第5話 二つの再会
筆記試験と実技試験を終えた私は、1人帰路に着いていた。空を見上げれば夕方か辺りは少し暗くなっている。
店や街灯の光って暗い映えるよね。......あぁ、試験の事思い出したら気持ちが落ちるぅ。
筆記試験は1ヶ月必至に勉強したとは言っても、付け焼き刃な事に変わりはない。完璧とは言い難い為少し不安が残る。
実技試験は終始スノリヤのペースに乗せられていた。テラが居なくて魔術が使えなかった事を加味しても、もっとやり方はあったと思う。結果は引き分けになったけど、内容は完全に負けていた。
大丈夫かな私......受かるかな......
2日以内には結果が届くのだから今悩むのは意味が無い。それはわかっているけど、気になる事は気になってしまう。
考えながら歩いていると、ふと視界の端に一際目立つ光が差し込んだ。視線を動かすと目線よりずっと高い高台の街灯だったとわかる。よく目を凝らして見ると、背の高い女性がその街頭の下に立っていた。
何してるんだろう。
「ん?......あっ!!」
その女性に心当たりがあり、その女性にお礼を言うべく疲れた身体に鞭を打ち走り出す。
「はっ、はっ......ふぅ。えっと、ここら辺に居た、よね。んと、あの人かな?」
少し距離があった為、あの人が何処かに行ってしまわないか不安だったけど、どうやらまだ街灯の下に立っていた。柵に寄りかかって下を向いている。
夕方にこんな所で何やってるんだろ。
「すみません。2日前に助けて頂いたマリーです」
「おや?あぁ!あの時の!久しぶり。どうしたの?また迷子?」
「いえ、下から見つけたので、この間のお礼を言いに。それから、無事に学園の試験を受けることが出来ました」
「へぇ、じゃあコレで貴女も魔術を探求する訳だ。何か目標があったり?」
近くに設置されているベンチに座り、私達は会話を続ける。
「合否はまだですけどね......記憶について調べようと思っています」
「......記憶ね。貴女の?家族の?」
「私の記憶です」
「......んー、よしっ。それじゃ、先輩にあたる私から少しヒントをあげる。ただの記憶喪失や欠如なら音楽だったり回想法だったり色々あるよ。でも魔術が絡んだ記憶喪失だと少し厄介」
「?」
「悪魔について調べる事を勧めるよ」
「......悪魔ですか?」
先輩という事はこの女性は魔術師なのだろうか。それと悪魔?リットレイ家でお世話になっていた際に説明を受けた事があるけど、詳しくは知らない。
この女性、知ってそうな感じといい、背丈や雰囲気でも大人って感じがするし卒業生かな?
ヒントと言う事から答えでは無い様で要領が掴めないけど。
「わかりました。学園に入学できた際には調べてみます。それより、お姉さんは何故ここに?」
「私?私は旧友、いや同志かな。同志を探しにスーリヤに来たんだ。もう何十年も会ってないから死んだのかと思ってたよ」
「......」
楽しそうに笑いながらお姉さんは話を続ける。
「あぁ、安心して、ちゃんと会えたから。しんみりしないで、うーん。あっそうだ」
「?......っー!」
そうしてお姉さんはポケットから見覚えのある指輪を取り出した。
それって!
「?さっき道で拾ってね。綺麗な指輪でしょ?魔術具の元にするには丁度いいかなってね」
「あっ、あの!その指輪、私のなんです。2日前、宿で無くした事に気が付いてっ!それでずっと探していて」
学園から宿までの道のりは探していたけど、この高台までの道のりは通った事が無い為、探してはいなかった。
無くした後に飛ばされてここまで来たのかな?けどテラって妖狐になったら歩ける、よね?
「あれ?そうだったの?なーんだ、折角良い道具作れると思ったんだけどな」
「あ、ありがとうございます!!」
そう言って彼女は肩をすくめ、私に指輪を渡してくれた。
「こんな広い王都で無くしものはダメだよ?それじゃ、私はもう行くよ。これ以上無くし物を増やしちゃダメだよ?」
「はいっ!えっと、その貴女のお名前は?」
「前も言ったけど、それは自分で調べてね。物知りな人に聞けば教えてくれるよ」
そう言って、名前がわからないお姉さんは軽く手を振り離れていった。
謎が多いけどテラが帰ってきたし、まぁ良いや。帰ろっと。
宿屋に帰ってきた私は、夕食を食べ終えて体を洗い寝巻き姿となって指輪と向き合っている。
テラが居なくなって2日だけど、よく考えてみると指輪をそう簡単に無くすはずが無い。指に対して物が大きいからまだしも、私の指にテラは合わせている。
「テラ?なんで黙って居なくなったの?」
そう。テラが私と一緒にいるのは過去の私がテラと約束をしたから、らしい。身に覚えが全く無いけど、テラが律儀にも守ると言うのなら一言「行ってくる」と言う言葉が欲しかった。
試験で慌てていたとは言え心配しなかった訳では無い。
「黙ってないでよ。......寝る時、足元に置いてあげないよ?」
「(......)」
それは嫌なのか、無言で指輪から元の妖狐に戻るテラ。再会してからテラは一言も話してくれない。
ん〜?話したく無いのかな?言えない理由とか?んー。でもテラの事全て知ってる訳じゃ無いんだよね。気になるけど。
「んー、まぁ、帰ってきた事は素直に嬉しいし、話したくなったら話してね?」
「(あぁ)」
「じゃ、もう寝よっか。
誰かに迷惑をかけたならまだしも、テラが居なくて困ったのは私。心配したし、強がって居たけど、やっぱり知らない土地で1人きりになるのは不安だった。
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