第9話 祈り
動物達に連れられ私は森を歩いていた。鬱蒼と草木が生い茂る森ではあるが、私が歩く先には、不思議と草が短く歩きやすい。
何処に向かってるんだろう?
私を先導しているのは先ほどのリス。周りを見れば多数の生き物が各々の速度で私と同じ方向に向かっている。話しかけようにも相手に人間がいない。
本当にどうしよう。
などと考えていると、終わりの無い様に思えた木々が途切れており、円形状の何も無い空間が見えて来た。
正確に言うと、何も無い訳では無い。中央に大きな切り株があり、その上に狐?が横たわっている。地面は芝生かな?明らかにそこだけ別世界だった。
「......えっと、それで、私はどうすれば」
連れてきたリス含め多数の生き物達は、この空間を囲む様に空や木や地面に佇んでいる。
?どうしよう、全くわからない......
「(...華?、いちか?そこに居るのいちかか?)」
「!!!?え?何!?!?誰!?」
突然、頭の中に声が反響し、驚いて辺りを見渡すが当然そこには人は居ない。
明らかに異質なのは、切り株に横たわっている狐だ。茶色の毛並みで、顎や頬から股にかけては白の毛並みをしている。そして尻尾が3本ある。
体格が小さいからまだ子供なのかな?
「(久しぶりだな、いちか。覚えてるか?)」
近づきながら観察していると、また頭に直接声が響いてきた。
「はっ、始めましたて?だよね。......この声は貴方?それに私、イチカ?さんじゃ無いですよ」
「(......あ、あぁ。そうだった。彼女達は成功したんだった)」
悲しそうな声が聴こえた。
「(それじゃあ、初めまして。俺の名前は、......そうだな。テラって呼んでくれ)」
「テラ。......うん、わかった。私はマリー。よろしくね。それよりここは何処?私は何で連れてこられたの?」
「(よろしくなマリー。ここは大森林の一区画だ。お前を連れて来たのは、俺と言うか......精霊の残滓?まぁ結局は俺だな。を助けてほしいんだ)」
そういうと狐のテラは、ゆっくり身体を動かしてこちらを向いた。
「!?」
口の周りは血を吐いた様に赤黒くなっている。今にも死にそうだ。
「......だ、大丈夫?じゃないよねコレ。わ、私、手当ての仕方なんて知らないよ」
「(そうだな。今のお前にはそれは出来ない。ただ願って触れてくれるだけで良いんだ。そうすれば後は彼女が行うから)」
彼女?さっきも彼女達って言ってたし誰の事だろう。でも私は生憎、傷を治す力なんて持ち合わせていない。......人魂?今も多分、私の中にいる謎な存在。アレが彼女?
わからない。けど、流石にこんな姿は可哀想だ。初めて見る狐だけど、少しでも力になれるなら。
「わかった。どうなるか分からないけど、やってみるね......ッ!!」
テラと名乗る狐は、近くで見ると疲れ切った表情をしていた。不安を抱きながら私は怪我を負っている狐の前で膝を曲げ、目を瞑り祈る様に優しく触れる。
すると狐が淡く光だし、それに呼応する様に中央にいる私達に風が集まり始めた。
大丈夫。私が助けてるから。
髪や服がなびく中、まだ奇妙な現象は終わらない。私と狐を囲む様に黄緑の光が周囲の木々より高く昇る。
そして、私の中に居た人魂が胸の上辺りから出てきた。その感覚に驚いて目を開ける。
「(久しぶり。また宜しくな)」
テラが優しい声音で人魂に話しかけている。
人魂は私達の周りを嬉しそうにくるくると回った後、テラの中に入っていった。
何が起きてるのよ。ほんと。
「(よし、ありがとう。もう良いぜ)」
「そうなの?」
何も納得してないけど、本人が良いって言うなら良いか。
テラに触れていた手を離すと先程の現象が全て止んだ。
「えっと、その。さっきのは何?貴方は何?」
「(俺の名前はテラ。種族は妖狐って事になる。さっきはマリーが持って行った精霊の残滓を返して貰ったんだ)」
「よ、妖狐?それに精霊の残滓???」
「(ごめん。今のお前にはわからない事だらけだよな。話せる時が来たら話すよ)」
テラは先程まで死にかけた姿をしていたのに、今は私の足元まで来て元気に歩いている。
ほんとなんなのよ。
「それで私はどうなるの?カインドさんの所に帰りたいんだけど」
「(あぁ、帰すぜ。コレから俺もついてくけどな)」
「!?!?」
何を言ったのだこの狐。
「(そんな驚くなよ。そもそも俺はお前を守る事を約束してんだ。害は無いよ)」
「守る約束?、さっきのイチカさんだっけ?その人と?」
「(いや約束をしたのは別の相手だ。ん〜、詳しくは言えねぇけど、前のお前にとって大切な人だよ)」
「......」
誰なんだろう。そもそも何でテラは私の過去を知ってるの?守られる必要がある人だったの?わからない。
「(まぁ、なんだ今後もよろしくな)」
前の私を知っていそうな発言。本人も害はないと言っている。そして、イチカさんじゃないとわかった時の声。全てを信じるわけじゃないけど、私は彼を信じてみたい。
「わかった。私も貴方をしn」
言葉を言い終わる前に、気づく事も出来ない速さで私は背後に飛ばされた。
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