第3話 新たな村 邪な影:Road

〜前回のあらすじ〜

湖のほとりで倒れていた記憶喪失の青年・ロードは、彼を救った村人たちと交流を深めた。そして、自身の謎を解き明かそうと思い立ち、新たな地へと旅立とうとしていた。



早朝。ロードとデップは、新たな村へと行くための準備を整え、出発の時を迎えていた。

「よし、じゃあ行くか!」

「ああ、そうしよう」

ロードの見送りには、村人全員が来てくれた。

「ロード君。色々大変なこともあると思うが、君の幸福を願っておるよ」

レクイ村の長老が、ロードに歩み寄る。

「長老。あなたのご好意には感謝しています。このご恩は忘れません」

ロードも長老へと歩み寄り、2人は強く握手を交わした。

「最初はどうなることかと思ったけど、こうして元気に旅立とうとするのは、うれしいことだねぇ」

長老婦人は、どこか感慨深げにそう言った。

「ロード。またいつか、会おうね」

「ああ。きっと、戻ってくる」

ルンとも握手を交わす。一緒にいた時間は短かったが、彼と村人たちの心はしっかりと通じ合っていた。

「じゃあ、皆。短い間だったけど、本当に感謝している。次会う時は、俺も故郷の話がしたい」

ロードは村人を見渡し、彼らの顔を目に焼き付ける。

「じゃあ皆。俺もしばしの旅立ちだ」

デップはそう言うと、荷物を持って歩き始めた。

「元気でね、ロード!」

ルンは手を大きく振った。他の村人たちも、彼の名を呼んで精一杯の見送りをする。

ロードは、背を向けながら右手を挙げて、皆の声援に応える。たとえ距離は離れようとも、彼らの信頼が断ち切れることはないだろう。

こうしてロードは、新たな一歩を踏み出した。



村を出て、ロードとデップの2人旅となった。

「その隣の村は、どんな所なんだ?」

「サザリ村って名前なんだが、ここから歩いて2日くらいの所にあるんだ。爺さん婆さんが多いから、もしかしたらあんたのペンダントの文字について、知ってるかもしれねぇな」

「そうか。それは、期待したいな」

「サザリ村には、大きな畑があってな。そこで採れた野菜は格別だぜ。一度食ったら、忘れられねぇだろうなぁ」

「畑か。そういえば、レクイ村にもあったな」

「おう。レクイ村の野菜も、サザリに負けちゃいねぇぜ?」

2人は、目的地・サザリ村についての会話をしながら歩いていた。途中、休憩のために草むらに座った時に見た、済んだ青空と美しい自然の景色に、ロードは心が洗われる気分がした。

「やっぱ、空はいいねぇ…」

デップもまた、清々しい気分で空を眺めていた。

「昼は青空、夜は星空。空ってのは、どうしてこうも美しいかね」

「その通りだ…」

そして、2人は再び歩き出した。サザリ村への道は、まだまだ遠い。

だが、2人は自分たちに忍び寄る影に気づいていなかった…。


2人は歩き続け、時間は昼を過ぎた頃になっていた。昼食を摂るために荷物を下ろし、準備に取り掛かろうとしている。そして、その様子を、少し離れた所から眺めている男がいた。

「あいつか…くくっ…」

男は、ロードを見てニヤリと笑う。品性を感じられぬ下卑た笑いであった。男は、筋肉質で、上半身の露出度が高い格好をしていた。

「とりあえず、やっちまうか…」

ケラケラと笑いながら、その場から男は姿を消した。


「食料は結構持ってきたから、心配しなくていいぞ。腹が減っては何とやらだしな」

着々と準備を進める2人。

だが、突如として男が飛び出してきた。

「ん…危ないっ!」

ロードはデップに飛びかかり、男の攻撃から身をそらす。

「うおっ!?」

突然のことで、デップは驚いた。

「な、何が、何があったんだ!?」

「分からない。だが、誰かが…」

「フヒヒっ…。今のを避けるとはなァ…」

男がゆっくりと2人に振り返る。

「だ、誰だお前!?」

デップが慌てて男を指差す。ロードも、険しい表情を浮かべている。

「お前なんかどうでもいいんだよ俺は。用があるのはそっちの兄ちゃんだ」

男はロードを指差し、ニヤリとする。

「俺に…?」

ロードにも、事情はよく分からなかった。

「よく分かんねぇが、お前を殺せって言われてるんでなァ…」

「何だって…?」

デップは、困惑しきっていた。あまりにも突然の出来事であった。そして、それに拍車を掛けたのは「殺せ」という単語である。

「俺を殺す…?」

一方ロードは、動揺することなく男をじっと見つめていた。

「そうさ。まぁ、死んでくれや…!」

男はそう言うと、ロードに飛びかかっていった。

「ロード…!」

「デップさん、離れてるんだ」

「オルァ!!」

男はロードの顔めがけて、パンチを繰り出す。

「…」

しかし、ロードはそれを首をそらして避けた。

「ほぉ…」

男はすぐさま、第2・第3のパンチを繰り出すが、これらも全て避けた。

「…?」

ロード自身も、自分がなぜ避けられたのかが分からなかった。

「この野郎…」

男は舌打ちをすると、今度は蹴りを放つ。ロードはこれも、男の脚に軽く手を触れていなすのだった。

「何っ…?」

「はっ!」

ロードの反撃。男の腹に鋭いパンチを浴びせた。

「あがっ!」

更に、追撃の回し蹴りが入る。男は20メートル程吹っ飛ばされた。

「うがぁ…」

男は腹部を押さえてうずくまる。ロードの攻撃は鋭く、重かった。

「な、なんでだ…!!」

男は歯ぎしりをする。完全に舐めていた。自分より小柄なため、簡単に潰せると思っていた。

「…」

ロードは黙って男に向かって歩く。そして、目前まで来ていた。

「立ち去れ」

男を射抜くロードの視線は鋭かった。

「なぜだぁ…!」

男はもう、ロードに向かっていくことはなかった。悔しそうな顔のまま、腹をおさえてふらつく足取りで消えていった。

「…」

ロードは自分の両手を見つめる。何故かは分からない。だが、体が勝手に動いた。自分は、戦い方を知っていた。

「ロード…あんた…」

デップは、一連のロードの動きを見て目を大きく見開いていた。自分たちを襲ってきた謎の男を、ロードは圧倒して追い返したのだ。まだ頭の整理ができないでいる。

「俺は、何故戦えた…?俺の体は、何を知っているんだ…?」

ロードの方も、自身に対する疑問が深まっていた。また1つ、彼の謎が増えたのだった。



何はともあれ、2人は先に進むことにした。そして、日は沈まって夜になる。今日は野宿することになった。

「また、さっきの奴が襲ってくるかもしれない。今日は、交代で見張りをしよう」

「お、おう。それにしても、あいつは何を考えてたんだ?」

ロードを襲った男は、明らかにこの国の者ではなかった。そもそも、この国の人々は皆温厚で、人を襲ったりなどは考えもしない。デップの不安感は膨れ上がっていた。

「奴は、俺を殺すと言っていた。まさか、過去の俺と何か関係があるのか…?」

しかし、やはりというか、ロードはあの男のことを知らなかった。

「あんたが傷だらけで倒れてたのも、奴らの仕業なのかね?」

「分からない。だが、俺は過去に何かしらの戦闘訓練を受けていたのは確かだ。自分で言うのもなんだが、奴の攻撃は簡単に見切れた。記憶は失くしでも、体は覚えているのだろう」

「うーん…」

頭を悩ませる2人だが、何も答えは出ない。そして、デップは眠くなり、あくびが出た。

「デップさん、先に寝てくれ。俺はまだ起きてられる」

「すまねぇな…。今日はあんたに助けられっぱなしだ」

「いや、あの時助けてもらったことに比べれば、これぐらい当然だ」

「そう言ってくれるとは、嬉しいなぁ。じゃあ、後で起こしてくれ。おやすみ…」

「あぁ…」

デップが眠りにつく。ロードは1人、夜空を見上げた。「邁進」の青い星がきらきらと輝いているのが見える。

何事も無く、ゆったりとした旅路になるはずだった。だが、そこに邪悪な影が忍び寄った。最早、レクイ村にいた時の気分は薄れてしまっていた。

「何があっても、突き進めということか…」

ロードの呟きに答える者は、誰もいなかった。



ロードに撃退された男は、あてもなく歩いていた。

「はぁっ…はぁっ…何で俺がこんな…」

彼の頭の中では、ロードへの恨み、苛立ちが募っていた。

「あんな野郎にぃ…!!」

「よぉ」

そんな男の前に、彼よりも遥かに屈強で大柄な、大男が現れた。その後ろには、7人の男たちもいる。

「あ…あぁ…!お頭ァ!」

男は、「お頭」のもとへと駆け寄る。

「どうしたぁ?奴は殺せなかったんかぁ?」

「それが、あいつ何か強くて…」

男がどこか早口で告げる。しかし、そんな彼を、「お頭」は冷たい視線で見下ろす。

「それで、おめおめと逃げ帰ってきた訳か」

「そ、それは…」

「使えねぇ部下はいらねぇ!!」

「お頭」は、男の顔に凶悪な蹴りをお見舞いした。

「ぐぼっ!!」

首の骨が砕ける音がした。男は最早、生きてはいられないだろう。

「奴がそこまで強かったとはなぁ…」

男の無惨な姿には目もくれずに歩き出す「お頭」。彼の部下7人もそれに続く。

「これは、このパルテル様が直々に出向いてやらねぇと駄目みてぇだ」

「お頭」ことパルテルが、やはり下卑た笑みを浮べて高らかに笑った。


その晩、交替で睡眠をとったロードとデップは、ようやく朝を迎えた。何だかとても長い夜に感じられ、どこか疲れていた2人だが、サザリ村に向けて歩き始めた。

「あー、何か寝た気がしねぇわ。あんたはどうだ?」

「俺も、熟睡とはいかなかった。今日は何も無いことを願いたい」

「まったくだ…」

彼らの願い通り、道中で何かが起こることも無く、順調に目的地へと進んでいった。そして、少し遠くに何かが見えてくる。

「あれは…畑か?」

「そうだな。いよいよサザリ村に到着だぜ」

見えたのは野菜畑であった。そこには、作業をしている者が何人かいる。

「おーい!」

デップが、その内の1人に声をかける。

「ん…?おぉ、あれは!」

麦わら帽子をかぶった男が、デップを見るやいなや走り出した。

「デップ!!」

「ショウ!!」

ショウと呼ばれた男に向かって、デップも走り出した。そして2人は抱擁を交わした。

「久しぶりだな!もう何ヶ月も会ってないような」

「あぁ!今日は用があって来たんだ」

「用?」

「実は、この青年・ロードのことで来たんだ」

後ろから、ロードもやって来た。

「記憶喪失みたいでよ、ここで何か思い出せねぇかと思って来たんだ」

「何だって?記憶喪失?」

「まあ、事情は後で話すよ」

「とりあえず村に入れよ。そこのロード君?も」

「ロード、ここがサザリ村だ」

「ショウさん、よろしく」

「おう、よろしくな」

ロードとショウも握手を交わし、村の中へと入っていった。



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