ビデオ通話と訳あり

『初めまして、結人君。私はそこにいる沙奈子ちゃんの母親です。こっちは沙奈子ちゃんの姉の玲那。よろしくね』

 そう話しかけてくる見ず知らずの女性に、結人はあからさまに怪訝そうな顔をして見せた。若い母親はともかく、その母親と大して違わないと見える年齢の女がこの無愛想な奴の姉とか、およそまともな関係じゃないとしか思えなかったからだ。しかもその玲那とかいう女は、さっきからにこにこと笑っているだけで一言も口をきいていない。とその時、明らかに生身の人間のそれじゃない機械音声がテレビから流れてきた。

「初めまして、結人君。只今ご紹介にあずかりました沙奈子ちゃんの姉の玲那です。と言っても実の姉妹じゃないんだけどね。あと、私、怪我のせいで声を出せないので、機械音声でごめんね」

 と話しつつ、玲那と名乗った彼女は顎を上げて自分の首を指差した。そこには明らかに他の部分の皮膚よりも赤い筋が付いていて、確かに怪我の痕のようにも見えた。ますます<訳あり>の家庭だと彼は感じた。

 だが、どんな訳ありだろうと事情があろうと、自分には関係ない。それが彼の認識だった。

 その一方で、ハンバーグは嫌いじゃなかった。いや、むしろ好きと言ってもいいだろう。今、目の前にあるハンバーグは一見すると美味そうにも見える。しかし、これを、自分の正面に座っている沙奈子とかいう女が作ったものだとすれば、期待は出来なかった。何しろ明らかに自分と同じ年頃の子供だったからだ。

「じゃあ、ありがたくいただきます!」

 織姫はそう言っていたが、結人は手を付けるべきかどうか迷っていた。が、その時、

「あ、美味しい! すごいね沙奈子ちゃん! これ、沙奈子ちゃんが作ったんでしょ!?」

 と織姫は声を上げて、驚きが混じった笑顔で沙奈子に話しかけていた。その様子を、いたるや絵里奈や玲那が微笑ましそうに見ている。当の沙奈子も、笑顔ではないが少し和らいだ感じの顔で頷いた。それでも結人は、大人は思ってもみないことを口にすることがあると知っていた為に真に受けることはなかった。

『ホントかよ……』

 と訝しんだ表情で織姫を見る。しかし同時に、彼女については思ったことがすぐ口に出るタイプなのは知っていた。しかもこのテンションの高さは本気でそう思ってる時のものだ。それは分かる。だから結人も、半信半疑ながらハンバーグを一かけら、口へと入れたのだった。そして噛んでみた瞬間、織姫の言っていたことが本当だということを理解した。

『なんだよ、美味いじゃねーか…』


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