第ニ章

プロローグ

「それじゃ、3人とも迷子にならない様に、余り離れるなよー」

「「「はーい!」」」


 今日は夏休み真っ只中。今年の自由研究について坦花と仙莉と話し合った結果、『森に住む生き物達』に決定した。

 内容は、『家近くの森で何処にどんな虫や昆虫がいて、何をたべて過ごしているか』である。

 まぁ、内容を考えてくれたのは坦花と仙莉なんだけど......


 そして今、私一華はカブトムシを捕まえる為にお父さんと坦花、仙莉と一緒に夕方の森へ来ている。


「昼間は凄く暑いのに夕方は涼しいね。少し暗いのが怖いかな......」

「ま、まぁ大丈夫だって、お化けなんて出ないから!ねぇ!仙莉!」

「いやわからない。最近この近くで子供の霊を見かけt」

「やめて!やめて!マジでやめて!本当に幽霊出ちゃうから!」


 全力の否定に坦花も首を縦に振って同意を示している。


「騒ぐのも良いけど目的を忘れるなよ?ま、この山道は多少整備されてるし、気をつけてりゃ迷子にならなそうだけど」


 お父さんが注意を促しながら、持ってきてくれた仕掛けを人数分準備して、それを仙莉に渡している。

 因みに、この仕掛けは2日くらい前に花王家に集まって作った物だ。動画を見ながらお母さんが見守っている中頑張って作った自信作!

 余ったバナナは美味しく私達のおやつになりました。点々のあるバナナは美味しい。


「それじゃ始めるか。纏まって置いて集まらなかったら意味が無いし、せっかく3人いるんだ。少し離れた所に置こう」

「「はーい」」


 仙莉の合図の元、お父さんの目の届く範囲で私達は散開する。




「んっ、よし!このくらいで良いかな......坦花〜どう?出来た?」

「......」


 自分の分を付け終わった私は比較的近くにいた坦花に声をかけた。

 私が坦花の方へ向かうと、それを見たお父さんが私が付けた仕掛けがしっかり縛ってあるか確認をしてくれている。



「大丈夫?手伝うよ?」

「っんと、あ、一華ちゃん。ありがとう。でも出来たから大丈夫だよっ。それより早いね一華ちゃん」


 結びが甘くても後でお父さんが結び直してくれるので、楽しければそれで良い。


「ふふっ〜ん、なにせ初めてじゃ無いからねっ!お父さんと前にした事があるんだ。最初とかお父さんが凄く張り切っちゃってね、沢山仕掛けたんだけど、一華の体力が持たずに途中からお父さん1人で回収してたんだよねぇ」

「一華ちゃん一人っ子だもんね。一華ちゃんのお父さんも嬉しかったんだよきっと。仙莉ちゃんのも見に行こうよ」

「レッツゴー!」


 お父さんがこっちに来るまで話をしていた私達は、坦花の仕掛けがちゃんと付いた事を確認してもらい、最後の1人へと向かった。


「ふっふふ〜、夜ってテンション高くなるよね。なんでだろ。そう言えば、昨日ね......?ぇ?」

「ん?どうしたの?」

「いやっ、あそこに鳥居なんてあったっけ?」


 そう。山道から少しずれた先に真新しい赤い鳥居が建っている。

 さっきまであったっけ?木に隠れて見えなかったのかな?それとも、いやそんなまさか。


「どうした一華?何か珍しい物でもあったか?」

「......えっとねお父さん。あの、あそこなんか無い?」

「ん?いや、何も無いな。ただの森だな」


 お父さんは私の指差した先にライトを照らしじっくり見てくれる。だけど見えないらしい。

 ......いやいやまさか。


「ねぇ、坦k」

「......」


 坦花は目を見開いて鳥居の先を静かに見つめている。え?......奥に何かある?

 見てはならない。と言う気持ちとが有ったけど好奇心に負けた私は、ゆっくりとその先に目を凝らした。

 ?、あれ?女の子?


 遠く離れていて詳しくは見えないけど、白髪で白い布を羽織っている女の子がそこに居た。鳥居が赤く周りが暗いせいか、その女の子がより強調されて目に映ってしまう。

 後ろ姿しか見えないけど、少し上を向いているのはわかる。

 ......どっ、どうしようっ。迷子かな?嫌でもお化けだよね!?どうしてもおかしいよね!?お父さんには見えてないし、絶対おかしい!!


 だけど、好奇心に弱いのが子供の良い所であり悪い所。その時の私は意を決して話しかける決断をした。


「ん、よしっ!いける一華。頑張れ。......っ、おーーい!夜1人でいると危険ですよーー!!」


 離れていたから並べく大きく。緊張をかき消す様に大きな声をかけた。


「......」「」


 隣にいる坦花は微動だにせず、その女の子から返事は無い。

 いや、正確に言うとその女の子は空を見上げるのをやめて、顔を振りながら周りを見ている。


「一華?大きな声を上げてどうした?私はもう終わったよ。そっちは終わったのか?」


 いつの間にか戻ってきた仙莉は、私と坦花の横に立って私達の顔を覗いていた。

 お父さんは、仙莉が付けた仕掛けの確認をしに行っている。


「あっ、いやあそこに女の子......が......あれ?」

「何も無いぞ?」


 一瞬、仙莉に意識を取られた私は、もう一度鳥居や女の子がいた方向に顔と意識を向け直す。

 しかし、そこには木と草しかなく、鳥居なんて何処にもなかった。まして女の子なんて姿形も無い。

 ふと気になって坦花の顔を見ると、目線は鳥居があった場所に向けながら......


「......じょうちゃん、お嬢ちゃん」


 何処からともなく声が聞こえて......




「......ん。ふぁああ」

「大丈夫かいあんた?」


 目を覚ますと私、マリーは馬車の荷台に座っていた。


「いや、苦しそうだったもんでな。起こした方が良いかと思って、無理に起こさせてしまったよ。悪かったな」

「あっ、いえいえ、ありがとうございます。ところで王都スーリヤまで、まだかかりそうですか?」

「んぃや、もう少しだと思うよ」

「ありがとうございます!......ふふっ、楽しみだなぁ」


 御者さんはもう少しで着くと言っている。この1ヶ月。みっちり勉強や訓練をしてきた成果を出す日が目の前に!

 後は何もなく試験に挑む事が出来れば良いんだけど......


 先程見た夢は、朧げにしか覚えておらず、もう殆ど覚えていなかった。


 なんの夢だったんだろう。

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