれて数十時間後、彼とまた再会した。
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