第4話 名前

「んっ。ふぁぁあ」


 目を開けると、そこには昨日も見た天井。昨日、ジャーニー家で大黒柱を担っているビゴアさんの計らいで、これからの宿泊を許された。

 昨晩の夕食後、ハンディさんに元いた部屋に案内してもらった。私自身わからない事や変わる状況に疲れ、そのまま眠りについた事を覚えてる。


「あっ!そうだ。そういえば、人魂さんずっと私の体に入ってるよね?多分」


 上半身を起こし胸に手を置く。

 確認する手段が無いため感覚でしかわからない。でも昨日感じていた脈の高さも感じられない。

 伸びをして、きのうの夜にあらかじめ準備しておいたお水を飲む。......ぬるい。

 顔を顰めていると、この部屋に向かい走ってくる足音が聞こえてきた。昨日はビゴアさんが近くにいたが、1人で起きられる。と判断したのか今日はいない。

 ハンディさんよね?走ってきて何かあったのかな。


「おはよう!ご飯できてるって!!」


 扉を開ける大きな音と同時に元気な声が入室してきた。その正体は、長女のティニーちゃんだった。


「おはよう、ティニーさん。朝から元気だね。今日、嬉しい事でもあるの?」

「貴方の方が年上なんだしティニーで良いわよ。昨日私、お夕飯を食べ終わったら寝てしまったじゃない?だからね?今日、貴方とお話しするのが楽しみだったの!」


 さ、行きましょう!と右手を差し出した。

 話してる時、身体を小刻みに揺らしていて、とても可愛い。


「ありがとう、ティニーちゃん」

「むぅぅ。それより貴女、記憶が無いのよね?ん〜〜。っと。そうね。どうお呼びしたら良いかしら」


 横に並んで歩き始めたティニーが私を覗き込んできた。ティニーの身長は、私よりも低い。その為、上目遣いで私を見ていて幼さが増している。

 本当に記憶喪失なのかな?物の名称とか覚えてるし。あ、だけど名前とか大切な事は忘れてるのか。

 ともあれ、今の私に名前が無い。あったのかもしれないけど、思い出せないのなら新しい呼称を付けないと、何をするにも必要だよね。


「それもそうだね。名前、今後も生きて行くなら必要よね」

「ん〜、名前、名前〜。......あっそうだわ!マリーってどうかしら!貴方といると少し暖かく感じるし、私の名前と響きが似ているの!」


 どう?と両手を後ろで組み、楽しそうに笑みを向けてくる。

 私といると暖かくなる。とは謎だけど、マリーか。可愛い響きだし、マリーって花の名前だっけ?

 まぁ、でも一旦この名前で良いかな。可愛いし。


「マリー。うん。ありがとね、ティニーちゃん!!」


 返答が遅かったのか不安げな顔をしていたティニーだったが、私の返事を聞いた途端、パァっと明るい笑顔になった。


「ふふっ、好きよマリーっ!」


 笑顔で抱きつく姿はとても可愛いけど、なんでこんなに好かれてるのかな。昨日は殆ど話せて無いから、今日初めて会うはずよね?。あぁ、意識の無い私を洗ってくれたんだっけ?

 けどそれで好かれる?ん〜?


「何を悩んでいるの?着いたわよ!お母さま、マリーを連れて来たわ!」

「あれ?早かったね。マリー?、?あ、嬢ちゃんの事。名前を思い出したのかい?」

「いぇ、記憶はまだです。名前はティニーちゃんが付けてくれました」

「こらティニー、嬢ちゃんは物じゃ無いんだからダメだろ?勝手に名前をつけちゃ」


 まぁ、子供の遊び心でも親切心でも名前があって損は無いし、そこまで可笑しな名前では無いから私としては問題は無い。


「ハンディさん、私なら大丈夫です。名前が分からなかったので、むしろ助かってます!」

「そうかい?まぁ、本人がそれで良いなら文句はないさ。でもねティニー。良かれと思ってもそれが本当に相手の為になってるとは限らないんだ。覚えておきなよ」

「わかったわ、お母さま。......けど、今回はマリーも許してくれたし、良いわよねっ」

「本当にわかってるんだか。さ、朝食だよ!席につきな。それでマリーは今日何するんだい?やる事が無いなら手伝って欲しい事が有るんだけど、いいかい?」


 昨日、今後の予定についての話をビゴアさんに後回しにされたが、私が寝た後に2人で話し合ったのかも知れない。記憶も気になるけど、当面はここの生活に慣れないと。


「お役に立てるかわかりませんが手伝わせて下さい!」

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