第7話 注意喚起

「久しぶりねマリー。無事に合格できた様で安心したわ」

「ミラ・リットレイ様、お久しぶりです。男子寮に入るはずだった私を女子寮へと変えてくれた事を学園の職員の方から聞きました。心よりお礼申し上げます」

「いいわ別に......男子寮に1人放り出すのは良いんだけど、カインドと同室なのは納得できないってだけよ。そんな事よりこれからの事を話しましょう?」


 先輩従者のディステットさんに促されて入室先に待っていたのは、椅子に座って本を読んでいたミラ様だった。私とディステットさんの入室に気がつくと本から顔を上げる。

 リットレイ家でお会いした時は少し威圧感のある顔や立ち振る舞いだったけど、今は落ち着いていて怖さが無い様に思える。服装はディステットさんより服飾が多くなっている。

 ......あれ?挨拶は基本的に身分の低い者から行うと習ったような?


「学園生活で必要な説明は、後でディステットがするわ。立ち振舞いはロバート辺りから習ったわよね?......そうね、私から注意してほしい事は一つよ」


 なんだろう。


「カインドとの距離感よ」

「?......距離感ですか?」

「えぇ、別に私が将来的に婚姻が確約しているカインドに突然、専属でメイドが出来たから焦ってる訳じゃないわ。そもそも立場的にほぼ不可能なのよ」


 ミラ様の表情が「良い事でもありましたか?」と問いたくなる様な、そんな優しい笑みを浮かべている。

 いや、別に私自身そんな気は一切ないけどね。あくまで記憶を取り戻す事が最優先。カインド様に感謝はしても、だからと言って好きって訳では無い。


「それでは一体、何なのでしょうか?」

「学園での事よ。カインドはそれはそれは人気なの。この3年間従者を連れずに、全て1人でこなしているわ。それにカインドは貴族じゃ無い。私との結婚は学園が終わってからの話。それまではお金持ちの平民なのよ」


 目線を落とし曇った表情でミラ様は話を続ける。


「権力を横暴に振るう貴族は少数だけどいない訳じゃ無いし、そんな人達に限って高望みをするわ。彼を従者にだとか。私が従者にだとか。......ほんと呆れるわよね?」

「はい。......つまり私はその人達から恨まれる立場になると言う事ですか」

「察しが良くて助かるわ。まぁアークミィにいる限り会わないし、リットレイ家で匿ってる以上精々、成り上がり達からの目立つやっかみは無くなるはずよ」

「ミラ様、深くお礼申し上げます」


 まさかそこまで気を使ってくれているとは思わなかったし正直、私に対する印象はあまり良く無いと思っていた。


「仲良くしている姿を余り周りに見せない様に。あくまで主従であり恋人では無いと態度で示せば良いだけの事。期待しているわ」


 ひっ、こっ怖っ!


「謹んでお受けいたします」

「話はこれで終わりよ。部屋に荷物を置いて、ディステットから説明を受けてきなさい」





 そうして私はミラ様が住う部屋に隣接されている部屋に案内された。2人用の部屋でミラ様の部屋より少し狭く感じる。

 ディステットさんから睡眠や起床時間、この学園で支えるには何が必要か。色々と細かな説明を受けた。

 特別塔ことアークミィのミラ様とカインド様は授業内容が魔術に偏っており、その為起床や睡眠時間が決まっておらず、女子寮に戻らず特別塔で寝泊まりをする事があるそうだ。


「どう?わかったかしらぁ。私も最初の年は聞いていた事と違っていて、どうして良いかわからなかったのよ」

「......大凡は。至らない点が多々あるかと思いますが、今後とも宜しくお願い申し上げます」

「まぁカインド様は怖い方じゃ無いし、何かあれば相談してね。折角、同じ主人に使える従者なんだから、優しくするわぁ」


 ディステットさんも優しそうな方で良かった。

 メイドが本業の活動では無いけど、私がこの学園に入れた理由でもある。手を抜いて退学なんて勿体無いし、記憶を探す手がかりが無くなってしまう。


「それじゃぁ、私は行くわねぇ。ミラお嬢様も私も今日は授業なのよ。この部屋の鍵は置いておくわぁ。ミラ様の部屋へは別の鍵が必要になるから、必要になったら私に言ってねぇ」

「はっはい!」


 考え込んでいるとディステットさんは、私に注意を残し来た扉から出て行ってしまった。

 授業だったんだ......ミラ様、面倒見が良いのかな?


 部屋を見渡すと、部屋の左右には引き出しが何個か付いている木製の机と椅子が置かれており、ベットが壁に寄せられている。部屋の中心を境に左右対称となった作りだ。

 私の場所は扉から見て左側かな?右側は整理されているけど物が置いてあるし。多分ディステットさんの私物だよね。て言うかこの部屋、埃一つ無い。私の場所なんて本来誰も居なかったんだよね?ロバートさんの監視が無いのに良く出来るね。


 そんな事を思いながら、手持ちのカバンなどを整理して私は時間を潰していた。

 私が特別塔に行くのは明日からになる。今日のうちに学園を軽く見て回り、最優先で図書館は見つけないといけない。どれだけ自由に出来る時間があるかわからないけど、卒業まで2年と半年も無い。

 無くした記憶を取り戻す。本当にそんな事が可能なのか手段があるのかわからないけど、テラの言っていたイチカと言う子。その子が本来の私で何処かに記憶が補完されているのなら、私が忘れて良いと思えない。

 どっちもこの身体なのだから、その子と無関係な訳がない。


 よしっ!頑張ろ!

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