第4話 受身な実技試験
昼食を終えて小休憩が挟まった後、女性職員に案内されて闘技場の様な場所に通された。昼食は持参したサンドイッチ。
スノリヤと名乗った女の子は、隣に並んだからはっきりわかったけど、私より少し身長が高かった。
みんな身長高く無い?私より低い人ってティニーくらい?あの子、私より6歳年下だよ?そもそも私が本当に15歳か怪しいんだけども......
私の年齢は、カインドさんと同学年にするために15歳となっている。
「それじゃ、説明するわね。本当なら魔力壁を使えるかの確認なんだけど、2人とも魔術が使えるって聞いたよ。それだったら試合形式で見てみようって事なの」
「......試験内容が他学生と違うのは公平では無いのでは?」
「ふふっ、本来は魔力壁が使えればそれで良いのよ。アークミィではそれなりに実戦があるから慣れておかなきゃ」
「......まるで受かっている事が確定している。みたいな言い方ですね。試験官が言うのであれば私は問題ありません。そちらの方は?」
「私ですか!?はい!大丈夫です」
びっくりした。
あ、でもテラが居ない今、魔術が使えないし攻撃側になったらどうしようかな。
悩んでいると、いつの間にか女性職員が先端を隠した棒を持って私達の前に手を突き出してきた。
「それじゃくじを引いてね。印がある人が攻め、無い人が守り。危険と判断したら私が止めに入るからぁ」
私とスノリヤさんは顔を見合わせて、意を結したように同時にくじを引いた。
「私が攻めです」
「印が無かったので守りですね」
スノリヤさんが攻めで私が守りになった。
「マリーちゃんの魔力壁が破られる。もしくは、直で魔術を受けちゃったらスノリヤちゃんの勝ち。この砂時計が全て落ちるまで耐えきるとマリーちゃんの勝ち。危険だったら私が介入するから、思う存分やってねぇ。あくまで魔術を見たいから、持ち込み武器は無しでお願いね?」
互いに10歩歩き、距離を取る。スノリヤさんはこちらに手を向けて、発動する準備をしている。
守りだけなら魔力壁だけでも行けるよね?
「よし!それじゃ始めるねぇ。......開始っ!」
開始と同時に動いたのは、攻手であるスノリヤだった。
この距離だと何を唱えたのかわからないけど、スノリアさんの顔が見えなくなる程の大きさの水球が出現し勢いよく放たれた。
「やばっ。っと、重っったぁ!」
「まだです」
咄嗟に上半身を右に捻り、その勢いで左手を前に突き出し、魔力壁を全身に展開させる。
破られなかったものの、ぶつかった衝撃までは完全には無くならない。
!!、まだくるの!?
「開幕っ!から!飛ばしすぎじゃない!?」
初撃と同程度の水球が10個、前方から飛来する。一つは地面を掠めながら一つは上空からと、四方八方から私に水球が襲い掛かる。
全身に魔力壁を覆ってはいつか抜かれてしまう。そんな気がした。1箇所、もしくは一片に魔力壁を展開する事で全身を覆うより強固な物が作れる。だけど、現状だと片手を起点として発動するのがやっとである。
その為、高速で飛来する水球の方向にそれぞれ片手を突きつけ魔力壁を交互に展開する。
「......を抜き取り賜えっ!」
「っ!?」
9発目を防ぎ切った私は、砂埃や水滴で視界が悪い。そんな中、スノリヤは全力で駆けて来た。
いつの間にか目の前まで近付いてきたスノリヤは、体勢を崩した私の顔に飛び蹴りを放ってる。
まずっ!避けなきゃ、っ!!
「はっ!?!?、うわっ!!」
踏ん張ろうとした足元が泥濘んでおり、そのままバランスを崩し尻餅を付いた。
顔に当たりかけていた彼女の身体は、私の後方へと飛んでいき、何事も無かったかの様に距離を取った。
いやいやいや、戦闘に慣れすぎじゃない!?
「......速さは魔術を使ってないニアに近いかも」
「今ので仕留められませんでしたか。悪運な気もしますけど、それでも時間内に終わらせます」
え?何を言って?
立ち上がった私の頬を後ろから飛び出して来た水の槍が掠めた。一瞬だけ確認すると、先程の戦闘で水球が弾けて水溜りになっている。
どんな魔力制御してるのよ!?絶対普通じゃないよこんなの!って、あ、そうか最後の水球だ!......そんな事より今は目の前に集中!!
「まだです。我は水徒、清白たる水神よ、我が願いに応え、汝が其の力、神の御魂を与え賜え」
魔術が使えない私にスノリヤの行動を止める手立ては無く、何があっても良い様に身体全体を全力の魔力壁で覆った。
詠唱を終えたスノリヤは、先程の様に武器を作った訳でも、水で身体覆う訳でも無く、ただ小さな小さな水球を周囲に無数に浮かせている。
「行きなさい」
スノリヤは手を前に突き出し、目標が私だと言わんばかりに指を刺している。
彼女が言葉を発した瞬間、その水球は先程とは比べ物にならない速度で、文字通り四方八方から私を狙い撃ってくる。
「くっ!いやっ!」
全力で魔力を流し込んでいるけど、水球は細くなっている事で貫通力が上がっている。よく見ると魔力壁が削れており、修復が間に合っていない。
っ、はぁ、はあっ、まっまずい、体力がそろそろ持たないっ!
「っ!」
「くっ!」
魔力壁にひびが入ったと同時に、スノリヤが頭を片手で抑えながらその場で膝を付いた。
「はーい。そこまでよ」
「......」
「......はい。わかりました」
スノリヤはまだ頭が抑えながらも自力で立ち上がり、無言で女性教師の方へと向かっていった。
「2人とも思った以上よ!でも今回は引き分けかしらね。スノリヤちゃんは魔力壁も体術、戦法も目を見張るものがあるわね。だけど、持久力が無いわ。最後のあれ独学よねぇ?学園へ入学する前にあれだけ出来るのは、異常と言ってもいいわ。あ、褒めてるのよ?」
「......ありがとうございます」
「それと、マリーちゃん。貴女の魔力量凄く多いでしょ?まだまだ荒削りな部分が多いのが課題ね。それを加味して魔力壁一つで耐えられたのは褒めるべき点だわ。魔術は使えなかったのかしら?」
「えっと、そうですね。魔力壁だけで手一杯でした」
テラの事はこの人が誰かわからない以上、言う訳にはいかない。
「攻守を入れ替えたかったんだけど、無理そうよね?ん、仕方ないわね。今日はコレで終わりにしましょうか」
「いえ、いけます」
「スノリヤちゃん。無理はダメよ?貴女、歩いてる時ふらついて目眩起こしていたでしょ?後、2人とも合格していたら、その時に再戦したら良いんだから」
「......」
「今日はコレで解散ね。結果は後日、貴女達の宿泊先に送るわね。3日経って来なかったらまた学園にいらっしゃい」
そして、荷物の置いてある筆記試験を行った部屋へと戻り、その場で解散となった。
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