教師ごときが

 相手の意図を酌み取ろうしないというのは、

『コミュニケーション能力に難あり』

 ということだ。コミュニケーションというのは、結局、

『相手の伝えようとしている意図を理解する。理解しようと努める』

 ということだからな。

 俺もその保護者の伝えようとしていることについて理解しようと努めたが、そもそも大前提の部分が噛み合ってないから話がまるで噛み合わなかった。

 俺としては、

『いっぱい叩いて相手に怪我をさせたりしたらそれが<事件>となって結果的に自分にとっての不利益になる』

 って話をしたかっただけなんだが、その保護者は自分の子供を教師ごときが否定したのがとにかく許せなかったようだ。

 うん、教師を敬ってなんかいないよな。

『自分は正しいことをしているはずだ』

 と思ってる人間がそれだからな。と言うか、

『自分は正しいことをしているんだから何をやっても許される』

 的に考えていて、そんな親の考えをそのまま受け継いでるというのがよく分かる。

『法を蔑ろにする』

 というのは、決して正しいことじゃないはずなんだがな。

 まあ、いずれにせよ、俺はその年度は担任を続けられたものの、次年度は別の学校に異動になった。

 また、<問題行動がやまない男子生徒>については、俺が構うようにすると他の生徒に対してはあまり絡まなくなっていったが、六年生だったことで卒業してどのみち俺が関わることはできなくなった。

 などということもありつつ結果として<イジメ>には発展しなかったから、よかったんじゃないかな。

 それに、<問題行動がやまない男子生徒>が俺に絡むようになったことで、他の生徒の<教育を受ける権利>については守れたと思うよ。教壇の目の前に座らせると授業の妨害もしなくなったし。

 その一方で、俺が『その生徒だけを特別扱いしてる』って評価もされたりもしたけどな。

 こう考えても分かるだろ? 親の不始末の尻拭いを教師にやらせるんじゃないってよ。そういう生徒がいると、どうしてもそっちにリソースが割かれがちになるし、俺がそう評価されたみたいに、

『特定の生徒だけを特別扱いしている』

『依怙贔屓してる』

 みたいに思われることもあるんだからよ。

 他の生徒の<教育を受ける権利>を守るために特定の生徒を別の教室に移したりしたらこれまた、

『特別扱いしてる』

 だの、場合によったら、

『差別してる』

 だの言い出すのもいるんだ。とにかく、一般的な<普通の学校>ってのは、特殊な事情を抱えた生徒に対処できる体制は作りにくいんだよ。

 親の方もいい加減にその現実を理解してもらいたいもんだ。


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