第13話 領主

「んっ。ふぁぁあ」


 目を開けると、そこには毎日見てる天井。えっと、昨日何があったっけ。

 眠たい目を擦りながら体を起こし伸びをする。

 あぁ、そうだった。アレからカインドさんは部屋に戻ったんだ。それで領主さんには今日会いに行くんだっけ?


「テラ?起きてる?」

「(んぁ?ふぁあ。今起きた)」


 足元で丸まって寝ていたテラが私の膝に乗って来た。なぜ足元?

 テラは妖狐。一見するとただの狐だけど尻尾が3本ある。今日は外出するし、厄介事になる前に指輪になってもらおう。


「今日は領主さんに会いに行くから、出来れば指輪になって欲しいんだけど」

「(あぁ、良いぜ)」


 綺麗な青緑の宝石が施されたシンプルな指輪が私の右手人差し指にはまった。そう言えばテラってどこでこの指輪を知ったんだろうか。

 そうこうしていると、この部屋に向かう足音が聞こえてきた。早足を響かせる音の主は、今回はちゃんとゆっくり扉を開けてきた。


「おはようマリー!朝よ!お母さまが下で待っているわ」

「おはようティニーちゃん、ティニーちゃんも領主の家に行くんだったよね」

「ちゃんは要らないわよマリー?そうね、私も行く事にしたわ。久しぶりにミラお姉さまに会いたいもの!」


 ミラって誰だろう。それにお姉さま?

 私はベットから立ち、食卓に向かう準備をする。待ってるのなら、顔を洗ったり髪を整えるのは後で良いかな。着替えたり最低限だけして向かおう。


「わかった。直ぐに行くね」




 今日は珍しく、ビゴアさんとカインドさんも一緒に朝食をとった。

 領主に挨拶に行く面子は、ハンディさん、カインドさん、ティニー、そして私。ビゴアさんは店を切り盛りをすると言っていた。

 ハンディさんと領主夫妻は学園時代からの知り合いで今でも友好的な関係らしい。その流れでカインドさんと領主の娘さんとは仲が良いとか。

 ティニーの言ってたミラさんは領主の娘さん?




 朝食を食べ終え、身支度を整えた私達は領主宅に向かった。さほど離れていない為、徒歩で向かっていた。

 そして今領主宅に着いたばかり。

 ジャーニー家もそれなりに大きい家だったと思ったけど、庭とかあるし流石領主って感じ。

 来ている服は、ハンディさんに前に買ってもらった数着のうちの一つ。大丈夫かな?この服、何回か着てるけど汚れてないかな。


「お待ちしておりました。ジャーニー家の皆様方。リットレイ家にお仕えしている執事長のロバートと申します。以後お見知り置きを」

「この間はいきなり押し掛けて悪かったね、ロバートさん」

「いえ、ハンディ様。対応に遅れが出てしまったのは、我々の落ち度です。それより、旦那様と奥様がお待ちです」


 そう言って、ロバートさんは、中庭を通り屋敷へと私達を案内してくれた。門を通ると夏の花が綺麗に咲いている中庭がありその奥に大きな屋敷が存在している。

 この屋敷、何人で手入れしてるんだろ。




 廊下も埃一つ無く、とても手入れが行き届いる。あの花瓶とかどのくらいするのかな?落としそうで近づきたく無いわ。

 そうやって多少キョロキョロしながら連れられて、やってきたのは応接室だった。

 入室すると、とても綺麗な背の高い女性が最初に目に入った。すらっとした体型でそれなりに胸もある。重たく無さそうなシンプルな服だ。

 隣には、細身で優しそうな男性が座っている。女性が白髪なのに対し、男性はジャーニー家と同じ様なブロンズの様な髪色をしていた。服装も執務をするためか、そこまで大仰な装飾類は無い。

 この人が領主さんだよね。大人と話す時って悪い事して無くても少し竦むよね。いやまぁ、私は迷惑かけっぱなしなんだから余計に。


 そんな事を思いながら、他3人の行動を習い促されるまま席に着いた。


「よく来てくれたね。ハンディ、カインド。カインドと合うのは去年ぶりだね」

「久しぶりだねぇ、オーウェン様」

「お久しぶりです。オーウェン様、この度は私の提案を聞いていただけ」

「カインド、堅苦しい事は無しで良い。ここには口調を咎める輩は居ないのだからな」


 最初に話を切り出したのは、優しそうな男性......えっと名前はオーウェン様だっけ?

 ティニーは誰かを探す様に来た時からキョロキョロしている。

 朝に言っていたミラさんを探してるのかな。


「可愛い子ね、ねぇハンディ?その子がマリーかしら?聞いていたけど黒髪で黒目って珍しいわね」

「あぁ、カミラ。この子がマリー。ほらマリー?挨拶しな」

「!ミスター・オーウェン・リットレイ、ミセス・カミラ・リットレイ。おっ、お初にお目に掛かります、マリーと申しましゅっ!」


 中庭、屋敷、領主夫妻、全てに圧倒された私は、緊張で頭も舌も回らなかった。話を振られた私はその場で立ち、教えられた動きを思い出す。

 結果、ここに来る途中にハンディさんから教わった言い回しは噛んで終わり、動きはぎこちなくなった。

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