風呂と脱衣

 山下家でハンバーグをごちそうになった後、部屋に戻った織姫と結人ゆうとは、風呂に入ることにした。ただ、基本的には単身者に入居を前提として作られているこの部屋には脱衣所がないことから、結人は風呂場の前に着替えを置き、服を脱ぐのは風呂場の中で行った。織姫の前では服を脱いだりしなかった。

 しかも入浴もいわゆる<烏の行水>で、体を洗ったらまともに湯船にも浸からず、しかも体も頭もまったく丁寧に洗わず、五分ほどで出てくるという有様である。女子に『不潔!』と嫌われる典型だ。体を拭くのも適当で、ドアを開けて着替えを取り、やはり風呂場で服を着てから部屋に戻った。

そんな彼に対し、

『もう、しょうがないなあ。もっとちゃんとお風呂に入らなきゃ……』

 などと思いながら織姫も、何度言っても聞かないのでもう諦めてしまっていた。元より結人のような乱暴な男子が女子にモテる筈もなく、しかも当の結人自身が女子と言うか人間そのものを嫌っており、モテる気などさらさらないというのがあったのである。だから言うだけ無駄なのだ。

「んじゃ、私入るね」

 そう声を掛けながら入れ替わるように織姫が入った。

 彼女の前では決して服を脱がなかった彼と違って、織姫は彼がいることも全く気にするでもなく服を脱ぎ捨てて全裸になった。その体は、本人の言うように『肉付きはいいし特に胸は豊満すぎるほどだったが、デブと言うには微妙なライン』と思われた。もっとも、この辺りは見る人間の主観にもよるだろう。さりとて少なくとも病的な肥満では決してない。非常に健康的な肉体と言ってよかった。

 事実、彼女は健康そのものだ。骨密度も平均以上でしっかりしている。口寂しい時には煮干しなどをよくかじっているからかも知れない。ただ、そのせいで空腹をあまり感じないのか、仕事に夢中になると一日まともな食事をしていないなんてこともかつてはあった。

 とは言え、結人と一緒に暮らすようになってからはそれもあまりない。さすがに気を遣っているし、なにより結人自身が、『おデブ、腹へった』と声を掛けるからである。

 まあそれはさて置き、そんな織姫の豊満な肉体がすぐ間近にありながら、結人はそれをあまり気にしてないようだった。まったく気にならない訳でもないし、一時は『そんな格好してんじゃねーよ!』と食って掛かったこともあったが、彼女は彼女で他人の言うことを気にせず受け流す傾向にあり、何度言っても改めないので、結人の方も諦めてしまったという経緯があった。


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