敗北感と共通点
いくら好きでも相手の幸せを壊してまで略奪するような考えは彼女にはなく、『もし離婚とか別れたりとかしたらその時には…』などと淡い期待も抱いたりしていたもののそんな都合の良い展開もなく、初めて既婚者でも彼女がいる訳でもない男性が気になったら、再会した時には結婚した後だとか、
『神様は私に何か恨みでもあるの!?』
と枕を涙で濡らしたりもしたのだった。
しかし久しぶりに会って人間的も明らかに成長した彼のことは人としてよりいっそう魅力的に思え、想いは届けられずとも交流は続けられればと思い現在に至っているというわけである。しかもそのおかげでこうして結人の転校もスムーズに決まり、引っ越ししたばかりであたたかく迎えられ、新しい生活を大きな不安なく始められるのは何よりだと思った。
と同時に、いいなと思った相手はちゃんとその時に唾を付けておくべきだとも思ったりしたが。だがまさか自分以外にあのコミュ障そのものの彼を好きになるような女性がいるとは思いもしなかったというのもあったのは確かだった。失礼なことを言ってるのは承知で。
ただ今日、これまでにも何度かビデオ通話でも話はしたものの、初めて彼の家で、彼の娘である
「ぐぞ~…」
決定的な敗北感に打ちひしがれながら、織姫は風呂の中でまた泣いたのだった。
けれども、それをいつまでも引きずらないのが織姫の良さでもある。この地での
『そうだよ! 落ち込んでばかりいられない!』
子供との同居の期間は自分の方が長いが、関係性で言えば彼の方が上手くいっているのを彼女は直感的に感じ取っていた。共に暮らし始めてまだ二年だと言っていたのに、沙奈子ちゃんが彼のことをとても信頼し、かつ、一緒に生活する者として自らもできることを積極的にやろうとしてる姿が見えて、そういう意味でも羨ましかった。あまつさえ、離れて暮らす血の繋がらない母や姉とも、距離を感じさせない繋がりが目に見えるようだった。
それに比べて自分は、
『もう五年も一緒にいるのに結人にちゃんと信頼もされてないし、何かと言えば大きな声で罵り合うし、母親どころか姉代わりにさえなれていない……』
感じていた。
『この差はいったい何なの…?』
織姫は思う。
『
ましてや結人も沙奈子ちゃんも実の親から苛烈な虐待を受けていたサバイバー同士。共通する点は多い筈なのだ。その辺りの秘密を学び取る為にも、彼との距離は保ちたいと思うのだった。
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