自分より弱い相手にイキってる
敦輝は、四歳になった今も、離乳食と合わせてミルクを主に飲んでいる。骨の発育を少しでも良くしてやろうとカルシウムを多く含むとされるタイプのフォローアップミルクを、それこそ水分補給として与えてるんだ。本人もそれを好んで飲む。
まあ見た目が二歳くらいだし、それは別に大きな違和感でもないだろうが。
普通の四歳児と同じ扱いをするのは、最初から諦めている。敦輝は敦輝だ。<そういう人間>なんだ。他の一般論は何の役にも立たない。妻は何とか<普通>になってもらおうと<躾>をしようとしてたが、俺はそれが徒労に終わることは早々に察してた。
<躾>なんてのは、
『大人にとって都合のいい振る舞いを子供にさせようとする』
だけのものであって、本人の意思や意向はまったく無視してるってのを、<躾>って言葉を好んで使う保護者や教師を見てて実感した。子供を人間として扱ってないってのをまざまざと見せつけられてきた。
それと同じことを妻もやろうとしてたんだ。
自分の思ったとおりに振る舞わなければ叩く。怒鳴る。
けどな、それは所詮、
『自分より弱い相手にイキってるだけでしかない』
ってのを見てきたよ。教師にもそういう奴は少なくなかった。体重百キロ近いガタイのいい元アスリートってえ教師が、体重三十キロとか四十キロ程度の子供相手にイキってるんだぞ? なのにそいつは、自分の上司である学年主任や教頭や校長にはペコペコしてるんだ。
その姿の滑稽なこと滑稽なこと。
しかも<校長の孫>が入学してくると、明らかに<えこひいき>してた。他の生徒に対しては威圧しても、その校長の孫には決してやらなかった。いっつもヘラヘラして媚びへつらってた。だから生徒達は、
『ニヤケゴリラ』
ってその教師のことを陰で呼んでたよ。
そうだ。生徒から嫌われてたし『舐められて』た。他の教師に対してはそこまでじゃない生徒でさえ、そいつのことは嫌ってた。
ま、そういうことだ。
親には問題のない生徒でも、<問題のある教師>に対してはさすがにそういう態度にもなることもあるってわけだ。
俺は、教師という仕事に対しては憧れも目標もなかったこともあって、常に一歩引いた冷めた目で見てたように思う。そういう視点で見てるとな、
<教師という役柄に酔ってる奴>
ってのもよく見えてくるんだ。そしてそういう奴は、生徒が自分の思い通りにならないとキレる。教師のなりたての奴でも二十三や二十四とかだってのに、その自分の半分も生きてないような子供相手にムキになってるんだよ。
で、<躾>と称して<指導>と称して叩く怒鳴る。
大人として恥ずかしいよな。
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