第12話 理由
聞いてみたかった。最初に会った時のカインドさんは、ビゴアさんとの会話に混ざるだけだった。その時点では何も思っていなかった。
次は朝に彼が居なくなる事だった。聞くと鍛錬をしているらしい。今思うと魔術や剣術を自主的に励んでいたんだろうと想像が付く。
その次は、物を運ぶのを手伝ってくれた時だ。あの時は優しいと、彼と付き合う人はきっと幸せだと感じた。
その次は、薪が無くなった時だ。本当に何も関係無いのに、頼んでも無いのに手伝ってくれた。その時はただ面倒見が良いのだと感じた。
その次は森へ開く前の準備。次に私を助けようと危険を顧みず前に立ってくれた時。
見返りを求めず、面倒臭がらない。お礼をしたいと言ってもはぐらかされる。右も左も分からない私にとって、すごく助かったのも事実だ。
彼に対して、嬉しくもあるし怖くもある。頼れるからこそ助かっている。
.....でも、そこまでしてもらう理由が無い。
だから本人に真剣に聞きたかった。
「......そうだね。あまり人には話したく無いんだけど聞いてくれるかい?」
「はい。聞かせてください」
そこから語られたのはカインドさんの過去だった。
「アレは12歳の冬だった。1年生の頃だったよ」
「勉強もそこそこ出来て、魔術だって人より色んな事が出来た。だからかな。その時の僕は増長していたんだ」
「......周りに危害を加えたりはしてないよ?ただあの頃は、何でも出来ると勘違いをしていた」
「僕がいた塔とは別の塔でね、いじめが起こっている事を知ったんだ」
「貴族が平民をだよ。今は昔みたいに貴族と平民に圧倒的な差がある訳じゃ無い。それでも無い訳じゃ無いんだ」
「親や周囲の教えに偏りがあれば、その子供はズレて成長する」
「......ごめん話がズレたね。それを知った当時の僕は、その子を助けたいと思って行動したんだ。話を聞いて、仲裁して、一緒に勉強をして、先生方の手も借りて」
「それでもいじめは終わらなかった。その頃の僕は、自分の事を弱者を守る英雄だと勘違いをしていた」
「そんなある日、その彼女から呼び出されてね。マリーと同じ様な事を言われたよ「何でそんなに助けてくれるの?」ってね」
「それで僕は「可哀想だったから」と答えてしまったんだ。そう。最低な答えだよ。それを聞いた彼女がどんな表情をしていたかなんて覚えてない。そもそも見えてなかったのかもしれない」
「そして数日後、彼女は学園から失踪した。理由はいじめによるストレスが耐えられなくなった。と聞いている」
「......本当にそうなのかな。あの時、彼女に寄り添えていたら。先にいじめていた貴族を対処出来ていたら彼女は死ななかったかもしれない」
「その時に思ったんだ。僕がもっと強ければ、もっと優しければって。だからコレは僕のエゴを満たす為の行動なんだ。あの時の辛さをもう知りたく無いから、僕はこうして優しく生きる」
「ごめんね。僕は完璧な人間じゃ無い。ただ目の前で人が居なくなるのはもう嫌なんだ」
流石に背負いすぎだとか、優しすぎるとか、手を広げすぎだとか、場違いな感想が頭をよぎるが、それは言わなくて良い事だ。
話し終えたカインドさんは、とても辛そうだった。思い出して悔しいのか泣きそうなのか、何よりも辛そうだった。
「......えっと、その。ありがとうございます。カインドさんに助けて頂いて、とても感謝しています」
「?マリーが言う事では無いよ」
「違います!違うことは無いですけど、それでもです!言わせて下さい」
最後は泣き声も混ざってよく話せない。
思ってた以上に辛い話が来たのは確かだ。カインドさんが辛い過去を持っていて、それを安易に聞いてしまったのは私だ。
それでもカインドさんには、
「......ひっ、ひっく......あ、ありがとうございます」
「っ!、マリー。うん。ありがとう」
力無くカインドさんが笑いながら、頬を伝う涙をそっと拭いてくれた。
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