第3話 現状確認

 今私は2人に連れられ別の部屋に移動している。私がいた部屋はどうやら2階だったみたい。他にもいくつか部屋があるけど、食卓は1階かな?大きそうな家だけど、何をしている人たちなんだろう。

 私は歩く女性の後を追い、私の後ろには男性がいる。チラッと振り向くと少し驚かれた。


「さ、着いたよ。席は何処でも......そうだね。ここにしな」

「はっ、はい!わかりました!」


 女性はそう言うと、テーブル右側中央を指差した。机の上には料理が並べられており、私達3人の他に2人分の用意がされている。どれも美味しそう。

 そうすると女性は他の家族を呼ぶためか、部屋から出ていってしまった。

 席についた私を見た男性は、少し安心した様に声をかけてきた。


「さっきより落ち着いたみたいだな。ここらじゃ見ない顔だが、何処から来たかわかるか?」

「......と、その。っ?あれ?」


 あれ?そうだ、私って何処から来たんだっけ。私、なんて名前だっけ。最後に覚えてるのは、ついさっきの起きた時?

 ん??だけど会話は出来てる。物の名前もわかる。体は赤ちゃんではない。


「青ざめてるが嫌な事でも思い出したか」

「いぇ、その、大丈夫......です。それよりも私」


 信じてもらえるかな。この事を言わずに好意に甘えても良いんじゃ?。

 いや、寝ていた私を介抱してくれたのはこの人達。話せる事は話そう。

 そして、私は胸に手を当て深く深呼吸をして勇気を振り絞る。


「私。記憶を無くしている、と思います」


 おじさんは驚いた様に目を見開いた後、疑いをかける目で私を顔をジッと見つめてきた。

 怖い。睨みつけないでよ。


「......というと?どいう事だ?」

「自分が誰だかわからないんです。名前や出身、どうやって生きてきたのか。思い出せないんです」


 話の途中で俯いてしまった。ちゃんと私の声は聞こえたかな。


「あぁ、責めてるわけじゃないんだ。泣きそうにならないで。色々とおかしい事続きだからな。俺も混乱してるんだ」


 ガチャ


 部屋の扉が開き、先程の女性と男の子と女の子が入ってきた。2人の子供なのかな。


「さっ!席につきな。折角の料理が冷めちゃうよ」

「はーい!お母さまっ」「......」


 女性が着席を促し、2人の子供はそのまま席に着く。背丈の小さい女の子と、私より身長の高い男の子だ。目を背ける様に食器に目をやると、大人2人とは違う物が使われてる事に気が付いた。子供専用なのかな。


「えっと、さっきの話なんですけど......」


 私は小声で男性に向けて、さっきの続きを話すのか聞く。


「いや、飯にしよう。話は食べ終わってからでも遅くないさ」




 食事が終わり、その後、私の事についてジャーニー家と話し合った。私が何処で倒れていてここは何処なのか。色んなことを教えてもらった。

 まず、ここはガーダス大陸と言われている。そこには4つの国と1つ大きな森で出来ているらしい。


「そして、今いる国がイーグネス王国。4ヶ国の内、1,2番目に治安が良いのが特徴だな」

「うん。今の帝国と比べる全然良いよ」


 ビゴアおじさんの説明に相槌を打ったのは、長男のカインドさんだった。清潔感のある外見をしていて、話し方も丁寧な人。こちらを見て頬を掻きながら少し照れた表情をした。


「大陸中央にある大森林は、どの国の領土でもない。が、その大きさは国一つあると言われている。いくら帝国でも侵攻して来れないよ」

「その国、帝国に何かあったんですか?」


 治安で比べられたり侵攻がどうこう等、不穏な感じがするが好奇心に負け質問をした。


「今、帝国領内で叛乱があったらしくてね。その影響で流通が滞ってる物があるのさ。早く終わってほしいものだね」


 答えてくれたのは、ハンディおばさんだ。手をひらひらさせながら呆れた表情をしている。

 ジャーニー家はこの領地内で商人をして生活をしていると聞いた。旅商人をしていたビゴアさんがこの地でハンディさんに一目惚れしたとか。いや、今はそれはいい。

 ちなみに私は、大森林で倒れていたそうだ。ビゴアさん達が狩猟に出かけた際に、私を見つけ保護をしてくれたらしい。服は泥に塗れ手足に擦り傷も多かったと聞いている。

 なんで私はそんな所にいたのかな。


「そうだ。服や体を洗う時に、持ってた物を調べさせてもらった。洗ったのは妻と娘だ。そこは安心してくれ」

「いえ、ありがとうございます。それと私、何を持っていましたか?」


 現在、私は少し大きめの服を着ている。てっきりこの服で倒れていたと思っていたけど、発見された時は別の服を着ていたらしい。

 ちなみに、今の私は綺麗で少し良い香りがする。石鹸か香水が有るのかな。


「コレなんだが、なんだかわかるか?」


 そう言って机の上に置かれた物は、全体的に白が多い薄い板だった。一面だけ黒くなっており、除いた私の顔が反射して見えている。

 初めて見る物だ。


「......覚えが無いって感じだな。コレがなんだか分からんが、大抵こう言った物は帝国の技術だ」

「帝国って、この国より凄く進歩してますからね」

「あぁそうだ。なぁ嬢ちゃん。嬢ちゃんが良けりゃこの白い板、俺に売ってくれないか?」


 ビゴアさんは真剣に私を見て聞いてきた。

 どうだろう。一応は私の物らしいけど、記憶を思い出す手掛かりになるかも知れない物。使い方がわからなくても手放す訳には......


「売るって表現が正しく無かったな。俺がしたいのは、コレの解析と技術があれば作成だ。嬢ちゃんはこの先、生きていくなら金や場所が必要だろ?ここなら部屋を貸せるし飯も出せる。

一度助けた手前、記憶が無い嬢ちゃんを放り出すのも気が引ける。まぁ、つまり。この板を担保にして生活を得ないか?」


 なるほど、ビゴアさんの確かに言う通りだ。この先どうするか考えもいなかった。名前や出身、他にも欠如してる記憶を探そうにも、生活が無いと話にならない。

 記憶を無くす前の私が使っていた物を手放すのは怖いけど、私を思って提案してくれている。だったら私も覚悟を決めるべきだ。


「.....はい。お願いします。その、出来れば壊さないでほしいかなって」

「ははっ、わかった。滅多な事が無いと壊れ無いと思うが絶対は言い切れない」


 不安が残る。でも、何もしないより前進した方が良いよね。っと自分に言い聞かせておこう。

 ん?私の中にいる人魂が何か言いたそう?


「言い忘れてたが、ここで飯を食べる以上ちゃんと働いて貰うぞ。まっ、その辺は明日からだな」

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