第5話 招かれざる乱暴者:Road
〜前回のあらすじ〜
レクイ村を出発したロードとデップであったが、道中で謎の男に襲われる。これを撃退し、サザリ村へと到着したロードたちに、男の親玉・パルテルの魔の手が迫る。
ロードとデップは、サザリ村の村民・ショウに導かれ、村の中へと入っていった。
「とりあえず、俺の家に来な。積もる話もあるしな」
目的地はショウの家。村の入り口に比較的近い位置にあった。
「おう。でも、久しぶりに来たが、全然変わってないなぁ」
デップは、村をキョロキョロと見回しながら呟く。
道中、デップの顔見知りたちが何人かおり、ロードの紹介も兼ねて挨拶を交わしていた。
「レクイ村とは雰囲気が違うな」
ロードにとっては、レクイ村の以外でははじめての村である。どこか物珍しげに村の光景を見ていた。
「村によって個性があるってこった。俺もここは中々気に入ってんだ」
デップは笑った。
「俺も、どこか落ち着ける感じがして気に入った」
「ほお。嬉しいこと言ってくれるね、兄ちゃん」
ショウとしても、自分の村が褒められるのは良い気分だ。
そうしてしばらく歩くと、ショウの家に着いた。こちらもまた、デップの家と同じ二階建てで、木造の家である。
3人は家に入り、荷物を下ろして客室の椅子に腰を掛ける。部屋の中は所々派手な装飾が施されていて、ショウが意外にもオシャレ好きであったことが分かる。
テーブルにはいくつかの茶菓子が用意され、談話が始まった。
「ふーん…。じゃあ、兄ちゃんは記憶喪失ってわけなのか」
やはり、ロードのことが話題となった。
「そうみたいなんだ。で、自分探しの旅に出たってわけだ」
「ほー。ところで、その奇妙な文字が掘られたペンダントってのが気になるな。ちょっと見せてもらえるか?」
「分かった。…これだ」
ロードはズボンのポケットの中からペンダントを手に取ると、ショウに渡した。
「どれどれ…。何じゃこりゃ?」
「やっぱ、お前も読めないか?」
「うーん…。こんな文字見たことないなぁ」
ペンダントの向きを変えてから見ても、じっと目を凝らして見ても、やはり見覚えのない文字であった。
「これをロードと読むのか…」
少し考え込むように頭を掻くが、やはり見当もつかない。
「すまねぇなぁ、兄ちゃん。どうやら俺じゃ力になれそうにない」
ショウは申し訳無さそうにペンダントをロードに返す。
「いや、確認してもらえただけでもありがたい」
ロードはそれを受け取り、またポケットに入れた。
「デップも俺も、同じ文字を使うんだ。この国の連中は大体同じだと思う。でも、他の村人たちにも一応確認しておいたらどうかな?爺さん婆さんなら知ってる人もいるかもしれないしな」
「ああ。そうしてみるつもりだ」
「そうそう、それだけじゃないんだ」
デップの表情が少し強張ったものになる。
「ここに来るまでの間、よく分かんねぇヤローに襲われたんだ」
「襲われた?」
ショウは驚いていた。
「何で襲われたんだ?」
「それも分からないんだ。ただ、そいつはロードを狙ってたみたいなんだよ」
「兄ちゃんを…?」
「まあ、ロードがそのヤローは撃退してくれたから、俺は無事だったんだがな」
「へぇ。兄ちゃん強いんだなぁ」
「俺も、何故自分が戦えたのかは分からない。体が覚えていた、という感じなのだろうか」
「記憶は無いが、体は覚えてる、か。それだけ染み付いた動きってことなんだろうけど、増々兄ちゃんのことが分からないねぇ」
「その襲ってきた者だが、この国の住人ということはあるか?」
ショウは少し考える。
「うーん…。現場を見てないから可能性がゼロとは言えないが、そんな血の気の多いやつは俺の知る限りではいないな。この国の連中は皆、争い事は好まないんだ」
「それは俺も同意見だ」
デップがショウに同意した。
「加えるんなら、あんたを狙ってきたってことは、記憶を失う前のあんたに関係があるんじゃないか?」
「もしそうなら、直接話を聞きたいところだが、それ以降奴は襲ってこなかった」
「まあ、そんなヤローが素直に質問に答えるとは思えないけどな」
デップは軽く笑った。
「さ、暗い話はこれでおしまいだ!こっからは俺の村の話をしようじゃないか」
ショウは両手をパンと叩いて、それまでの話に区切りをつけた。
「そうだな」
サザリ村は、住民が50人ほどの小さな村である。そのため、村人同士の結束は強く、全員が顔見知りである。村人の多くは主に畑仕事に従事しており、それによって採れた野菜によって他の村との交易を盛んに行っていた。村人は穏やかな者が多く、当然ロードたちを襲った者は村人ではなかった。
「まあ、何日かはウチに泊まっていきなよ。デップも、久しぶりにサザリ村を堪能してくれ。兄ちゃんのペンダントのことも、色々聞いて回るしさ」
「ありがとう。俺が目を覚ましてからは、親切にされてばかりだ」
「当然のことさ。兄ちゃんはゆっくりしておきな」
夕暮れの時。1日の仕事も終わり、村人たちに安息がもたらされる時がやって来た。
誰もがそう思っていた。しかし、安息が訪れることはなかった。
「きゃぁぁあ!?!?」
突如村に鳴り響く、女の甲高い悲鳴。それは平穏を打ち砕くには十分なものであった。
「ん…?」
旅の疲れもあり、仮眠をとっていたロードはその叫び声に目を覚ます。
「何だ!?」
2階にいたショウとデップは急いで階段を下りてきた。3人は扉を開け、家を出る。
すると、村の入り口より前、つまり畑地帯に筋肉質な男たちが8人立っていた。全員、ノースリーブのレザージャケットを着ており、見るからに村人ではない。男の1人は、村人と思われる若い男の首を片手で掴み、体ごと持ち上げていた。
「やめて!!サムを放して!!」
その男の腕に、先程悲鳴を上げたと思われる女が掴みかかる。彼女は、若い男・サムの妻であった。
「邪魔だ女!」
男はもう片方の腕で女を弾き飛ばす。女は尻もちをつき、顔を歪めた。
「で、どこにいるんだ?白髪のロードって野郎はよ?仲間がここに入るのを見てたんだ、いない訳がねぇ。とぼけるのは賢いとは思えねぇぜ」
「ぐ…し、知らない…!」
サムは目を強くつぶっており、歯ぎしりをしていた。苦しみはもう限界に達している。
「本当に知らないんだ…!」
サムはロードが来たとき、顔も合わせていなかったため、本当に知らなかった。だが、男にはそんなことはどうでもよかった。
「あぁそうかよ。そこまで言うんならしょうがねぇ。死ね」
男は拳を思い切り振り上げ、サムの頭に振り下ろそうとした。その瞬間、男に声が発された。
「待て」
「ん?」
男たちは、声のした方へと首を向ける。
「その人を解放しろ。お前たちが探しているのは俺だ」
「あ?」
男は眉をひそめてロードを睨みつけた。
「お頭、もしかしてあいつが…」
「そうみてぇだな」
お頭ことパルテルは、ロードの姿を見てニヤリと笑う。
「あぁ、そうかい。だが、どの道こいつは殺す!」
一度は止めた拳を、もう一度サムへと振り下ろす。
しかし、それは叶わなかった。
「なっ…」
拳よりも速く、ロードの正面からの蹴りが、男の腹へと命中したのだ。
男は後方へと吹っ飛ばざれ、サムは解放された。
「げほっ…げほっ…」
サムは着地と同時に咳き込み、うずくまる。
「サム!」
女がサムに駆け寄る。
「2人とも、はやく逃げろ」
「は、はい!」
女はサムに肩を貸し、足早にその場を立ち去った。
「ほぉう…?」
パルテルはどこか面白げにロードを見下ろしていた。
「お前たちは何者だ。何故、俺をつけ狙う」
ロードは男たち、とりわけその頭領である大男・パルテルを睨みつける。
「てめぇの事なんざ知らねぇが、てめぇを殺せと言われてるんでな。ついでに、この世界を滅茶苦茶にしろとも言ってたなぁ」
パルテルは下卑た笑みを浮かべながら語る。
「何?」
「だから、てめぇを殺した後、村の連中も皆殺しにしにするのさ。ここの野郎共は、どいつもこいつも貧弱そうでよ。どう泣き叫ぶのか、楽しみだぜ」
「貴様…」
ロードのパルテルに対する敵意が増々強まった。
「それに比べたら、てめぇは少しは強そうだ」
男たちは一斉に構えを取った。戦いは、じきに始まる。
(こいつらの狙いは俺だけじゃない。村人を人質にとることも考えられる)
ロードは、村人への危害を恐れていた。
「皆、できるだけ遠くへ逃げろ!こいつらは何としてでも俺が止める」
外で一連の様子を野次馬的に見ていた村人たちは、大慌てで逃げ始めた。しかし、このような状況は始めてであるからか、呆然として動けない者もいた。
「はっ、させるかよ。てめぇと一緒に村人も殺してやるぜ」
パルテルの部下の1人が、立ちすくんでいる少年に向かって飛びかかる。まだ10歳ほどの少年は、恐怖で足がすくんでしまっていた。
「!?」
「させん」
しかし、暴漢の強襲はまたもや防がれた。ロードは瞬時に男の眼の前に現れると、その顔を右手で鷲掴みにし、その頭を地面に叩きつけた。
かなりの音が響く強さであった。ロードが手を離すと、男は白目を向いて気を失っていた。
「何してやがる!はやく逃げるぞ!」
立ちすくんだ少年を見かねたショウが走っきた。そして、少年の腕を引っ張って逃げていく。
「!ヤロー…」
パルテルは、今度ばかりは目を見張った。ロードは、自分が予想していたよりも、かなりの強敵であった。
「くそっ、てめぇさっきはよくも…」
先程ロードに蹴られた男が戻ってきた。痛みに顔を歪めながら、腰元に手を回す。
「ぶっ殺してやる…」
男が取り出したのは短刀であった。他の部下たちも短刀を取り出し、ロードを囲む。その数は、6人。パルテルは腕を組んでその様子を眺める。
「まずは、てめぇらでやれ。てめぇらで敵わなけりゃ、俺が出てやる」
「分かったぜ、お頭!」
「数で攻めるか…」
ロードは、自分を囲む男たちを注意深く見る。
「殺れ!!」
パルテルの命令と同時に、男たちは大声を発しながらロードへと向かっていった。
「死ねぇ!」
部下の1人が、ロードの首を目掛けて短刀を突き出す。
「…」
彼はこれを難なく躱す。その背後から別の男が、今度は背中を目掛けて短刀を握り、突進。ロードは、短刀が触れる寸前でしゃがむようにしてこれを避けると、その男の足を払った。
「うわっ!?」
足が地面から離れてしまった男は、ロードの方に頭を向けて転倒しそうになる。
「ふん!」
ロードはその隙を見逃さず、男の顔面めがけて殴打を直撃させた。
「ばっ!」
無防備な所に、鋭いパンチ。男は離れた所まで吹っ飛ばざれ、脳震盪を起こしたのか痙攣している。
「そこだ!」
ロードに隙ありと見た4人の部下が、彼に急接近。四方向から、一点集中の刺突である。
「はっ!」
すると、ロードはその場から跳んだ。
「何っ!?」
標的を失い、立ち止まろうとする男たちだが、走っていたため制止が効かない。そのまま、互いが互いを刺してしまっていた。
「いでぇ!?!?」
刺された部位は腕や肩など。何とか急所には刺さらなかったようだが、全力の刺突だけに痛みは凄まじく、刺された部分をおさえて悶え苦しんでいた。
ロードはその様子を見ると、着地と同時に手を地面につけて逆立ちをする。すると、カポエイラのように脚を回転させ、4人の男たちの顔面を蹴り飛ばした。
「ぶぎゃっ!」
「べらっ!」
「だん!?」
「ひぎっ!」
各人各様の間の抜けた悲鳴と共に、男たちは敗れ去った。
「あ…なんてやつだ…俺じゃ敵わねぇ…」
最後に残った男は、最早戦う気力は残っていなかった。足は震え、短刀は既に手放していた。
「…」
ロードは、残った男を睨みつけた。そして、ゆっくりと歩いてくる。
「や、やめろ!降参だ!あんたにゃ勝てね」
勝てねぇよ。そう言い終える前に、剛腕が男の顔面を粉砕した。
「けっ、情けねぇ。敵を前に怖気づくとはなぁ」
パルテルは血まみれになった拳を振り、血を落とす。
「残りは貴様1人か」
「そういうこった。そんでもって、てめぇの最期だ。ハァ!!」
パルテルはその巨大な右腕に力をこめると、ロードに振り下ろした。
ロードはこれを後退して回避。拳は地面に激突し、大きな窪みを作り、砂塵が舞った。
「まだだぜ!」
パルテルはすかさず、左腕での殴打を繰り出す。砂塵は一気に晴れ、ロードの眼前には凶器とも言える剛腕が現れる。
だが、ロードはまたもやこれを躱した。
「チッ。すばしっこい野郎だ。とっととくたばっちまえよ」
パルテルは再び右腕に力をこめると、第3のパンチを放った。
轟音が鳴り響く。パルテルは確かな手応えを感じ、彼の口角は釣り上がった。
しかし、彼の思い通りにはならなかった。
「何っ!?」
その巨腕は、ロードの右手によって完全に受け止められていた。
(こんな細っこい腕で、俺のパンチを…!?)
細っこい腕。あくまでもパルテルに比べたらの話ではあるが、一般的に見てもパルテルほどの腕をロードが止められるようには思われない。腕が粉々になりそうなものだ。だが、ロードは止めていた。痛みも無い。
「…!」
驚愕のあまり動きが止まったパルテルであるが、ロードはそれを見逃さなかった。
即座にパルテルの胸元へとまわると、その分厚い腹筋に素早く正拳突きをした。
「ぐ…?」
ロードの拳が、パルテルの腹にめり込む。
意外にも、大声は発されなかった。というよりは、発せなかった。あまりにも鋭い痛みに、冷や汗が流れるだけである。
今度は、ロードの連続攻撃。腹筋に高速でパンチの連打を喰らわる。
「がはっ…!」
腹部への容赦無い連撃により、パルテルはついに血反吐を吐いた。ロードは軽く跳び上がると、今度はパルテルの顔面に同様の連続殴打を放つ。
「ぬぉ…」
最早彼に反撃の力は残っていなかった。ロードはパルテルの頭に左脚から蹴りを放ち、それにより吹っ飛びそうになったところに高速で右脚による回し蹴りを浴びせ、ついに攻撃を止めた。
パルテルは吹っ飛び、ぐったりと倒れ込んだ。ロードは彼のもとへとゆっくりと歩いていき、近くで立ち止まる。
「貴様の負けだ。最早戦う力は残っていないだろう」
「ぐ…て、てめぇ…!!」
「命までは取らん。だが、俺の質問に答えてもらう。貴様たちに指示を出したのは誰だ?」
「はぁ…はぁ…へっ!知らねぇなぁ…」
パルテルは嘲るように笑い飛ばした。
「…」
すると、ロードはおもむろにしゃがみ、パルテルの右腕を掴んだ。
「な、何をする気だ!?」
「腕を折る」
「なっ!?」
「知らぬ訳は無い。白を切るのならば、相応の対価は払ってもらう」
「ま、待て!女だ!女の指示なんだ!」
「女?どのような女だ」
「それが、俺にも分からねぇ!声しか聞いてないんだよ!」
パルテルの言葉を信じるのならば、女の詳細は分からない。この切羽詰まった状況で嘘を言っているとも考えられなかった。
「女は何の目的で、俺や村人たちを貴様らに襲わせた?」
「それも分からねぇ…。ただ、あんたの名前と特徴だけが教えられた。それと、あんたを殺したら、他の人間たちも殺せと…」
「…では次の質問だ。貴様たちはどこから来た?この国の住人ではないのだろう?」
「あ…あぁ…。俺たちはこの世界の人間でもねぇ!他の世界から来たんだ…」
「他の世界だと?」
「し、信じられねぇかもしれないが、本当だ…」
突然の情報に、ロードは一瞬考え込むが、いったんは思考を止めた。
「どうやってこの世界へとやって来た?」
「そ、それは…。女が俺たちにあんたのことを話した後、女の力で気づいたらこの世界に…」
「女の力、か」
「最後の質問だ」
ロードはポケットからペンダントを取り出し、パルテルの目の前に差し出した。
「これは…」
「貴様に、ここに掘られている文字は読めるか?」
パルテルはペンダントの文字を注意して見てみるが、何もわからなかった。
「い、いや…。俺には何の文字かさっぱりだ…。これ以上のことは、俺は何も知らねぇ…」
「そうか…」
ロードはパルテルの右腕を放すと、こう言い放った。
「約束だ。貴様たちの命は助ける。だが、二度と俺の前に姿を現すな。村人たちの前にもだ。もし、これを破ったら」
「…」
パルテルは恐る恐るロードの顔を見る。
「貴様たちを殺す」
ロードのとても冷たい目線が、パルテルに突き刺さった。村にいた時のロードの顔つきとは全く違う。毅然たる戦士の面持ちであった。
「わ、分かった…。誓うよ…」
「倒れている貴様の部下たちは全員連れて行け。そして二度と帰ってくるな」
そう言うとロードは、踵を返して村へと戻っていった。
夜。ロードに敗れたパルテルたちは、あてもなく森をさまよっていた。
「ぐっ…いてぇ…」
全員、負傷していた。パルテルは腹部と顔にひどい痣ができていて、痛々しい。
「まさかお頭でも敵わねぇなんて…」
「帰る場所も無い…。俺たち、これからどうすれば…」
淀んだ雰囲気が漂う。さながら、敗残兵といった感じであった。そんな彼らは、当然、自分たちに近づいている者がいる事に気づくはずもなかった。
「なるほど。あいつの代償は記憶か」
「…!」
パルテルたちは、全員が声がした方へと顔を向けた。
薄暗い森の影から、1人の青年が歩いてきていた。
「だが、安心したぜ。記憶を失っても、根本的な性格の方は変わっちゃいない。姉上サマみてぇな腑抜けになっちまわなくて、良かった良かった」
青年はケラケラと笑っていた。そして、その姿が明らかとなる。
「だ、誰だおま」
部下の1人が声を発したが、最後まで聞こえることはなかった。その前に、彼の首が転げ落ちていたからだ。
「!?」
青年が何をしたのか、一同には見えなかった。
青年は、手刀で男の首を刎ねたのだ。その動きはあまりにも洗練されていて、その手には血すら付着していなかった。
「見逃されて生き長らえるとは、無様だねぇ」
「な、何なんだてめぇは…!」
パルテルは青年を睨みつけるが、戦う力は残っていない。
「さっき、帰る場所が無いだとか言ってたなぁ」
パルテルの問いかけなど意識の外。青年は部下たちに近づくと、ある者は拳で胸を貫き、ある者は蹴りで首を飛ばし、ある者は手刀で全身を八つ裂きにし…。数々の非道な手段で、部下たちを皆殺しにしていた。
最早、生きているのはパルテルだけになった。
「あ……あ……!!」
パルテルは心の底から恐怖していた。体は震え、立ち上がることすらできない。
はじめ、鮮やかとも言える手刀で血も浴びずに男を殺した青年だったが、今は全身が血に染まっていた。
「何を寝ぼけたことを言ってやがる」
青年は笑みを浮かべながら、ゆっくり、ゆっくりとパルテルのもとへと歩いていく。
「や、やめろ…!来るな!来るな!」
パルテルは震えながら後ずさりすることしかできなかった。
そんなパルテルの肩に、青年はポンと手を乗せ、鼻と鼻がくっつくかと思えるほどに顔を近づけて言った。
「お前らに帰る場所なんか無いんだよ」
青年の黄色い眼が、大きく見開かれ、パルテルの眼を捉える。だが、青年の眼には、人間らしい輝きは無かった。
「おぁぁああああああ!!!!!」
突然、パルテルが悶絶する。あげられた苦悶の声は、徐々にかすれた物へと変わっていき、その容貌もまるで老人のように萎れていった。
あれだけあった筋肉も全て萎れ、手足は細枝のようにしぼんでしまった。パルテルは倒れ込み、動かなくなった。
「けっ、こんなモンかよ」
青年は物言わぬ骸となったパルテルたちを一瞥し、心底つまらなさそうに言い捨てた。
「あれだけ情報を吐いても何も無いってことは、何も仕掛けずに下っ端送ってんのか。隠す気も無いってことだな。こんなクズみてぇなチンピラ送りやがって…」
青年は、気に入らないといった様子で呟く。
「それにしても…」
だが、次の瞬間には青年の口もとは歪んでいた。
「やっぱりロード。お前は俺が見込んだ奴だ。再会を楽しみにしてるぜ…。フハ!フハハハハハ!!!!」
物静かな森に、青年の高笑いが木霊するのであった。
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