第1話 遺跡

 知っている言葉を忘れ、知らない言葉で話す貴女。今までの物語を捨て、新しく進み出す貴女。私は全てを受け入れる。だからね。お願い。ここまでまで辿り着いて。そして私を......




「はっ!」


 目に映るのは見慣れない天井。

 寒気により目覚めた私は、先程起きた事が現実だったと認識して不安になる。上半身を起こし周囲を見渡す。

 全体的に暗いが所々、石が光っていて視界は確保されている。今いる場所は入り口なのか少し先には草が生えており、目を凝らすと木が生い茂っていた。風に揺れる葉の音が怖さを引き立たせる。


「いやいや、ほんと何処よここ!まぁ、確かに家は田舎だけど、こんな場所聞いたことも見たこともないんだけど?それに......」


 立ち上がり歩いて部屋を散策していると不思議な事に気がついた。


「ここ入り口じゃ無いの?なんで土とかゴミが無いのんだろ」


 こんな扉も無い開放的な入り口なら、室内に何が入ってきたり劣化してもおかしく無さそうなんだけど。

 汚れが無かったり石が光ってたり、この世の物とは思えない。


「清潔というより潔癖。もはや神秘的ですらあるわね」


 

 こんな状況じゃなければ観光したかも知れない。そんな事を考えつつ、外に出るか、部屋の奥に進むか。それ以外にこの場で出来るが無くなった。どうしよう。

 数分考えた後、部屋の奥に行くことにした。

 別に外が寒そうとか、暗い所が怖いとか、部屋の方がなんでか少し明るいとか、そんな理由じゃないし!!

 だいぶ怖くて泣き出しそう。けどここで待ってても何も起きないし、行くしかないと覚悟を決める。やだなぁ。

 光る石を道標に歩いた先には、大きな扉が開放されていた。そこから先は下り階段になっていた。


「大丈夫。大丈夫。暗くないから平気よ、私」


 けれど何事も無く下る事ができた。目の前にはまた開放された扉。警備緩くない?こんな汚れ一つ無い綺麗な場所なのにね。泥棒とかきたどうするのかな。

 そう言えば風の音が聞こえない。


「担花〜!!!仙莉〜!!!誰か居ないの〜〜!!!」


 雰囲気に多少慣れてきた私は、おかしな現象が起きる前に一緒にいた2人名前を大声で呼ぶ。反応は無しか。

 行き止まりに来てしまった。基本一直線だったのだが、少し前の通路にて両サイドに、別の部屋があるのを確認していた。あそこを探してみようかしら。

 そして振り返った時、あまりの衝撃で尻餅をついた。


「!!?!!?いやいや、え?ゆぅれっ......」


 目の前に、薄水色に光る人魂がいた。私の顔くらいの大きさだ。腰がひけて動けない私に、その人魂はふわふわと空中を浮き、私に近づいてくる。


「......あっ、えっと。その......ごめんなさい。ごめんなさい。勝手に入ってごめんなさい!!!」


 あまりの恐怖にとうとう情緒を崩した私は、その場に蹲り必死に誤り続けた。

 え?何?幽霊?なんで?ここってお墓なの?いゃでもっ!怖い無理怖い!!あっ


「あッーぁぁあああーーーッ!!あぁぁあああッーーー!!」


 できる限り叫んだ。蹲り耳を塞ぎ目を閉じて思いっきり叫んだ。静寂の中、私の叫びか泣き声がわからない絶叫が響く。

 叫んだ所で何かが起こる訳では無いが、恐怖に対し奮い立たせてきた私の心は限界に近かった。




 アレから、どれだけ時間が経ったのだろう。少し寝ていたのかもしれない。相変わらず音はしないし薄暗い。


「お母さんお父さん...怖いよぉ」


 もう無理だ。頑張ったでしょ私。

 担花が居てくれれば、護ってあげようと頑張れた。

 仙莉が居てくれれば、私より落ち着いて物事に対処してくれる。

 親が居ればもっと安心出来る。

 けど、今は私しかいない。突然部屋が暗くなり1人になったと思ったら、次は知らない部屋。地下に行ったら幽霊?と出会うし。

 誰でも良いから助けてほしい。


「ひっ、ひっ、ぐすっぐしゅん」


 また涙が溢れて鼻水も出始めた。


『ーー、ーーーーーー』

「ひっ!!?えっ?」


 私の泣き声以外に他の音がしない中、不意に別の音が聞こえてきた。音と言うより声かもしれない。


『ーーー、ーーーーーー』

「呼んでるの?どこにいるの?」


 上手く聞き取れないが優しい声音に安堵した。そして声が聞こえなくなって数分後。

......よし。誰か居るなら会ってみよう。幽霊も怖いけど,ここにいても変わらないよねっ。

 グッと胸の前で拳を握り勇気を振り絞る。


 そうしてやけに綺麗な場所を徘徊していると、大きなの両開きの玄関ドアみたいな物を発見した。

 2〜3mくらいあるかも知れない。まぁ、とりあえずっ!


「んっ!よいしょっ!!...って、案外開くのね。...っ!!!」


 体重をかけ玄関ドアを開ける。そこは目を見張るほど広い円形の空間だった。

 そして次の印象は綺麗だった。いや道中もゴミなどは一切無く、清潔感はとてもあった。だけどこの空間は更に異質だった。まるで、この部屋が建物の主だと言わんばかりに多種多様な花が部屋一面に咲き誇っていた。

 その中央に天蓋付きのベットが1つ置かれている。1,2歩前に進みその中に目を凝らしてみると、


「ん?誰だろ......少女?さっき話しかけてくれた人?あれ?いやでもあの子って」


 それなりに距離が離れている為、大体しかわからないけど多分あれは女の子。しかも私と同じくらいの年齢かな。


「流石にこの花達を踏んで進むのは、バチが当たりそうね」


 綺麗に植えられた花には、これ以上この部屋への入室を拒んでる様に感じた。

 これ以上、怖い事が起こるのはもう嫌。仕方ない立ち去ろう。と振り返った時、頭の片隅に追いやった恐怖とまた出会ってしまった。


「ぁっ。うそよ。ぁぁあぃや いや!!」


 薄水色に光る幽霊(?)に怯え体が勝手に一歩下がってしまった。振り返っていた私の後ろには綺麗な花畑。


「えっ!まっ」


 考える間も無く足が動き、花を踏みつけた。

 数秒の静寂が訪れ、私が心配していた事が杞憂だったと理解する。はぁ、良かった。


 「はぁ、はぁっ 疲れてるのかな」


 安心したら汗が出てきた。手足が若干震えている。息が苦しい。少し動かないと...

 辿々しい足取りで、花の部屋から離れようとゆっくり動きだす。張り詰めた緊張が解けてしまったのか一気に疲れが押し寄せてくる。

 ......なんでここに居るんだっけ。あぁもう無理。......死にたく無い

 幽霊は怖いけど、今は少しでも明るいのが助かっている。ゆっくり歩いていた足が止まる。

 あぁダメだ、水が欲しい。汗も酷い。息が....できっ


 どさっ


 静かな空間で大きな音を立ててモノが倒れる。

 ......あぁ、なんで。なんでよ......

 ......これが全部夢なら


 倒れた少女の息は薄く、全てを諦めた瞳は瞼に閉ざされた。

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