1st.Stage―②

「んー!おいひいー!!」

「……」

あの後。彼女に引き摺られるような形で連れて来られたのは、人が沢山並んでいるクレープ屋だった。なんでもここは、今大人気のクレープ屋だそうで、彼女も仕事では来たことはあったものの、オフに訪れる機会はなかったらしい。

「だから、一度ゆっくり来てみたかったんだ」

クレープ待ちの列でそう言った彼女の表情は本当に嬉しそうだった。彼女がここのクレープの食レポをしていた番組は、当然私も観ていて。だけど、その時とは全然違った、自然体とも取れるような彼女を見るのはとても新鮮で、ドキリ、と思わず胸が高鳴った。

そうこうしているうちに、私達の番が回ってくる。何を注文すればいいのか分からなかった私は、彼女のおすすめを勧められるがままに注文した。彼女も同じものを注文していたらしく、お金を払うと、すぐに同じクレープがふたつ、店員さんの爽やかな笑顔と共に差し出された。

「おお……」

中身が溢れそうなほどにぎっしりと詰め込まれたそれを、慎重に受け取る。私がおそるおそる、といったふうにクレープを受け取るのと裏腹に、隣の彼女は手慣れた様子で、その中身がもりもりのクレープを受け取っていた。

そうして、そのクレープ屋に併設されているイートインコーナーへ向かって、私達はようやくクレープにかぶりついたのだった。

そして話は、冒頭へと戻る。

中身もりもりのクレープを、中身が溢れないよう慎重に食べ進めながら、私は目の前に座った彼女の様子をちらりと覗き見た。もぐもぐ、とまるで小動物のようにクレープを食べる彼女は、とても愛らしい。たとえ、キャップと眼鏡で変装していても、だ。溢れる可愛さは、キャップと眼鏡如きでは隠しきれない。

「どうしたの?ぼくの顔になにかついてる?」

そうやって、あまりにも熱心に彼女を見つめていたからだろうか。彼女は一旦クレープを食べるのを止め、こてん、と首を傾げて私に問うてきた。

「いっ、いえ!なんにも!!大丈夫です!!」

「ならいいけど……」

私が慌ててそう返すと、彼女はなんだか煮え切らないような顔をしながらも、クレープを食べるのを再開した。はあ、危ない。うっかり彼女に見惚れてしまっていた。私も彼女から意識を逸らすべく、目の前のクレープを食べることに専念する。

しかし、それでも。

(やっぱり、気になるよね……)

どうして彼女は、私をこんなふうに連れ回しているのだろうか。

あの時、彼女はお詫びだ、とも言っていたが。それにしたって、こんなふうに一般人の、それも初対面の私と、こんなふうに遊んでいていいものなのだろうか。

ううん、と思わず唸り声をあげる。分からないことだらけだ。目の前の彼女が何を考えてこんなことをしているのか、全く読めない。

仕方ない、分からないなら聞いてみるしかない。そう思って、彼女に声をかけようとした、その時だった。

「うーん、美味しかった!次はどこ行こうかなあ。ゲーセンも行ってみたいし、カラオケもいいなあ」

丁度そのタイミングでクレープを食べ終わったらしい彼女は、次の目的地をどうするか悩み始めたようだった。ぶつぶつ、と何かを言う声が聞こえてくる。やがて、次の行き先が決まったらしい彼女は「よし!カラオケにしよう!」そう元気に言い放って、当然のように私の方に手を差し出した。そんな彼女に、私は慌てて「待って!」と叫ぶ。

すると、目の前の彼女は、きょとん、とした表情を浮かべて、手を差し出した格好のまま固まった。そんな彼女をじっと見つめて、私は言葉を探しながら、おどおどと言った。

「ど、どうして……?どうして貴方は、こんなふうに、さっき偶然ぶつかっただけの私を、あちこち連れ回すようなこと、するんですか……?」

「あ……ごめん、嫌だった?」

「嫌、とかじゃないんですけど……でも、どうしてなのかなって、気になっちゃって」

どうして。そう問えば、彼女はほんの少し悲しそうな顔をした。しかし、私が嫌じゃないとそう伝えれば、今度はその表情が、途端に何かを思案するようなものに変化する。

やがて、彼女は何かを決めたような表情を浮かべて、こう言った。

「うーん、そっか。そうだよね。突然なにも言わずに連れ回したりなんてしたら、びっくりしちゃうよね」

うんうん、と頷きながら少女は言う。そして、にこり、と微笑むと、私の手を優しく握って、再び口を開いた。

「分かった。ちゃんと理由を話すよ。ぼくがどうして、こんなふうにきみを連れ出したのか」

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