第14話 表明

 はっ恥ずかしっ!隣でティニーがぽかーんって私を見てるよ!やめて見ないで!

 噛んでしまった恥ずかしさを誤魔化す為に、直ぐに座り直した。少し驚いた表情になった領主夫妻も朗らかな笑みを浮かべている。

 お願いもうやめて。


「君がマリーだね?ははっ!あぁ、私がオーウェンだ。よろしく。記憶喪失だと聞いて不安だったが、しっかりした子じゃないか。君が優しそうで安心したよ」

「......本当にすみません」


 面白そうに笑いながらオーウェン様がフォローを入れてくる。

 居た堪れなくなるからやめてほしい。

 

「そうだティニー、ミラなら自室にいる。話が長くなるだろうからね、遊んでもらうと良い」

「!ありがとうございます!オーウェン様!それではお母さま。ミラお姉さまと遊んできますわ!」


 退室が許されたらティニーは、元気よくけれどはしゃがない程度に部屋から出ていった。

 羨ましい。


「さて、マリーも慣れてきただろう?そろそろ本題に行こうか。マリーを王都に行かす為の通行証の発行だっけか?カインド」

「えぇそうです」


 通行証は本来、商人、学生、学者等、例外はあれど基本書類だけで貰える物だという。通行証と言うのは、身分を証明する物であり「私はこの土地から来ました」と言う事を証明する他領、他国で通じる身分証だと聞いている。

 冒険者を含んだ各地を渡り歩く生活をしている人間には、荒くれた者が多く事件を起こしやすいとの事から、ほぼ発行していないらしい。


「僕としては、マリーを学園に行かせて上げたい。学費等、必要な物は私が負担します」

「カインドも知っての通り、許可だけならば書面で十分だ。だがその理由が問題になる。彼女を学園に行かせたい。だったか?だがそれは無理な話だ」

「出自が不明な上、マリーの引き取り手が無い。それ故に将来的な国の主要人物が集う学舎に、入試を受ける資格さえ与えられない......」



 カインドさんとオーウェン様は、示し合わせたかの様にスラスラ話していく。

 私に聞かせるためかな?


 私は、ジャーニー家にお世話になっているけどジャーニー家を名乗っている訳では無い。家族では無く、客人として迎えられている。

 別に寂しいとかは思わないし、とても感謝してる。


「そうね、マリー自身はどう思ってるのかしら?」

「え?」

「カインドから詳しい話は手紙で知らされているの。それで?貴女はどう思っているのかしら?私達が動くのはそれからよ」


 カミラさんが私に話を振り、試す様な視線で私を見据える。

 昨日、カインドさんにこの事ついてを聞かされた。この場に来る途中も考えていた。あの提案があったおかげで私の考えは纏まっている。


 よし。


「私は、学園に記憶喪失を戻す手掛かりが有ると言うのなら私は行きたいです。昔の私が何をやっていたか知りたいからです。......それに、カインドさんが言うには、私が持っている力は特殊な様です。気安く他言できない程に。でもっこの力は必ず人の助けになれます!」

「......森で倒れていて、1人になるはずだった私を助けてくれた。そんな優しい方々に恩を返す為に、危険を顧みず助けてくれたカインドさんに少しでもお返しがしたい。っ、その為に知識や経験を得る為に学園に行きたい!......と、思ってます」


 話に熱が入り私の顔は高揚した様に少し赤い。

 私の話終わり、少しの沈黙が訪れた。オーウェンさんは少し驚いた様な、カミラさんは先程と変わらない視線を私に向けている。

 隣にいるカインドさんとハンディさんはどんな表情なのだろうか。


「ははっ!はははっ!いや結構!カインドも随分好かれた物だな?君の口からしっかりと聞けてよかったよ」


 オーウェン様は額に手をやり大きく笑われた。カミラ様はやれやれと頭を振っている。

 どう言う事だろ?

 そんな事を思っていると、オーウェンが話を続けた。


「だがね、マリー?それを成すには問題がいくつか有る。まず一つ、先ほども話していたが、君には身分を証明する者が居ない。そして一つ学力だ。ハンディに教えて貰っていると聞いているが、それだけでは足りない」

「そして最後に、それらに付随する事だが諸々の教育面だ。作法、礼儀、風習。色んな事が記憶の無い君には足りて無い」


 言われてみると確かにそうだ。学力で言うなら頑張ってはいるけど、ティニーには劣る。それに教育面。最低限は教えて貰ったけど、貴族が居る学園で通じるものでは恐らく無い。


「......す、すみません。......高望みでし、た」


 現実を突きつけられると無茶を言ってしまったと理解できる。出来ればもう少し常識を知った上で言うべきだった。


「いや、別に攻めてる訳では無い。むしろ好感を持ったよ。そうだな。君がこの条件を飲んでくれればば、その問題の解決に助力しよう」

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