マリー視点 休日のひととき
「甘いモノ食べに行きたい!」
「(どうしたんだよ、急に)」
「試験も終わったし、休みたいなーって。受かってたら寮?に引っ越しで忙しくなるし、落ちてたら謝りに行かないとだし、休めるの今しかないでしょ?」
朝食は食べ終わり私は、部屋に戻っていた。テラは机の上で妖狐の姿で丸まっている。
目標だった試験が終わりやる事が無くなった為、暇なのである。服も見に行きたいけど、宿屋から引っ越す事を考えると、荷物になる物は後にしたい。
「(じゃあ、俺はここで待っとくぜ。せぇぜぇ、迷子になんねぇよーにな)」
「いや、テラも行くんだよ?」
「(指輪がどうやって飯食うんだよ。この姿だと騒ぎになるのが落ちだぜ?)」
「ん〜、ペット同伴でも良いカフェとか無いかな?テラは知らない?」
確かに尻尾が3本ある狐は周囲から浮いてしまう。ヘアバンドとかで纏めたらバレないかな?
「(知らねぇな。時間があるなら探してみてみな)」
「ん〜、ペット同伴可なお店を探してスーリヤを歩こっか。お店があったら私が尻尾隠しながら抱えるね。食べる時も膝の上に乗せておけば、気づかれないでしょ」
それより早く食べに行きたい。そんな気が強くなり半ば投げやりになる。
「(あぁ、もう。わかったよ)」
「やった!それじゃ出発!」
王都スーリヤに来て初めてできたゆっくりとした時間。私はテラを右手薬指に嵌めて散策を行っている。ここには王城を中心とし、東西南北に別れた4つの区画が存在する。
東区画は国立セレスティア魔術学園を筆頭に、騎士専門の学校もあったりして、他区域より住んでいる学生が多い。
西区画は商業や市民が多くこの都市における経済の中心。かと言って、他区域に店が全く無いという訳では無い。
南区画は、貴族が住む区画になっていて平民の私では入れない。入るには何かしら理由が必要みたいだけど、そう用事も無いよね。
北区画は私や冒険者さんが入ってきた所。国立セレスティア魔術学園が東と北区画の間にある事で、北区画もそれなりに学生が多い。西区画ほどの大きな店も無い代わりに、冒険者ギルドの本部があるそう。
そんな話をここに来る途中の荷馬車で聞いていた。その為、私は色々な店が並ぶ西区画へと足を運んだ。
「テラも入れる様なお店があれば良いんだけどね。持ち合わせが多い訳じゃ無いし、安いと尚嬉しいんだけど」
「(コレだけ店があんだ。探してたらキリがねぇぜ?)」
「あー、確かに。誰かに聞いてみようかな。えっと......あの、すみません!少し良いですか?」
そして、聞き込みをする事3人目にして漸く目的と合致するお店を発見した。私が思ってたより、ペットの同伴が許されるお店は少ない。
お昼を知らせる鐘が都市に響き、歩き回っていた私のお腹は空腹で限界の音を鳴らした。
紹介されたのは、綺麗な外観のカフェ。店内と屋外にそれぞれ丸いガーデンテーブルが用意されている。
「(どっちが良い?)」
「(別に俺はどっちでも良いぜ。けど、怪しまれると面倒だし屋内の角で良いんじゃねぇか?)」
「(あ、確かに!)」
お店に行くにあたり人目を避け、テラを妖狐に戻して私が担いでいる。
テラの指摘を受け、空いている席の中でも比較的にお店の奥にある席を選んだ。
カフェのメニューはパンをメインとした物が多く出されており、空腹の私にはどれも絶品に見える。
せっかくここまで来たんだし......沢山食べても良いよね?いや、決して食いしん坊じゃ無いよ?最近、色々あったしそのご褒美だからね?
「ふぅ、美味しかった〜!」
「(サンドイッチ2種類にスープ1つ。今からスイーツも食うんだろ?その小さい身体の何処に入ってんだよ)」
「ん、大丈夫だもん。それに量がそんなに多くなかったし......。テラはどう?美味しい?」
「(あぁ、パンなんかより全然美味しいな)」
「それキャットフードだよね?狐って猫なの?はい、あーん」
「(っと、さぁな。でも、肉も食うし魚も食うぜ。......元の力が戻ってくれりゃ、人間の料理も)」
「?」
声というか最後の方、念話が小さくて聞こえない。なんて思っていると、店員がトレイに商品を乗せてコチラにやって来た。
「ふふっ、仲が良いのですね。ご注文頂いたショートケーキになります」
「やった!来たよテラっ!」
私が頼んだのはシンプルな見た目をしたショコラショートケーキ。
薄い茶色のクリームにココアパウダーが混ぜられた生地!甘いケーキの匂いが私に食欲を与えてくれる。
「はむっ、んっ〜!」
チョコレートを混ぜ込まれたホイップクリームは、ほんのりと甘く口溶けが良い。
次に口にしたスポンジは、フォークを軽く入れただけで切れるほど柔らかく、間に挟まっているクリームと一緒に口の中でゆっくりと咀嚼し甘さと食感を味わう。
「はむっ......あぁ〜甘〜い、ね?テラ」
「(ん?美味しいから良かったんじゃねぇの?今日の目標だったんだろ?てか、俺は食ってねぇ)」
「ん、最高っ!はむっ。んっ、食べる?ほら」
食べやすい様にショートケーキを小さく崩し、テラの口にフォークを持っていく。
こんな美味しい物を食べないなんて勿体無い。
「(いや、妖狐も狐だし動物だ。チョコなんて食わそうとすんな!全く)」
「あれ?そうだっけ?」
テラは膝の上で丸くなりそっぽを向いてしまった。
「ん〜、......それじゃ、テラが指輪みたいに人に化れたらまた来ようよ!」
「(そういう問題じゃ、ってまぁそうだな。それだとこの身体より問題ねぇわ)」
「じゃあ決まり。はむっ、はむっ。」
それからテラと他愛もない話をしながらショートケーキを食べたのだった。
宿屋への帰り道。
「はぁ、美味しかった。あと一つ、いやあと二つはいけた!」
「(自分で食いしん坊じゃねぇとか言ってなかったか?)」
「それはそれ、これはこれ。甘い物は別腹なの。......また来ようね、テラ」
「(あぁ、案外楽しかった)」
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