二歳児並の身体能力を有した赤ん坊
けれど、妻はそれができなかった。敦輝のことを、
<二歳児並の身体能力を有した赤ん坊>
と見做して、それに即した接し方をするということができなかったんだ。俺も言葉で、
「敦輝のことは、<二歳児並の身体能力を有した赤ん坊>と考えて接しよう」
と提案したんだが、それが理解できなかった。つまり、『言葉で伝えても理解できなかった』ということだ。
大人は、何かというと、
『子供は言葉で伝えても分からないから叩いて体に教え込むんだ』
とか言うが、いやいや、
<言葉で伝えても理解できない大人>
なんて、いくらでもいるぞ? 身の回りにだって当たり前にいるだろう? 何度、言葉で伝えようとしても、理解しない理解できない大人が身近にいない人間なんているのか?
妻も結局はそうだった。俺の言ってることを理解しないし理解できなかった。でもそれは、『妻の能力が低いからだ』と言いたいわけじゃない。あくまでも、
『大人だって言葉だけじゃ理解できない時はできない』
ってだけの話だ。加えて、敦輝の特性について理解しようともしない妻は、それこそ、
<ダメな母親>
という印象を抱かれるだろう。それだけじゃない。妻と同姓同名というだけで、まったくの赤の他人に対してさえ、妻に対するそれと同じ嫌悪感を向ける人間も少なくないだろうからな。だから俺は敢えて妻の名前は出さない。
そして、これだけ言ってもなお、同姓同名の誰かを揶揄するような奴もいるだろう。<言葉で伝えようとしても理解しない理解できない大人>がな。
そんな<言葉で伝えようとしても理解しない理解できない大人>が、『子供は言葉で伝えようとしても理解しない理解できないから体に教え込むしかないんだ』とか言うんだぜ?
いやいやどう考えたっておかしいだろう?
『言葉で伝えようとしても理解しない理解できないのはお前の方じゃん!』
って話だとは思わないか?
俺はすごくそう思う。そう思うから、敦輝のことも、怒鳴らないし叩いたりしないんだ。
だいたい、今じゃ<犬の躾>だって、怒鳴ったり叩いたりじゃダメだって分かってきてるんだろう? だったら人間の場合は尚更じゃないか。
怒鳴って叩いて、恐怖や痛みで操ろうとするんじゃなく、
<暴れることで自分の身を守ろうとしなくても大丈夫な状況>
てのを作ればいいだけだ。教師として、生徒に対しても、
『この先生に対しては反発しなくても大丈夫だ』
って思われるように振る舞うことを心がけてる。もちろん、それでも困った振る舞いをする生徒はいるが、そういうのはあくまで、
<コミュニケーション能力に問題を抱えている生徒>
なだけだから、<児童心理の専門家>でもない、ただの<学校の教師>でしかない俺がどうにかしなきゃいけない話じゃないね。
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