第10話 テラ
「大丈夫!?マリー!!」
目の前から聞こえるのはカインドさんの声だ。
驚いて瞑ってしまった目を開けると、剣を持ったカインドさんが妖狐のテラと対峙していた。
「う、うん。大丈夫です。......剣なんて持って、どっ、どうしたんです?」
「最悪だ。ここには居ないと思っていたんだけどね。マリーは危ないから下がってて」
カインドさんは、私を守る様にテラとの間に入りじっとテラを見つめて構えている。
危ない?テラが?私が?それより何でそんな物騒な物をテラに向けてるの?
「カ、カインドさん。その子は別に」
危険じゃない。そう言い終わる前にカインドさんが声を荒げて話を遮った。
「魔物だよ。大森林での目撃例なんて無かったから油断していた。アイツらは人に害をなす悪だ」
「!?」
カインドさんのあまりの気迫に目を見開いた。
こんなカインドさんは見た事が無い。いつも優しくて落ち着いた彼とは余りに違う。
なんかこう、必死さがある。
「(テラも何か話してよ!)」
「(お?もうコレが出来るのか)」
一切話さないテラを睨み、彼に恨み言を吐いたら伝わってしまった。
「(まぁ、一部だけ見りゃ間違ってねぇが、そもそも原理が違うからな)」
「(なんでそんな落ち着いてるの!?......?って、この会話ってカインドさんには聴こえてない?)」
「マリー、あまり言いたくないけど、この魔物は強い。時間を稼ぐからその間に逃げるんだ」
あー!もう!!何が何だかわっかんない!!
大森林に入ったらリス達に誘拐され、テラの傷を不思議な力で癒やし、次はカインドさんとテラの敵対ときた。果てには、テトは前の私を知っていると言う。
今にも斬りかかりそうなカインドさんの背中に思いっきり叫ぶ。
「待ってください!!カインドさんの勘違いなんです。その子、テラって言うらしいんですけど、怪我をしていて、私が助けたんです。それでえぇっと......その前にリスがですね......」
「(マリー、話が纏まってねぇぞ)」
「うるさいなぁ!元はと言えばテラのせいじゃん!」
纏まりそうだった内容は、話し出したらすぐに霧散する。言いたい事が多すぎて全然纏まらない。
「......落ち着いてマリー。僕の早とちりだったのかな。マリーはその魔物は知り合いなのかい?」
カインドさんはテラを一瞥して私に向き直る。
「っその、ごめんなさい。わ、私はさっき初めて会いました。......でもテラは、記憶を失う前の私を知っている様です」
「なるほどね。魔物が対話できるなんて聞いた事が無いけど......それは魔物、テラだっけ?テラから聞いたのかい?」
「はっはい!カインドさんがやってくる少し前です。そう言えばテラってカインドさんと話せないの?」
そもそもテラが直ぐに弁明してくれれば、あんなに殺伐とはしなかったはず。
「(無理だな。この兄ちゃんには資格が無い)」
「(資格?)」
「(この兄ちゃんが精霊と無理やり契約してるっぽいな。俺ではどうしようも出来ん)」
どうゆう事だろう。いまいち分からない。
「マリー?」
「あ!あぁ、ごめんなさい!えっと、テラとの会話は無理だそうです」
「どう言う事だい?」
「私も詳しく分からないのですけど、精霊と契約してると無理だそうです」
「(まぁそうだな)」
それから、テラの事。私の記憶の事。リス達に誘拐されてからカインドが助けに来るまでの事を説明した。
因みに、立って話す事に疲れた私は切り株に腰を掛け座っている。テラは私の膝の上で丸まっている。
この妖狐、自由すぎない?
カインドさんは、相槌を打ちながら聞いてくれていたが、私がテラの傷を癒した事を話すととても驚いた表情になった。
「マリー?テラの傷を癒したって本当かい?」
「吐血して死にかけてたテラが、自由に動けているので多分そうです。?何か不味かったですか?」
カインドさんの気苦労をこれ以上、増やす事は避けたい。
「そうだね、基本的に魔術で治癒は出来ないとされてるんだ。今、生きてる人で出来るのなんてほんの数人だよ」
「(テラ?どうゆう事なの?)」
「(ん?正しくは、マリーの中に居た精霊の残滓が治癒をしたんだが、今となっては関係ねぇな)」
「(なんで?)」
「(俺とマリーで契約が済んだからな。自由とまでいかなぇが、ある程度力は使えるぜ)」
「いつそんな事したの!?」
「どうしたんだいマリー?」
おっと、驚きの余り声が出てしまった。
それにしてもいつだろう。テラは私の事を知ってるみたいだし、その時かな?だったらそれは私との契約じゃ無いんじゃ?
「あぁ、ごめんなさいカインドさん。テラが言うには、コレからも少しなら力が使えるみたいです」
「......なるほどね。ん〜どうしようかな。流石に僕だけでは決められないよ。でも、それよりも先に考える事がある」
本当に困っているのか、カインドさんは頭を掻いている。
何かあるのかな?
「コレからテラをどうするかだ。今でも信じられないけど、事情の知らない人がテラを見たら魔物と見間違う」
テラを見た人全員が魔物と勘違いをするのでは無く、学園等の教育を受けた者だけらしい。
「今回みたいに会う人達に説明を?」
「いや、前提としてマリーが記憶喪失でテラと話せるのが現状マリーだけ。と言う事実を信じてもらわないといけない。その方法は現実味に欠けるかな」
「(俺なら人魂っけか?あん時みたいにマリーの中に入れるぞ?)」
「(そうなんだ?妖狐としての身体はどうなるの?)」
「(妖狐ってな、化けるのが得意なんだわ)」
「マリーって、たまに無言になるよね」
あぁ、そうだった。口に出さないとカインドさんには聞こえないんだった。
......もしかしてこれから先、会話を二重でしないといけない?
「えっとですね、テラがテラ自身の能力で解決出来るって言ってます」
「へぇ、見せてもらっても良いかな?」
「(あぁ、良いぜ)」
聞こえないのに反応してどうするのテラ。
そうすると、テラが私の膝で丸まっていた形から、ちゃんと背を正して待てのポーズをとった。
そこから先は一瞬だった。テラが少し光ったかと思ったら、膝の上にいたテラは消えていた。
「!?!?テラ?どこ行ったの?」
「(右手の人差し指だよ)」
私の右手の人差し指には、小さな青緑の宝石をあしらったシンプルな指輪がはまっていた。
これがテラ?の身体?
「凄いね。それなら言わないと気が付かないよ」
「?言わないと?」
「あぁ、その指輪から微弱だけど魔力が漏れててね。マリーから魔力が漏れてるって事で説明が付く程度だよ。安心して」
「(むしろ、この小ささまで抑えた俺を褒めても良いぜ)」
まぁ、カインドさんから見て不都合が無いならそれで良いのかな?取り敢えずこれで他の人に見られても問題無くなった。
「よし!ここでずっと話すわけにも行かないし、一旦、大森林を出ようか」
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