第2話 消えた指輪

 最近は右手薬指にずっと嵌めていた青緑色の宝石を宿した指輪。本当は指輪じゃ無くて、テラが指輪の姿を模してるだけなんだけど。

 えっと、どこかで落としたのかな?スーリヤに着いた時は付けてたよね、地図に関してテラと話したし。ん〜、取り敢えず部屋とか鞄探そうかな。


......。......。


「ないないない!どうっしよう!......試験。そうだよ、魔術使えなくなるじゃん私。いやいや、そもそもテラはなんで無くしたタイミングで私に声かけなかったのよ!」


 はぁ......疲れた。今日の疲れが一気に来た。明日学園に行かないとだし、その中で外は探そうかな。

 1人で大丈夫かなテラ......


 そして、鞄やポーチ、部屋を探し終えた私は着替えを準備して身体を流しに行った。




「んっ。ふぁぁあ......おはようテラって、そうだった。居ないんだっけ」


 宿泊は朝食夕食込みで5日取っている。5日と言う数字は執事長のロバートさんから出立前に指示された事だ。

 指輪が無くて困る事は大きく2つある。

 まず一つ目が言語。テラが居ないと聞く方も話す方も少し拙くなってしまう。でも、コレの対策はジャーニー家にお世話になっていた時から行っている。読みだけでもなんとかしようと、当時人魂だったテラを身体から出したり入れたりして、私が知っている言葉との違いを埋めていった。

 そして、二つ目が魔術。森で瀕死になっていたテラを治した祈りの力は私自身の力らしいけど火と風の魔術はテラからの借り物である為、テラが近くに居ないと使用できない。

 あ、魔力壁は魔力だけを使用してるからテラが居なくても出来たっけ。



「はぁ......朝食を食べて学園に行かないと」


 髪を溶かし顔を洗い着替えを終えた私は、朝食へと向かう。宿屋の2階の部屋を使用していて、朝食は1階で取る事になっている。理由を話せば部屋まで持ってきてくれるらしい。

 テラは居ないけど部屋に篭る理由が無いからね。




「でっっか。え、何これ?領主様の家なんて比較にならないくらい大きいっ!!入って良いのかな?良いよね。推薦状ある訳だし」


 領主宅を悪く言うつもりは微塵無いんだけど、私の知る一番大きい家がそこなのだ。

 それにしても大きい。全体をスーリヤとは別の壁で囲ってあり、完全に学園内が見れる訳では無いけど、横長の建物が何個も建設されていて下から見上げていて圧巻!。

 因みに、この学園の場所は王都スーリヤを円状の地形だとすると北区画と東区画の間くらいに位置している。スーリヤの中央は軽い台地になっていて城が建っている。

 とは言え無断で入る訳には行かないし門の前に立っている人に話しかけるか。


「えっと、初めまして。明日、編入試験を受けるリットレイ家のメイド見習い。マリーと申します。失礼ながら受付はどこに行けば良いのでしょうか」

「......ん?お嬢ちゃん。まだ子供だよね?親はいるかな?」

「いえ、私1人です。訳あって本来の入学時期に間に合わず、編入という形になりました。っと、これがその推薦状と保証人を示す紙になります」

「へぇ、そんな小さいのに偉いな。......あぁ、確かに本物みたいだ。判断を仰ぐ。少し待っていろ」


 身長差がかなりあるせいか、私が両手で紙を渡したせいか、まるで子供が親に大切な物を渡す様なそんな絵面になってしまった。

 そんな事は一旦置いておいて、彼は耳に手を当て口を動かしている。魔術なのかな?


「よし。確認が取れた。このまま道順に行けば校舎へとたどり着く」

「ありがとうございます!」


 そういう訳で私は学園へと足を踏み入れた。




「すみません。明日、編入試験を受ける予定のマリーです」


 校舎の玄関扉は閉まっており、人がいる気配は無い。扉を手で軽く叩いて人を呼ぶ。

 あれ?今日って休み?


「あぁ、ごめんなさいね。今開けるわね、さっ入って。貴女がマリーちゃん?随分と小さいのね」

「初めまして。リットレイ家のメイド見習い、マリーと申します。本日は時間を作って頂きま」

「いいのよ、そんなにかしこまらなくて。さ、入ってね」


 と校舎から1人の女性が顔を出した。髪を三つ編みにして肩にかけており、全体的に緩い雰囲気を纏っている。

 ここの職員なのかな。


 職員室と書かれた札が掛けてある部屋に通された私は、その職員から明日の説明を受けた。試験の開始時刻や必要な持ち物、動きやすい服装で来る様にとも言っていた。

 編入してくる生徒はやはり珍しい様で2,3年に一度あるか無いからしい。編入にかかる費用や魔術の腕や学力を鑑みても、『卒業した』と言う実績のいらない立場の人間は卒業生から教わる事で事足りるらしい。

 そういえばリットレイ家の従者もそうだっけ。


「あっそうなの、今年はマリーちゃん以外にももう1人いてね、偶然って重なる物なのねぇ。歳はマリーちゃんの一つ下だそうよ?」

「へぇそうなのですね、その子もアークミィ志望なのでしょうか。どちらにせよ仲良くなりたいですね」


 誰なんだろうか。


「説明は以上なんだけど、何か質問ある?」

「いえ、明日の事については理解しました。えっとそれから、学園に関係ない事なんですけど、ここに狐は来ませんでしたか?」

「?いや見てないわね。ペットでも連れているの?寮でも飼えなくは無いから、ちゃんと申請してね?じゃあコレで終わりね。明日時間通りに来る様に。帰り道はわかるかしら」

「はい覚えてます。本日はお手数お掛けして申し訳ありませんでした。それではまた明日やってきます」


 職員室扉を出る前に頭を下げ礼をしてから退室する。

 一応、テラのことも聞いてみたけど居なそう。本当にどこ行ったのよもう。




 帰りはテラを探す為に遠回りをして宿に帰ったけど、見つける事は出来なかった。

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