特別養護学校へ

 そんなこんなで、とにかく敦輝は特別養護学校へ通うことになった。送り迎えはシッターさんにやってもらうことになる。

 もう二年近くそのシッターさんに見てもらっているからか、敦輝は素直に従ってくれる。

 いや、正しくは『従ってくれる』じゃないな。『反抗しなきゃいけない理由がない』だけだ。

 何しろ、怒鳴って殴ってとしないから、危険を感じなきゃいけない理由がないんだよ。と言うか抵抗しなきゃいけない理由がないんだ。

 無論、勝手な行動を取ろうとすることはある。突発的な行動を取ろうとすることはある。拗ねて駄々をこねることもある。

 でも、そんなのは大人だってあるだろう?

 だったら敦輝が見せる時があったって別に普通だろ?

 敦輝は動物が好きみたいでな。特に大きな犬が好きみたいなんだ。だから犬が近付いてきた時にはさらに注意が必要になる。いきなり駆け寄って触ろうとするんだよ。だからそういう時には、膝を着いて体を寄せて、

「あ~っ」

 声を上げながら指を指す敦輝に、

「そうだね。犬さんだね」

 と話しかけたりもする。手を振ったりしながら。すると敦輝も、

「あ~!」

 って一緒に犬に向かって手を振ったりする。俺やシッターさんが自分と同じように犬に対して関心を示してくれたことである種の納得が得られるらしい。だから、犬に向かって駆け寄ったりはほとんどしない。

 ただしこれはあくまで『敦輝の場合はそうだ』というだけで、他の子も同じようにして対処できるとは限らない。当然だ。<敦輝じゃない子>は敦輝じゃないんだから、まったく同じ反応をしない方がむしろ当たり前だろう。まったく同じ反応をしてくれるのなら、その方が楽なんじゃないか? 俺やシッターさんが敦輝に対してやってるのと同じことをすればいいだけだから。

 でも、

『そんなに上手くいくわけがない!』

 とか言うだろう? つまりそれぞれ違うんだよ。違ってることが当たり前なんだ。

 なのに、どの子供に対しても、

『怒鳴って殴って言うことを聞かせればいい!』

 とか、おかしいだろう? どの子供に対しても同じようにはできないのが当たり前なんだから。

 俺やシッターさんがやってることをそのまま当てはめることはできないと言いつつ、自分が信じてるやり方はどの子供に対しても当てはめようとする。それが、まともにものを考えている大人のすることか?

 俺にはとてもそうは思えないし、実際にそれで上手くいってない事例を何度も学校で目撃してるんだから、その事実を認めるだけだよ。

 むしろそうじゃなきゃおかしいと思うんだけどな。


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