第6話 決意

 ジャーニー家に私が拾われてから数日が経過した。

 ハンディさんの厚意で服や消耗品を揃えてもらい、身寄りの無い私の生活を支えて貰う約束として、任された仕事を行う様になった。

 仕事とはいえ、ジャーニー家が行う商会について知識や信用の無い私は、物を運んだり在庫の確認など比較的簡単な事を指示されている。

 恩を受けてばかりだし少しは返さないとね。


「っんしょ、っと......えっとコレはあそこの棚だったよね?」


 私が行なっているの仕事は、在庫のある部屋から売買がされる部屋の棚に商品を移し綺麗に陳列する事。

 お店はジャーニー家に隣接する形で建っており、早朝から当日分の商品を並べている。

 木箱は少し重たく、数回往復するだけで腕が限界になってしまう。

 ん〜、私に体力が無いのは寝ていたからなのかな。それとも記憶を失う前から?


「おはようマリー、店の手伝いかい?ほら貸して、僕が持って行くよ」

「おはようございます。カインドさん。いえ、後はコレだけなので、私が持って行きますよ。ありがとうございます」

「そうかい?じゃあ僕はこの小さい方を持っていくよ」


 そう言うとカインドさんは、木箱の上に置いてあった袋を持ち上げた。

 ......サラッとそういう事しちゃうんだ。

 彼は早朝から彼の父ビゴアさんと朝の鍛錬に外に出ており、朝食を食べる時間がずれる事がある。その為、こうして仕事場で顔を合わせる。

 私と同じくらいの年齢だよね?体力あるよね男性だからかな。


 私達二人は接客を行う広い部屋へと歩き出した。


「カインドさんって、ほぼ毎日朝から剣の修練をしてらっしゃいますよね。いつから始めてるんですか?」

「6歳の頃から体力をつけ始めて、翌年から父から剣術を教わったね。ここの土地は凶暴な動物が多く出るから、子供の頃から教わるんだ。剣の鍛錬に興味がお有りで?」

「あぁ、いえ、した事が無い?と思うので興味は有りますけど、私の体力と筋力では無理ですね」


 苦笑しながら返答をする。

 実際、日常的に行なっている商品の運搬ですら体力と腕の筋力が限界なんだよね。鉄の塊みたいな物を振り回す力とか絶対無い。

 ......そういえば、記憶を失う前の私はどういう生活をしてたんだろう。


「あっそうだ、ティニーと随分と仲良くなった様だね。ティニーは......少し我儘な所があるけど、今後も仲良くしてやってほしいかな」

「はい!ティニーちゃんとても優しいですよね。私の名前を考えてくれたのもあの子ですし」


 とティニーちゃんの事について話していたら私達の後ろから足音と可愛い声が聞こえてきた。


「お兄さま!マリー!おはようございます!」

「おはようマリー、今日の勉強は良いのかい?」

「おはようございます。ティニーちゃん」

「えぇ、今日は。お母さまからお店の売り子をしてほしいと言われましたの。お兄さまとマリーも店に行くのでしょう?」


 それから3人でまだ客が来ていない部屋に行き、カインドさんとティニーに手伝って貰いつつ商品の整理を始めた。

 カインドさんもティニーも、お店を手伝い始めた頃は、私と同じ様な仕事をしていたみたい。


「お兄さまは凄いのですよ!すぐに算術が出来る様になりましたし、力持ちです!王都にある学園でも成績が良いんです!」


 と、自分事の様に兄を自慢するティニーの姿はとても可愛い。


「王都?学園?カインドさんはここに住んでいる訳では無いんですか?」

「普段は王都の寮に住んでいるよ。毎年この時期は授業が無くてね。こうやって帰省しているんだ」

「なるほど、今みたいにビゴアさん達のお手伝いもされて、とても家族想いなんですね」

「お兄さまはとても優しいのっ!」

「ふふっ、そんな事はないですよ。何かしていないと落ち着かないだけですから」


 その後も学園や王都の事について、カインドさんから色々聞いていた。

 カインドさんが在籍している学園は、5年制であり12歳から5年通うらしい。殆どの生徒が貴族でカインドさん達平民は、出自を調べられ厳しい入試に合格する必要があるという。

 貴族......貴族かぁあんまり馴染みの無い単語だなぁ


「おーーい!!」あんた達!準備は出来たかい?今日も始めるわよ!」


 元気なハンディさんが部屋に入ってきて、私達の会話はここで区切りとなった。




 アレから接客や品出し、在庫の確認等を行なった後、ハンディさんからこの国で使用されている言葉と数字を教わった。

 一緒にティニーも学んでいて、ハンディさんが言うには、ティニーは学園の入試に合格できるだけの知識があると言う。


 そして今、夕食を食べ終わり、一人自室に来てきた。


「さっ、今日も勉強をしなくちゃ!」


 椅子に座り、取り出したのは絵本と紙と羽根ペン。この間、ハンディさんと買い物に行った際に無理を言って買ってもらった物である。

 文字を読む、言葉を話す。と言った事は人魂が私の身体に入っている限り、不自由なく行える。けれど、人魂もいつまで居るかわからないし、覚えておいて損はない。そんなモチベの元で始めた勉強である。


 私自身、記憶が無い。と言う事はわかるのだけど、その記憶がどれだけ重要だったかがわからないから、今の生活で手一杯だったりで記憶を取り戻すために直接的に何か動いている事は無い。

 実際、記憶の取り戻し方なんてパッと思いつかないんだけどね。

 なので、当面の私の目標は、この生活に慣れる事。そしてジャーニー家に恩を返す事に決めた。


「よし、がんばろっ!」

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