第3話 不安な筆記試験
「んっ。ふぁぁあ......」
寝起きな私は虚な表情のまま洗面台へと向かう。
今日は編入試験の実施日である。テラの事も気になるけど、最優先が学園への合格。この1ヶ月ロバートさんやティック先生監視の元、必死で覚えた成果を発揮する時だ。
昨日言われた集合時刻は、7の鐘が鳴る前。多分後2刻分は余裕があるはず。
「どんな試験になるんだろ。筆記は予想付くんだけど、昨日の説明通りなら実技もあるよね。はぁ、テラが居ない状態でどうしよっかな」
寝癖を直して、動き易い服へと着替える。スカートでは無く短パンだ。
持ってきてもらった朝食に手を付けながら、今日の流れを確認する。
「んっんっ、この飲み物、美味しい」
......この宿選んでくれたのは、あのお姉さんだけど絶対高いよね。あの時、疲れてたし休みたかったらあんまり考えなかったけど、部屋にシャワーがあって料理持ってきてくれるって絶対高かったよね......
いやでも支払いは私の給料からだし......あーでも、王都で服とかお菓子とか買いたかったなぁ。
「はぁ、それでテラはなんで帰ってこないんだろ?狐なのに餌をやらなかったから?でも『要らない』って言われたし」
そう、別に忘れていた訳じゃ無いんだけど、不意に「あ、テラに何も食べ物あげてない」って思って何が欲しいか聞いたんだけど、素気なく返されたんだよね。
妖狐って何食べるんだろ。
そんなこんなで朝食を食べ終え、必要な物を鞄に入れて出発する準備を終えた。
テラの事気になるけど試験、試験!
「失礼します。本日、編入試験を受けるマリーと申します」
「あら、来たのねぇ。部屋に案内するわ。時間より早く着くなんて真面目ね」
職員室の扉を軽く叩き入室すると、昨日対応してくれた女性職員が座っていた。
昨日とは違い他の職員さんらしき人もちらほらと椅子に座って作業をしている。
案内されたのは、1階の角にある部屋だった。入室するとまだ誰も居なく、大きい長机と椅子が等間隔で並べられている。
「手前側に座ってねぇ。もう1人の子もそろそろ来るはずだから暫くまっててちょうだい。私は職員室に戻るわ」
「あ、はい」
戻るんだ。って思ったけど、私を案内したみたいにその子も案内しないと行けないよね。
昨日も思ったけど流石は王都。モストハザードとは建物の大きさが段違いに大きい。在校生とが何人いるのか知らないけど、5年制で寮まであると言うのなら敷地や建物は相当に大きく無いといけないのかな。
目新しい物が無いか椅子に座って周りを見渡していると、窓の外で私の顔が止まった。
「?あれ、なんだろう」
見た目は球体が光っている様な......輪郭がわからないから球体かすら怪しい。とにかく異質な何かがそこにはあった。
興味が惹かれるまま近づこうと腰を開けた瞬間
「ここが筆記試験の会場よ」
扉から先ほどの女性教師が現れた。
直ぐに窓を見返したけど、そこには光る何かは見当たらなかった。
「えっと、マリーちゃんは立ちあがろうとして、何かあったの?まぁ良いわ。さ、入って」
「初めまして。スノリヤと言います」
スノリヤと名乗った少女は私と同じか少し高いくらいの身長で、腰の半分くらいまで伸びている綺麗な白髪の少女だった。
「かわっ......いえ、すみません。マリーです」
危うく声に出すところだった。白髪って珍しいよね。私がしってる限りだと黄、金、橙色のどれかや、混ざった髪色が殆どだった。
「それじゃあ、スノリヤちゃんも席に着いてねぇ。編入試験を始める前に一つ、言っておきたい事があるの」
女性教師は、人差し指を口の前に出しこちらに静かにする様なポーズを取り話を続ける。
「この学園には色んな理由で入ってきた子達が沢山いるわ。それこそ一攫千金を目指す子や王族としての責務が面倒で逃げてきた子とか、ふふっ。それでね。貴女達が何を目指してるか私にはわからないけど、その夢は絶対に叶う。それがここ国立セレスティア魔術学園。貴女達みたいにアークミィに行く子なら尚更ね」
「私には、叶えたい目標があるので絶対に受かります」
「......」
記憶を取り戻す為にここに来たんだ。
こうして、女性教師から紙を渡されて試験が開始した。
試験のために1ヶ月、リットレイ家で働きつつ色々教わった。期間がとても短かった事もあり、万全かと言われると疑問が残る。
けど1ヶ月でなんとかなりそう。となったのは、勉強を始めて数日後の事だった。
いや、前兆事態はジャーニー家でお世話になっていた時からあったけどね。気付きたく無かったと言うか、怖さを感じたと言うか。
具体的に何かと言うと、言葉でも算術でも魔力の扱い方でも、説明を受けるとそれだけでわかってしまう。もう少し言うと、忘れていた事を思い出した感覚になる。
何が奇妙かって、自分では無い自分。つまり記憶をなくす前の自分が知ってた事を思い出してる訳である。喜ばしい事だし望んでいる結果だけど、いざ直面すると怖さが頭の奥で沸いてくる。
前にテラが言っていたイチカという名前。それが本来の私なのかな。それじゃ今の私は一体......。1人になると不安が頭を反芻する。
それでも私がマリーである以上、今思い悩んでも仕方ないと割り切って日々を過ごしている。
「......はい、じゃあ筆記の時間は終わりよ。ちゃんと解けたかしら?」
壁際に設置されてある大きな振子時計を確認すると、開始から大体1刻の時間が経っていた。
「解けたと思います。多分」
「はい。問題ありません」
自信はあるんだけど合ってるか不安になる。
「2人とも優秀ねぇ、それじゃこれは他の職員に採点して貰うから貴女達は実技をしましょうか。休憩時間はあるからね、通しだと疲れるよね」
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