第8話 誘い

 大森林へ行くと決意した次の日の朝。カインドさんに教わりながら森に入る準備をしていた。目的は薪を取りに行く事だけど、私では木こりができない為、細い枝の収集が主な役割になる。

 私の持ち物は少なく大きな籠を背負い、ベルトに小型のナイフやノコギリを装着して準備は完了した。

 それほど離れた場所に行くわけではなく、近場で薪や枝の採取をすると聞いている。

 森で迷子とかなりたく無いしね。


「それではカインドさん。よろしくお願いします!」

「準備は終わったね?それじゃあ行こうか。危険は無いと思うけど、森では余り離れないでね」

「はい。迷子になりません!」


 そして、私達は森へと歩き出した。


「思ったんですけど、この領内にも木が沢山ある場所が有りますけど、そこじゃダメなんですか?」

「あそこは果物だったりを育てていて、他人の所有物なんだ。勝手に取るわけにはいかないよ」

「それで森まで行くんですね。帰省中なのに勝手に予定を作ってしまってすみません」

「良いですよ。ずっと家に居てもする事は限られてますから」


 ほんと優しい人。婚約者の方もさぞ嬉しいでしょうね。

 守衛に事情を説明し、「カインドさんが居るなら」と大森林へ入る事を許可を貰った。

 ここの人達から随分信用されているよね。まぁ、コレだけ優しくて強くて賢ければ......何それ完璧じゃん。


「さ、着いたよ。余り離れないでね?マリーには、落ちてる枝をお願いするね。」

「わかりました。......かなり森が続いてますね」


 視界の先には、身長の何倍もある木が生い茂っている。草の高さも私の半分かそれより低いくらいまで伸びており、危険だという事がわかる。


「所々、木が倒れてるだろ?あれは凶暴になった動物が木を倒した跡だ。冷静に対処すれば逃げる事は出来る」

「凄いですね。あんなに大きな木を倒してしまうなんて......」

「そうだね。見つかる前に終わらせようか」




 そして私は枝の回収を始めた。近くでカインドが太い枝を樵っている。......この大森林で私は倒れていたんだよね。

 目的地に来たは良いものの特に何かを思い出せる気配は無いなぁ、無駄足?

 まぁ、私も枝を探しますか。


「あっ、可愛い」


 下を向いて歩いていたら小さなリスが視界に入ってきた。私は目線を下げる為に足を曲げて、地面に付かないくらいまで腰を下ろす。


「どこから来たの?......って言っても言葉わからないよね」


 そうするとリスが私の前までやってきて「キュルキュル」っと鳴いた。口には何も咥えていないのか、そこまで膨らんでいない。

 どうしたんだろう?


「?......!?」


 リスに目を奪われていた私は、周囲から別の鳴き声が聞こえる事に気づき、ふと周りを見ると色んな動物が私を囲んでいた。

 兎、トンボ、カマキリ、キジ、鼠。他にも私の知らない生き物が沢山いる。

 ?なんだろ?......襲ってくる訳では無いのよね。どちらかと言うと、友好的な雰囲気すらある。


「......カインドさんの所に行かないと」


 可愛い動物に囲まれてるけど少し怖い。こんな事ってあるのかな?戻って聞いてみよう。

 そう考えて腰を上げ振り返るとあり得ない物が目に入った。


「!?!?、え?なんで、は?」


 後ろを振り返るとそこには森が続いていた。


 いや、有り得ない。だって私座ってたんだよ!?

 大森林で1人になった事がとても不安で焦りが出てくる。前後左右どこを見ても、開けた場所が見えないくらい木々が生い茂っていた。

 何したっけ?リスを見て、座って、他の生き物がきて......それから何かあった?リスが鳴いた?でも、そんな事で何か起こる訳が......


「キュル、キュル」

「?」


 先ほどのリスが私の足元に来て私の顔を見ている。


「まさか貴方がしたの?でもなんで私?取り敢えずカインドさんの所まで返してくれる?」

「キュル」


 リスが鳴くと他の生き物達が急に動き出し、私が進む道を作るかのように同じ方向に動き出した。

 え、何この大移動。遭難して動くのは怖いけど、もしかしたら帰る道かもしれないし......ん〜〜、


「?キュル?」

「わかった。少し不安だけど、貴方に着いてく事にする」


 悩んでいても仕方ないと、動物達に誘われるまま私は前に歩き出した。

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