第1話 王都スーリヤ
モストハザード領で商人一家のジャーニー家や、領主のリットレイ家にお世話になっていた私は、訳あって王都スーリヤに向かう事となった。
私にはジャーニー家に拾われる以前の記憶が無い。だからと言って、赤ちゃんかと問われるとそうでは無く、生きていくために必要な事は覚えている。でも、家族や友達とか何処でどう生きてきたかは未だに思い出せない。
王都スーリヤに向かう理由が記憶喪失を解決する為の手掛かりを探す事が理由。ジャーニー家のカインドさんから、「国立セレスティア魔術学園に行けば、解決する手段があるかも知れない」的な事を言われて、とんとん拍子で話が進んでいき現在に至る。
編入の手続きをしてくれた領主のオーウェン様の顔に泥を塗らない様に、絶対に国立セレスティア魔術学園に合格しないと!
「ほら、そろそろ着くよ。降りる準備しな」
「わかりました」
両手で握り拳を作り意気込んでいると、御者さんが話しかけてきた。
御者さんには先払いで料金を支払っている。私の荷物は、大きい鞄が1つに腰に下げているポーチくらい。大きい鞄には着替えや消耗品。ポーチにはお金と通行証、他書類が入っている。
これ以上多くなると私じゃ持ちきれないし、現地で買った方が楽だと言われた為、最小限しか持ってきていない。
「っ!、うわぁっっ!!おっきぃ!」
馬車から身を乗り出した私は、身体の何倍もある壁に興味津々だった。
「あれ超えたらスーリヤですよね!すっごい!どこまで続いてるんだろう。モストハザードには無かったですよね、こんな立派な壁!」
モストハザードを囲っているのは、木製の大きな柵。大森林から動物の進行を防ぐ役割があると聞いた事がある。
「あ、あぁそうだな。あそこは魔物擬きを食い止めねぇと行けねぇが、こんな大掛かりな物を作れるほど時間がねぇ」
「壁が無くても屈強な冒険者さん方がいらっしゃいますしね」
「あぁそうだ。嬢ちゃんも何か諍いで困ったら冒険者組合に来な。報酬金次第で助けてやるぜ?」
「はい。なるべくお世話にならない様、平和に生きますね」
そうこうしている内に馬車は関所に到達した。壁の一部が扉になっていて、そこに門番が2人立っている。
えっと、確か、通行証と身分を保証してくれる紙は出し易い様にポーチに入れてたはず。
私の身分は出処不明の為に本来は無い。だけど色々あって現在は、リットレイ家の見習いメイドと言う立場でジャーニー家のカインドさんに仕えている。
「それでは、そこの女の子。通行証と身分証はあるかな?......あれ?親は居ないのかい?」
「えっとコレです。それから親は来ていません。私は学園に入学する為にスーリヤに来たので」
「......よし確認した。モストハザードから来たんだな。結構長旅だっただろ?それにしても領主家の侍従だったのか。ようこそアルカディア王国の王都スーリヤへ。疲れも有るだろう。このスーリヤでゆっくり休息を取り給え」
「ありがとうございます。それじゃ、お元気で〜」
私は大きく手を振ると同時に馬車も前進し始めた。手を振り返してくれるかと期待したけど、門番さんは次の人の相手をしている。
まぁいいや。
そうして私は、王都スーリヤに何事も無く無事に到着したのだった。
御者の人や一緒に乗っていた冒険者の人とも別れて、私は今1人で知らない街を右往左往していた。
「ど、どうしよう、どうしょう!早くしないと宿が埋まっちゃうかも!」
「(落ち着けマリー)」
「あっ、テラ。起きてたんだ。おはよう。それより宿だよ!」
「(この街の地図なら、あの爺さん......ロバートだったか?が描いてただろ?慌てふためく前にまず確認しろよ)」
「そ、そうだったね。そうする」
テラに「おはよう」と挨拶したけど今は夕方に差し掛かろうとしている。モストハザードを出立したのが朝方なので、半日くらい馬車に揺られていた事になる。
地図というのは、王都に行って迷わない様にロバートさんが描いてくれた簡易的な地図。目的の学園や宿泊施設がある区画、商店街など大雑把に場所が記されている。
ポーチから地図を取り出し歩きながら現在地を把握する。
えっと門から左手に進んで来たから......
「きゃっ、あっ、すみません!お怪我はございませんか?」
「あぁ、私は大丈夫。ごめんねお嬢さんこそ怪我は無い?あっ、これ落とし物だよ」
見上げると私よりだいぶ背が高い女性が立っていた。黄橙色の髪を肩にかけ、短パンで脚を出している。
身長たっか。いや私が低いのか。それにしてもすらっとして女性的な体型。
「ぼーっとしてるけど、本当に大丈夫?コレ、お嬢さんが落とした地図だよね?此処じゃ見ない子だけど旅行かな?」
「......あっはい。私のです。いえ、学園に入学したくてスーリヤに来ました」
「あぁ〜あそこねぇ。それじゃお嬢さんは魔術師な訳だ。良かったら案内するよ?今暇だし」
「えっと、学園には明日伺う予定なので大丈夫です。それなら宿屋ってどこにあるかわかりますか?方向だけで教えて頂ければ」
「学園に近い方がいいよね?んーとね......」
そこから私は、名前も知らないお姉さんに宿屋までの道を教えてもらい、「言葉だけだと分かりづらいだろう?」とお姉さんに言われ、結局案内までさせてしまった。
「ありがとうございました!」
「気にしないで、街中で1人小さな女の子が歩くのは何かと危険だしね。それじゃ試験、頑張ってね」
「はい、お姉さんもお元気で」
そういうとお姉さんは、来た道を引き返していった。
名前を聞いたんだけど、はぐらかされるし何より耳が私達より横に長かった。けどそれ以外おかしな所が無かったし、不思議なお姉さんだ。
よし。やっと着いたし泊まれるか宿主と話さないと!
宿に泊まる事の出来た私は、その流れで夕食を食べる事になり、今は宛がわれた部屋に居る。
料金は路銀として、オーウェン様から頂いている。1ヶ月働いた給料と言っていたけど、私には迷惑かけた記憶しか無い......。
これ、学園に受からなかったら私どうなるんだろ。
「学園側にオーウェン様が話を通してあるみたいだけど、前日に顔を出す様に言われてるから明日行かないと。それから覚えた事忘れないように復習して、それからそれから」
持ってきた物を部屋の机に並べて明日の準備をする。
あっそうだこの宿屋、部屋の一室が耐水性のあるタイルになっていてそこで身体を流す事ができる。
「朝から馬車に乗って、夕方から太陽が落ちるまでずっと歩いて......もう無理。いやほんとに......?え?」
身体を流す為に服を脱いでいた私の手が止まる。手が止まると言うか、ふと右手を見た私の目が薬指に固定された。
無い。あるべき物がそこには無かった。
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