構われたい子供
以前、こんなこともあった。
今年俺が担任をしていたクラスの男子の一人が、がさつと言うか乱暴と言うかデリカシーがないと言うか、何かっちゃ女子の髪を引っ張ったり、
「ばーか!」
「ぶーす!」
と暴言を吐いたり、すぐ人を叩くような子供だった。
しかしその生徒の家庭は非常に複雑な事情を抱えていてな。
母親が男を作って失踪して、父親も、子供にほとんど構わないネグレクト寸前の状態で。何度も児童相談所が介入しているような家庭だったんだ。
でも他の生徒にしてみれば、そんな家庭の事情なんて分からない。知ったところで、素人の子供にそんな家庭の問題に対処できるはずもない。事実、その男子生徒がいらんことをしたりすると何人もでそれを責め立てて、
「なんでそんなことするの!?」
「みんな迷惑してるんだよ!」
「ちゃんとできないなら学校なんかくんな!」
みたいな言葉を浴びせ掛けるんだが当然ながらそんなことで相手も反省するはずもない。むしろ『構われたい』から、余計に反発を招くようなことをする。
だから俺は、その男子生徒が保健室でカウンセリングを受けてる間に、他の生徒に対して、
「〇〇くんのことは先生に任せてください。みんなは〇〇くんに対して注意とかはしなくていいです」
と、告げたんだ。
「え~!?」
「なんで~!?」
「悪いことしたら注意しなきゃいけないですよね!?」
とか非難轟々だったが、
『まてまて、教師が手を焼いてることを<素人の子供>が何で対処できると思うんだ?』
って正直思ったよ。
まあ確かに、『注意しなくてもいい』とは言ったものの実際のところ『注意する』までは別にいい。その男子生徒の振る舞いを『よくないことだ』と認識できているのはいいことだ。あくまで『それ以上のことを生徒がする必要はない』ってだけだ。が、そこで無駄に角を立てたところで別の問題が生まれるだけだからそういう言い方はせずに、
「でも、みんなが注意してもやめなかったんだよね? 〇〇くんのことを人もいたけどやめなかったんだよね? じゃあそれ以外の方法でどうしたらやめさせられると思う?」
と訊いたんだ。それに対しては、
「もっといっぱい叩いたらいい!」
と主張した生徒もいたが、
「それで〇〇くんが怪我をしたら、逆に自分が罪を問われることになるよ?」
と返した。
相手は子供とはいえ人間だ。だからきちんと人間として接するし道理を説く。
しかし残念ながらこの時の俺の発言は、一部の生徒には意図が伝わらず、
『悪いことをした相手を注意したら罪に問われる』
と曲解されて保護者に伝わって、クレームをつけられる結果になった。
一応、発言の意図については改めて説明したが、どうにもこうにも苦労したよ。
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