第2話 新たな剣技 〜魔物との対峙〜


 ヴィラレットは、向かってくる魔物を確認していた。


 魔物は、連携することはなく、自分の欲望をむき出しで迫ってくるので、場合によっては、近くの魔物同士が邪魔をしあうこともあるので、今日の戦いの状況を考え、これから起こる自分の戦闘について考えていた。


(これだと、一度に2匹以上を相手にすることになりそうだわ。 魔物に致命傷を一回の攻撃で与えられればいいけど、ダメなら攻撃力を潰して、同時に攻撃を受けないようにしないといけない)


 ヴィラレットは、一瞬、自分の剣を確認するように見た。


(でも、この剣なら、魔物の腕を受け流しつつ、そのまま、胸を抉るように斬ることもできそうだわ)


 ヴィラレットは、向かってくる魔物同士の距離を測っていた。


 同時に複数の方向からの攻撃を受ける事は死を意味する。


 複数の魔物と対峙する場合は、時間差をつけて、1匹ずつ攻撃を加えて致命傷を与えるのだが、ダメだったとしても、一方の魔物の攻撃力を削ぐ必要がある。


 そして、後ろには中衛のフィルルカーシャが控えているので、致命傷を与えられなかったとしても戦力さえ削いでしまえば、とどめはフィルルカーシャに任せても良いのだ。


 ヴィラレットは、向かってくる魔物を倒すシュミレーションをしていると、適度な緊張を感じたようだ。


 そして、最初に対峙する魔物に狙いをつけるのだった。


「ヴィラ、1人で全部を倒す必要はないからね」


 後ろの、背の低いウサギの亜人である、フィルルカーシャから声がかかった。


 16歳のルーキーであるヴィラレットが緊張していると感じたのか、フィルルカーシャは、緊張を解そうとしたようだ。


 その真剣な様子から、ヴィラレットは、自分だけで戦闘を完結させようとしているのではないかと、後ろにいたフィルルカーシャは感じた様子で声をかけたのだ。


「はい、私は魔物の足を止める事が目的ですから、止めは、お願いします」


 ヴィラレットは、自分の心の中を見透かされたと思ったのか、少し恥ずかしそうな表情をしたが、その表情は、後ろのフィルルカーシャには分からないはずなので表情を気にする必要はない。


(いけないわ。 直ぐに自分だけ戦いを完結するつもりになってしまっていたわ。 パーティーは、組織で対処するのだから、初撃を躱して動きを止める攻撃を当てるのよ。 あとは、カーシャさんに任せられるように、大きく動けないようにすればいいのよ)


 少し落ち着いたところに、走ってきた先頭の魔物が、攻撃の間合いになったというように腕を振り上げてきた。




 ヴィラレットは、魔物から視線を外すことなく、その動きを正確に捉えていたので、魔物の攻撃を剣で受けつつ、斜めに受け流すように相手の力を殺していた。


 斜めに受けることで、相手の力を分散させるようにしたのだ。


 相手の力に対して、剣に垂直に受けてしまった場合、簡単に剣が折れてしまうが、受けた刃を軽く引き、剣が斜めにさせて受けることで、剣に掛かる加重を半減させるのだ。


 そのため、ヴィラレットは、最初、剣を水平にして魔物の腕を受けるのだが、その力を利用して剣のきっさきを下ろし、斜めにして受けつつ体を横に移動させた。


 魔物の腕には防御の魔法紋の光が輝きヴィラレットの剣と接触するが、剣は、その魔法紋の光を貫けず魔物の振り下ろす腕によってきっさきが下がった。


 魔物の腕は、剣のしのぎを伝って下がるので、その頃合いを見てヴィラレットは剣を前に出すようにすると、剣は魔物の腕を滑るようにして魔物の胸に向かっていった。


 魔物の胸に刃が掛かると、剣を振り抜いた。


 刃が魔物の胸に大きく沈んでいくと、ヴィラレットは、そのまま引き抜いた。


 その魔物は、胸に大きな傷を負い悲鳴をあげた。


 その手応えを確認しつつ、重傷を負わせたと判断すると、次の魔物に対峙するのだ。


 ごく僅かな差であるのだが、達人の域に達したヴィラレットなら、その僅かな時間差を利用して各個に対峙するのだ。


 しかし、後ろから来る魔物の判断を誤っていた。


 胸に刃を入れた魔物は、後ろのフィルルカーシャに任せて、次の魔物に対峙するのだが、いつもより後の魔物との差がなかったのだ。


 もう、後ろの魔物は、腕を振り上げて下ろしはじめていた。


 その魔物の腕の魔法紋が、ビラレットの目の前に迫った。


(だめ! やられる)


 ヴィラレットは、自分の剣が間に合わないと思ったようだが、視線をその魔物から逸らそうとはせず、ギリギリまで迫ってくる魔物の腕を回避するため剣を使って魔物の腕を回避しようとしていたが、そう思った瞬間、頭上に岩の塊が通り過ぎていき、魔物の胸と顔に当たった。


 その勢いで魔物は後ろに吹っ飛んでいった。


「ヴィラ! 怪我は無い!」


 後ろから、ウィルリーンが、大きな声をかけてくれた。


「ありがとうございます。 私は、大丈夫です」


 そう言うと、今の魔物を確認し、首が無くなっていたのを見ると、次の魔物に目を向けた。


(助かった。 1人だったら、やられていたわ)


 ヴィラレットは、ホッとしたのだが、それを表に出すことはせずに、次の魔物の攻撃に備えた。

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